操演日記−6月−


********** 第1週 **********

 6月1日(月曜)

準備6ケ月を経てクランクイン、初顔あわせとして監督のおごりでうなぎを喰ったのは11月であったか。
 かつてない準備期間のわりには、決定稿完成がインの3日前、コンテ台本が今だ手元に無いのはなぜなのだろうか。

 今回のファーストカットは渋谷パンテオン前に着地したガメラが身を起すカット、陥没した地面からガメラが足を引き抜くと潰れた車やガラが飛ぶ、エア砲を仕込むがミニチュアとガメラの立ち位置の間にスペース少なく、少し面倒。
 最適な圧力を求めて数回テスト、監督がフラッシュも一緒にと言い出しデジタル三味線が最初から出動する、シャミセンより1000年進んだシャミー2000ですというと皆にうける。
 ドキュメンタリー班庵野氏「最近はこういうのもコンピュータですか」と言いながら内部をビデオに納めている、単にリレーの塊なんですが。

 次は噴射の余韻である白煙、監督が押井氏のテスト撮影で見て以来使ってみたくてたまらなかった液体窒素を使う、爆発以外の用途で液体窒素を使ったことがないので発煙のさせかたのノウハウがなく苦労する、テストだけで5リットル瓶がカラになり、10リットル瓶にも手をつけてしまったので昼メシ時に詰めなおしにいかせる。

 本番開始は16時、4テイク撮って18時。

 晩飯後、停止する銀座線のブルーバックの準備
 バスターミナルを踏み潰すガメラの足のアップの準備

 21時終了。

6月2日(火曜)

 9時開始。

 停止する銀座線、モーションコントロールを仕込むがブレーキをかけた車両が「ククククッ」と止まりたいというので(モーターではそんな芝居は出来ないので)手動となる。
 宮益坂からみたハチ公前のガメラをブルーバックで撮っているあいだに、バスターミナルの仕掛け。
 50角モノレール(50×50の鉄パイプをスライドさせる仕掛け)に別あつらえのガメラ足(右足のみ)をくくりつけ壊し用のバスターミナルの上に落す、落ちた衝撃で地面が割れ破片が舞う、当初は合成ということであったがウルトラマンダイナを見た監督が「あのダイナの着地ですよ」ということで一発撮りになってしまった。
 ダイナが着地すると地面から土くれがキレイに舞い上がるというカットである、担当の川口に聞くと平台の裏に5分玉を数個付け上に土を撒いたものであるという、元ネタはガメラ2の電話ボックスである筈だから反射して再び私の手に戻ってきたわけだ。

 テストとしてコンパネ裏に緑弾着(銃から発射された弾の当たりを表現する破裂する火薬である、強さによって色分けされている)を5個付け、石膏ガラを撒いてドンと打ってみると破片は空高く舞いあがり全然NG、茶弾着(緑より弱い)にして数を3個に減らし、石膏ガラの他に土なども撒いてテストしてみると調度よい加減である。

 ここでも液体窒素による噴射の余韻があり、ああでもないこうでもないと試行錯誤する。

 本番の声がかかったのは22時近く、手前のバス停はピントがこないので別撮りということになり。
まず「バス停込みのアタリ」撮影
 (合成の参考用に完成イメージを撮影しておく)
人形をおいて「役者合成用アタリ撮影」
 (後で本編班が人物をブルーバック撮影するのでサイズ等の参考にする) 
「バス停前のマスク」撮影
 (バス停の後ろにブルーバックを置きピントの合ったバス停のみを撮影する)
ライトを消して「バス停の行灯のみ」撮影
 (照明に合わせて絞りを決めると行灯が暗く写るので絞りを開けた素材を撮る)
「バス停をはずしバスターミナル前のマスク」撮影
 (何が必要になるかわからないのでガードレール等のマスクを保存する)
ライトをすべて消して「電飾看板のみ」撮影
 (バス停の行灯と同じ、あとで電飾の照度を調整できるようにする)
と素材がやたらと多い。

 ここでは1発勝負の火薬があるため私は集中力を高めていなくてはならない。
 一週間に1本放映され、1日20カットも30カットも撮影するTV特撮であれば、多少失敗しても「次はうまくやるから許してね」と言うことが出来る(それゆえ新たな技法にチャレンジすることも出来る)
 しかし多額の予算と長い準備期間を費やし、1カットのために何時間も費やしたあげくに1発勝負するしかない映画ではプレッシャーが違うのだ、しかし「本番」の声がかかってから出番がくるまでの時間が長いと緊張感の持続が難しい。

 足の着地に対してて私の火薬のタイミングが僅か遅れた、4倍のハイスピード撮影なので気になるかも、とはいえ壊し用バスターミナルは1つしかないのでどうしようもない。

 23時終了。

6月3日(水曜)

9時開始。

 バスターミナルで身を起すガメラの寄り。

 液体窒素15リットルとガメラの吐息用のドライアイス20kgを朝一番で買いに行かせる。

 造形部に呼気用のホースの仕込みはどうなっているのか聞くと、まだ仕込んでないけど何がいいですか? とのんびりした返事である、仕方無いので10時を待って自分で日曜大工センターに行く、買うものが明らかなときはともかく「水道ホースほどの径で、柔軟性があってつぶれにくくて、出来れば安い何か」というものは人には頼めない。
 しかし撮影当日になって仕掛けを買いに行くなんてまねは樋口組以外ではありえないと思うぞ、クーラーのドレンホース5メートル購入。

 液体窒素はガメラのジェット噴射の余韻である、写真用バットに入れてガメラ上空に固定、エアーをあてて発煙させる、画面が真っ白になったところで発煙停止、ガメラが見え始めた瞬間にアクションスタートとなる、
 身を起すガメラにつけてカメラは上にパン、ところが冷えたバットから落ちる冷気がフレームインしてしまうことが判明、そこでモノレールにバットを乗せ発煙停止と同時にフレーム外に逃げるようにする。

 ガメラの喉元まで這わせたホースからドライアイスの白い息を出す、ガメラ2で考えた簡単な仕掛けだが生物感の表現は抜群。

 18時本番。

 20時よりイマジカでラッシユ、バスターミナルのカット、火薬のタイミング遅れが問題であるかどうか確認、「そんなに遅れているわけでもない」という結論、いずれコマ抜きするのかもしれないが、マスクが多段にわたって撮ってあるので別撮りの破片素材を合成すればOKであろうということになる、それより問題なのが一番手前で跳ねあがっているタクシー、ボデイとシャシーが空中で分離してプラモデルまる出しである、手前の別撮りのバス停の向こうだからだいじょぶかな〜という怪しい結論である、たとえNGでもリテイクできないロウバジェットの悲哀というべき。

6月4日(木曜)

 9時開始。

 東横店に落ちたギャオスに迫るガメラ、口から息、足元にはガラ飛ばしの火薬、操演的にはなんということもない。

 18時終了

 夕食後、ギャオスの超音波メスで切断させる丸井と、ハチ公前から見たパンテオン前のガメラの準備。

 21時30分終了

6月5日(金曜)

 9時開始

 東横店の上に見えている、ギャオスの指先が「ピクピクしたい」と監督が突然言い出す、ガメラ2と違って今回操演部は人的資源に乏しいので、仕込みを簡単に引き受けるわけにはいかない、怪獣の仕込みは基本的には造形部のお仕事だから、と筋を通して逃げてしまう、うちがやったほうが早くて確実なのはわかっているのだが、今回助手は全員応援で細かい作業はまかせられないし私が作業場に戻っていたのでは現場が停止してしまう、丸井切断で使用するモーションコントロールは私しか扱えないのだ。

 ギャオスの改造に時間がかかりそうなので、丸井の切断を先に撮影することになる。
 監督のイメージはルパン3世の五右衛門、超音波メスがビルをスパッと斬る、何も起こらないとおもいきや、しばらくして切断面もあざやかにピルがまっぷたつになるというもの。
 優雅になめらかにズレ落ちていく壁面の表現はモーションコントロールにぴったり、準備期間中にじっくり仕掛けを作っておいたおかげでキレイに決まった。

 16時本番

 パンテオン前のガメラ、手前の東横店はくすぶっているという設定なので火皿に灯油と黒スモークを入れて火を付けて見る、激しく黒煙が上がるが監督のイメージは出火した場所の上にガレキが積み重なりその隙間から漏れ出た煙であり、勢いが無いほうがよいというので急遽ミニスモークを作る。
 ガレキにはピアノ線ショート、通称「パチパチ君」の火花を仕込む、0.2〜0.4くらいのピアノ線に100V電流を流すと一瞬で熔けて火花が散る、1/20くらいの電線のショートの表現に最適なのだ。
 その向こうの焼けただれたギャオスの翼には四塩化チタンを塗って発煙させる、ガメラ足下にはホコリ、口からはドライアイスの息と要素満載、まさしく樋口演出炸裂といったところである。

 私はパチパチ君のシャミセンを担当する、チーフの黒瀬はホコリ、セカンドの半田は息、するとサードの井上にスモークと四塩化をまかせられるか、というと彼は素人同然なのでとうてい無理、東宝では操演もやったことのある美術部の辻川君にこの2つをお願いする、自分のところの助手が余っているのによそに手助けをたのむのは内心忸怩たるものがあるが、衆人環視のなかで失敗されるよりはマシであろう、TVと違って人を教育しつつ使っていくというわけにはいかないのだ。

 それにしてもガメラ2の時「次のガメラは操演部はぜったい6人体制でのぞむぞ!」と宣言したはずだったのだが今回、ダイナ、新ウルトラ、ミカヅキ、ガメラ3と重なったおかげでむしろ人的要素は後退してしまった。

 アンコントロールな煙が3つも4つも重なっているおかげで当然のようにNG続出、特撮助監督の経験がある人間であれば本能的に避けて通るところをアニメ畑の樋口氏は頓着しないで要素を増やしていく、それこそが樋口演出の神髄であると思うのでなるべく意向に添うようもっていくつもりでいるのだが自分の責任分野でNGが続出すると心がささくれていく、この組は操演部が難しいことをやっていることを皆承知してくれていて終始なごやかなので助かる。

 午前2時30分終了、5日めにして「送り」(TV・映画では23時をすぎるとタクシーが出る)になる。

6月6日(土曜)

 早メシ12時開始(早メシとは決まった時間より早く食事になること、この場合は「メシ喰って12時集合」とも言う)

 着地するガメラのあおり、ガメラを福沢君入りのまま吊る、カメラはほぼ真下、顔が見えないのでもうすこし前のめりに吊れないか、ということだがガメラは作りつけの支点以外では吊れないので姿勢を変えることが困難、思いついて背中のカバーをあけ福沢君の上半身を甲羅から出した状態で吊ってみる、福沢君を吊っているピアノ線を強く引くことでガメラ本体が前のめりになる、「真あおり」なだけに甲羅後ろの福沢君は見えないのだ、着ぐるみに手が入らないのでピアノ線を結んで引っ張って動かしてもらう。

 炭酸ガス2本をガメラ上からカメラに向かって噴射、画面真っ白になったところで噴射を停止しノズルを逃がす、間髪を入れずガメラを吊りおろすと逆噴射の余韻の中からガメラが降下してくる、という絵になるわけだ。

 仕掛けはさほどでもなかったがセット天井を隠すため黒幕を上空に張り巡らすのに時間がかかる。

 22時30分終了
 
6月7日(日曜)

 撮休

******** 第2週 *********

6月8日(月曜)

 9時開始

 おとといの画にだぶらす合成素材として炭酸ガスを黒バックで撮影。
 いろいろと撮る、14時

 瓦礫と化した東急東横店の中のギャオスの寄り、一坪ほどのセットの回りをライトが取り囲み足の踏み場もない、ギニョールに手をつっこんだ助監督菊池はセットに横たわったまま3時間出てこられなかった、スモークをたくスペースもないので急きょ大工センターから一斗缶を買ってきてホースをつなぎ簡単なスモークマシンを作る、中にボールスモークをほうり込み、エアーを送ってホースから煙を送り出す。

 例によってスモーク、四塩化、パチパチ君、フラッシュ、ガラ落しと狭い範囲に要素満載。
 22時30分終了。

6月9日(火曜)

 9時開始

 東急東横店がガメラのプラズマ火球で爆発するカット、今回の最大の見せ場と言われているシーンの撮影(最大の見せ場がイントロに来ていいのか、という問題はある)

 日活撮影所の駐車場に作られたオープンセット、ナイターだが準備が大変なので朝からとりかかる、しかし天気があやしい、夜には雨という予報であったがすでに空が暗い、10時、四谷に出かけていた制作部が四谷は雨です、と報告をよこす(※日活、大映は調布市にある)、11時、ウルトラマンダイナのスタッフルーム(世田谷区大蔵)に電話していた者が5分前に雨が降り始めたという話を聞く、着実に雨が近付いている、美術部はセット飾りそっちのけで雨仕舞いの準備をしている、東横店は石膏ビルなので当然なのだが。

 昼前、ついに雨つぶが落ち始める。

 10倍のハイスピード撮影ができるフォトソニックはそのたびに機材屋から借りてくる貴重品だ、そのためスケジュール調整が必要なのでチーフ助監督神谷はやりたそうだが、監督以下スタッフ全員やる気なし、もちろん火薬を扱う操演部は絶対イヤ。

 チーフ、しばらくプロデューサに電話し、お天気相談所と話し、中止を決断する。

 バラしてセットに戻ると雨があがる、その後深夜まで降ってこなかった、これなら出来たのではないか? まあそんなもんだけど。

 17時終了

6日10日(水曜)

 9時開始
 
 海底、ガメラの墓場のシーン、FOGを焚き込むこととマリンスノーの降らしくらいで操演部は出番が少ない。

 フォトソニックの俯瞰台(のちの俯瞰ナパーム撮影用)が光制作所から届けられる、いちばん心配だったネジ穴を合わせてみるに案の定1つが合わない、私は撮影部にたのまれて替わりに図面を引いただけで寸法は撮影部が採寸したものを使っているのだがなんとなく俯瞰台の責任者という扱いになってしまっている、しかたないので作業場に戻り穴の空け直し、暇な一日で助かった。

 22時30分終了

6月11日(木曜)
 
 9時開始

 停車している山手線の上に渋谷駅の連絡通路が崩れ落ちるカット。

 10分の1セットなのでかなり大きい、中央部分が石膏で出来ている連絡通路が用意してある、バタンコ(何かをつっかい棒で支えておき、それを払うことで落とす仕掛け)で片側を落し、中央からまっぷたつ、という予定だが強度の見当がつかないので(落としても割れないと困るので)赤弾着を通路床に4ケ、壁に2ケ付ける、切れた架線の表現としてパチパチ君を数個、潰れた車両の表現としてチタン合金の火薬を仕込む。

 ガラ落し用として石膏がけスチロールが用意されていたが床でポンポン弾むと恥ずかしいので重いガラ(通称「本気ガラ」)を美術部に発注する、美術部総出でレンガ、コンクリートブロックを叩き壊す。

 監督が「燃えるガラ」が欲しいと言い出す、まあ燃えて落ちてきたギャオスの余波で起る出来事なわけで火の印象が欲しいのは確かだ。
 普通「燃えるガラ」というと石膏ガラにアメ火薬(アセトンで溶いた硝化棉)を塗って落すところだがアメ火薬はベトついているので物に当って跳ねたり飛んだりしない、この際「乾いた燃え方」をするものが欲しいところである。

 「多孔質でガソリンがしみこみやすくかつ固い物」が必要であろう、クルトンみたいな物だろうかと監督と話す、そうすえばグリーンオアシス(切花をさしておく園芸用品)があったと思いだし、2人で美術準備室に出かける。

 監督と2人で「ガソリンのしみこみやすい固いもの」を屋さがしする、こういう腰の軽さとチャレンジ精神こそが樋口演出の新骨頂であろう、グリーンオアシス、スチレンボード、硬質ウレタン等を徴発する、美術部のおやつであろう揚げせんべいを発見したのでこれもまきあげる。

 それぞれを小指の先ほどに切ってガソリンに浸し、火をつけて落してみる、意外やせんべいが一番雰囲気が良い、監督すかさず助監督に各種せんべいを買ってくるよう指示する、ローソンで仕入れたせんべいをそれぞれオーデイション、見事固焼き醤油せんべいが栄冠を獲得する、他はスタッフのおやつとなる。

 さて本番、私がシャミセンを持つ、黒瀬がバタンコを落す、この2つにはタイミングがあるからだ、すると半田と井上がガラ落しということになる、半田君はアクション俳優としての経験があるものの操演は素人、井上はまごうことなき素人だ、一度もテストができない状況では荷が重い。
 「一気でなく冗長でなく、メリハリをつけて」と口では説明できるが、一瞬の判断が必要となるこの場面は死ぬほど不安である、TVで修行させるのだったといまさらのように思うが不安を抱いていたのではこちらのシャミセンにも影響があるのでうまくいくと信ずることにする。

 ガラ落しはやや一気ぎみだったしバタンコはやや早すぎたように思うがシャミセンはいいところに入った、まあ、使えない画ではないだろう。

 22時30分終了

6月12日(金曜)

 9時開始

 切断された丸井の切口に合成される素材の撮影。
 まずは煙、ネタはコード焼き、0.5スケアほどの細いコードをショートさせ被覆を燃やして発煙させるという技で、ガメラ2において焼ける高圧電線の表現に使用して効果抜群だったもの。
 
 撮影済みの丸井に形をあわせてコードをつるし、一気にショートさせる、しかしコードがたるんでしまった、銅線は熱で伸び、ビニール被覆も燃える寸前に膨張しようとするのでベロンベロンになってしまうのだ、高圧電線の時はたるんでも問題はなかったが今回は丸井の外壁に位置合わせしてあるのでこれでは使用不能である、別な方法を考えることにしてこれは取り止める。

 ついで火花素材、これは黒バック前でパチパチ君、火薬(チタン合金による火花)等の素材を単体で撮影する。

 16時、日活オープンに出てナイターの準備、東急東横店に落下するギャオスの撮影。
 東横店は実景、ギャオスは実景のビルの後ろに合成されることになる。
 
 今回開発した「ギャオスリリースマシン」を25メートルハイライダー(高所作業車)にセット、1作目の残りであるギャオスをこれに吊す、下には9尺高にバタンコを作る、一度バタンコに当たって行き足をとめ、バタンコを落として再び落下するという段取りになる、東横店の屋上に当って落下スピードが一瞬緩むという表現である。
 バタンコの手前にはガラ飛ばしとホコリ飛ばしの火薬を2段にセット、屋上に当ってガラが飛び、下まで落下してホコリが出る、というつもりである。
 
 準備完了したのが20時、ギャオスにガソリンをかけガソリンが染み込まないところにはアメ火薬を塗って準備完了。
 まずギャオス点火、井上が点火用のコードを引き抜く、火が充分に回ったと私が判断したところでカメラスタート、5倍速まで回転があがったところで撮影助手の「上がった!」の声が出る、監督のスタート、神谷がリリースマシンのザイルを引く、落ちてくるギャオス、バタンコに当ったところで黒瀬が一段目の火薬0N−ガラが飛ぶ、バタンコの足を半田が引き抜く、更に落ちるギャオス、一瞬のタイムラグで私が2段目のシャミセンを引く、空高く吹き上がるホコリ、カットの声がかかると炭酸消火器を持ったスタッフが一斉に駆け寄って消火活動開始、ガソリンがたっぷりしみこんだウレタン製のギャオスはごうごうと音を立てて燃え上がっている。

 燃える火を見ながらこれはうまくいっただろうと確信する、こまかなタイミングとか不備な点をさがせばいろいろあるかもしれないが、ともかく「東急東横店がえらいことになってしまった!」という画にはなったと思う。

  バラして22時終了。

6月13日(土曜)

 9時開始

 丸井の再挑戦、幅1間、高さ3間のコンパネをパネルに組んでたちあげる、カメラに撮影済みのコマを入れ、ファインダーを覗きながら丸井の輪郭をパネルに引き写す、一度寝かして輪郭にそってパネルを切る、黒く塗ってコンパネのフチにコードを止める、ふたたび立ちあげて本番、こんどはコードを10センチおきにガンタッカーでとめてあるので動かない、一発OK、ところで自分で考えた技法でこんなこというのはなんだが、これってダイオキシン大発生ではないのか?。

 つづいて丸井の切断面から落ちるガレキの素材撮り、ベニヤでチリトリのようなものを作り石膏ガラを載せ黒バックの前につるす、ヨーイハイで細引きを引いて落す、なんということもない。

 次はずれ落ちた壁面が地面で砕けているという表現のホコリ素材撮り。
 今回やたら液体窒素が気に入っている監督、今度もそれでいって見ようと言うのでとりあえずテストである、鉄の角皿に5分玉(破裂する火薬である)を入れ液体窒素をそそぐ、鉄皿が冷えきるまで液体窒素は沸騰しつづけ全然溜っていかない、1リットル溜めるのに2リットル必要な感じである、やっと皿が冷えきる。
 ドカンとやってみると、なんと厚さ6ミリの鉄板がガラスのように割れてしまった、手にとって叩いてみると簡単に割れる、おそるべし液体窒素、ということでこの方法はダメだということがわかった。
 (してみるとバナナで釘が打てるというのは嘘ではないのか、バナナが砕け散るに決っているからだ)

 16時、ガメラに迫るギャオスのアップにうつる。

 ギャオスのギニョールに手を突っ込んだ助監督にカメラが手持ちで迫る、操演部は羽の吊りとFOG流しくらいで大した出番ではない。

先ほどの液体窒素の飛ばしを高圧エアーでやってみようと思いつく、鉄皿の上から150気圧の空気ガスを直吹きしてみるときれいに拡散し発煙する、これでいけるだろう。
 しかし鉄皿を冷やすことには変わりないわけだが、徐々に常温に戻したとしてもすでに組成が変化しているってことがあるだろうか?

 22時終了

6月14日(日曜)

 9時開始

 6月5日撮影のハチ公前からみた東横店越しのギャオスのリテイク、要素満載でNG続出だったカットだ、案の定ラッシュをみたら「要素満載でギャオスが見えにくい」ということになり撮り直しとなった、前回よりやや見せ方を整理する、が四塩化チタン、黒スモーク、パチパチ君、と要素満載なことに変わりはない、更に「ギャオスの落下を見てしまうと火の感じがもっと欲しいですね」ということで火薬も増やすことになる、今度も見えないね〜てなことになるとイヤなので煙関係をみなギャオスの後ろへもっていってしまう。
 イノビジョンという超広角レンズを使った撮影なためライティングにえらい時間がかかる、F値が解放で11とか16とかいう暗いレンズなため光量をものすごく必要とするのだ。

 22時30分終了 1カット13時間である。

******** 第3週 *********

6月15日(月曜)

 9時開始

 6月4日に撮ったギャオスに迫るガメラのリテイク、前日と同様要素満載のあげくにわけがわからなくなったカット、今回は山手線をナメてシンプルな構図。

 22時30分終了。

6月16日(火曜)

撮休。

6月17日(水曜)

 9時開始

 照明機材である雲マシーンのテスト、ホリゾントにムラ雲(のようなもの)を投影する機械である、京都編は夜の台風という設定であり、最終決戦は台風の目の中ということになっている。
 単なる夜なら黒バックでよいが、台風の目の中となれば空には乱れ雲が見えないと感じが出ない、描いた雲ではどっちを向いても同じ雲、ということになる、引き絵はマット画合成ということになっているのだが全てのカットを合成していては予算も時間もたまらない、寄りの絵くらいは撮りきりでいきたいというわけで今回のテストということになった。
 操演部は出番がない。

6月18日(木曜)

 脚本がやっと完成したのをうけて両監督の打ち合わせ、今日も撮影は無し。

6月19日(金曜)

 9時開始

 特撮メインスタッフ打ち合わせ。
 両監督の最終打ち合わせが終わり、絵コンテが出そろったのをうけて、暫定的におこなっていた後半戦−京都編の本格的な打ち合わせを行う。
 
 こまかく詰めていったため、15時間もかかってしまう、打ち合わせで「送り」になってしまった。

 最後になってチーフ助監督が「こまかく打ち合わせをした後でなんですが、このカット数を期限の8月末までに撮りきろうとすると一日3カット回さなくてはなくてはなりません、ところが樋口組は一日平均1.5カットしか消化できていないのですがこの点について監督はどうお考えですが、またスタッフのみなさんの意見もお聞かせ下さい」と発言した。

 すると即座にデザイナーの三池氏が「このシリーズもこれが最後だということで、僕としてはここでクオリティを落としたくはありません、これは多分みなさんも同じ考えだと思います、カットを減らすか期限を延ばすかしてもらう以外ないと思います」と言う、皆うむうむと頷いている。

 ここで毎度おなじみなのだが、と思いつつ私もいちおう発言しておくことにした。
つまり「操演部が撮影に臨むにあたってまず考えることは、いかにすれば監督のイメージを忠実に映像化出来るかということであり、次ぎにそれを安全に、確実に行うにはどうするかということであり、出来れば早く、安くあげようとは思うがそれにはおのずと限界がある、実際問題として日数がどれだけかかるかは監督がどんなコンテを何枚切ったかでほとんど決定しているのであってスタッフに期限の責任をおしつけないで欲しい」ということである。

 これは実はガメラ1でも2でも発言したことである。
 樋口組というのは不思議なところで撮影が遅れてくるとメインスタッフが呼ばれてプロデューサーから文句を言われるのだ(他の組でそういうことがあったためしはない)

 ガメラ1では「おまえ達特撮マニアが好き勝手に遊んでいるからちっとも進まないのだ」という意味のことを言われたものである、完成した映像が文句のないもので、それがいくつかの映画賞を取ったこともあってガメラ2では「遊んでいる云々」という発言はなくなったがやはり文句は言われた、私は過去2回ともその席で上のような主張を繰り返している。

 これは制作サイドの「スタッフのせいで完成が延びている」という主張を受け入れてしまうと「期限を守るためには休みをなくし、睡眠時間を削るしかない、それはスタッフの自業自得である」という道につながってしまうからだ。

 当然その場で結論など出るはずのないことであり、解散となる。

24時30分終了。

6月20日(土曜)

9時開始。

 雨で中止になっていた東急東横店の爆発、日活オープン・ナイターである。
梅雨の晴れ間で朝から暑い、ミニチュアのナパームが吹き出す予定の窓をひとつひとつはずして紙ヤスリでけずって戻すという地道な作業をつづける。
 
 美術部は総出で飾りにおおわらわである、
 今回このカットの飾りに関しては私の意見を大幅に採り入れてもらっている、それは「迫力ある爆発を撮りたければ、カメラはなるべく離れてくれ」というものだ、これは通常の撮影常識からするとまるで逆である、カメラマンは迫力ある絵を撮ろうと思うとまず本能的に対象物に寄ってくる、ミニチュア撮影では尚のこと「なるべく寄って・広角レンズでパースを強調し・巨大感を出す」というのがセオリーである。
 
 しかしこれは爆発に関しては当てはまらない、たとえばミニチュアを爆破した際火薬の煙が半径3メートルまで広がるとする、もしカメラがこの円の中にあれば一瞬で画面は真っ白になってしまう、火薬の爆速は非常に早いのでたとえこれをハイスピード撮影していても使えるコマはほとんどない(撮影されたフィルムをコマで見ると「ビルが映っている」・「ビルが映っている」・「ビルが映っている」・「真っ白」・「真っ白」・「真っ白」というような絵になってしまう、これを「あるなし」と呼ぶ)しかしこれを10メートルの距離から撮っていれば、煙のデティールを外から撮る事が出来るし、飛び散る破片もとらえられ使える時間も長くなる、つまり爆発の場合は長球(長焦点レンズ)を使い対象物からカメラを離すのが正解なのだ。
 
 とはいえ爆発の撮影というのはわれわれ操演部にとっては日常茶飯事であるが、監督、カメラマンにとってはなかなかそうでない、口で説明しても「迫力ある絵=寄った絵」という固定観念をうち破れないことも多い、一枚絵としては当然短球(短焦点レンズ)を使ったパースの付いた絵のほうが良く見えるのである、サジェスチョンは出来るがフレームを決める権限をもつのはカメラマンであり、ここがいいといわれれば操演部にはどうにもならない(それをひっくり返せるのはあとは監督だけだが、それは一種の強権発動であり監督といえどあまりやるべきでない)

 しかし固定概念に縛られず、全てのカットについてより良き撮影方法を検討する(まるで特撮の黎明期であるような)樋口組であればもちろんそういう心配はない、私はこの東急大爆破については「とにかく可能な限りカメラを離してくれ」と準備期間中から強く主張していた。

 ガメラの吐いたプラズマ火球によって東急東横店は爆発する、それはビルが四散するのではなく火球がビル内部で爆発し、前面の、窓という窓から炎となって吹き出し、ハチ公前広場を埋め尽くし道路越しのカメラ前まで迫る、というものだ、私としてはナパームを1発ドンと打ったらたちまちカメラが火に呑み込まれるというような大味な絵にはしたく無かった、しかしミニチュアを縮尺通りに組み、想定される位置にカメラを置くとカメラは爆心地に近すぎる。
 炎が迫ってくる感じを出すには小さなナパームを何個も置き、奥から順に爆発させればいいのだがこのままではそのスペースがない、迫ってくる感じなど出しようも無いのだ、そこで「嘘でもなんでも可能な限りカメラを離して、ナパームを置くスペースを作ってくれ」と言っていたわけだ。

 そこで準備期間中にこのカットについてはテスト撮影が行われていた、ミニチュアの手前を本来より遙かに広く飾りそれを望遠レンズで狙った場合どこまでごまかしがきくかというテストである、これにより10メートル以上カメラが後退可能である事が判明した。
 今回のオープンセットはそのときのデーターを元に私が引いた図面にしたがってカメラとミニチュアが置かれているのだ(操演技師がミニチュアの飾りやカメラ位置を指示するということは普通あり得ない、樋口組の柔軟さの傍証であると言えるだろう)

 さてそういう訳でカメラは本来の縮尺より遙かに後退して構えているわけだが、そのため美術部の飾りは困難を極めている、というのもカメラはもともとややあおり目に東急のビルを見ていたわけだが、見た目の雰囲気を変えないようにそのあおりの軸線上を後退している、そのためカメラ位置が架空の地面より下になってしまっているのだ、地面がフレームに入っていないため出来る荒技だが、東横店とカメラの間は「大ウソ空間」になってしまった、そのためこの空間に入る飾り物は「見た目」以外たよりになるものが無く、普通「前後左右」しかない位置決めの要素に上下まで含まれてしまっているのだ。
 
 初日に来て以来姿をみせなかったドキュメンタリー監督庵野氏姿を見せ、そんなところにカメラ置いたら燃えますよ、てなところにビデオを仕込んでいる。

 そのほかにも見たことのない人々がつぎつぎとやってくる、どうやら今作品の最大の見せ場である東急爆発(だからなぜそれが冒頭にあるのだ?)ということでプロデューサーが関係各所に触れまわったらしい、近所の住民までやってくる。
 朝からセッティングを始めたわけだが準備完了となったのは23時を回っていた、まあ照明部は暗くならないと始まらないのだから仕方ない。

 東横店内部に筒に入れたナパームが6本、駅前広場にベタ置きのナパームが16個、全部でガソリン20リットルの大爆発である、もちろん一発必中、失敗しても絶対にリテイクは不可能である、しつこく配線を確認する、このプレッシャーは助手連には理解不能だろうと思うので自分で全て見直す。

 シャミセンを前に、イメージトレーニングを繰り返す、
 曰く「東横店内部の3発をまず一気にひく、炎が長く延びるようならそれをじっくり見せるために少し間を取る、そうでなければ間延びしないよう即座に駅前広場の16発に移る、これは単発のプラズマ火球の想定なのだからカメラに向かって爆発が迫ってくるように見えてはいけない、炎の中からつぎの炎が出てくるようなタイミングで引かなくてはならない」
 それらを秒240コマ(10倍速のハイスピート撮影)で行うべく頭の中で何度もイメージする。
 
 いよいよ「本番行きます」の声がかる、緊張感が高まる、意識が異常にクリアになる、「カメラスタート」の声がかかる、フォトソニックがうなりをあげて回転を始める。解像度の上がっている頭ではそれが無限に長く感じられる、「上がった!」と撮影助手が叫ぶ。

 あとは俺の腕ひとつだと瞬間思う
 まず合成用に一拍あける
 ひとつ
 つぎは3発一気だ、あせって4発目を引かないように注意しろ
 ドカン
 窓から炎が吹き出す
 成功だ
 思ったよりなお炎の足が長い、予定よりほんのわずか後を遅らせよう
 炎の行き足がとまった
 次だ
 早からず遅からず10倍速で16発をなめらかにひけ
 ドカドカドカドカン
うまくいった!
 というようなことをわずか2秒たらずの間に考えていると言ったら人は信用しないと思うのだけれど全て本当の事なのです。

 このあとガメラが半壊した東横店を壊して前進してくる、というカットがあるのだがあまりの火勢に消化班が近づけずミニチュアがかなり燃え落ちてしまった。
 
「燃えちゃったよ〜どうしよう」という情けない助監督の声を尻目に、プレッシャーから解放され安堵感と幸福感いっぱいの私は「どのみち半壊していていいのだからなんとかなるでしょ」とぼんやり思うのみである、多分このときは脳内麻薬出まくりなのだろう。

 庵野氏カメラに火が迫ってきていい絵が撮れましたよなどと言って上機嫌である。

 あまりに時間がかかるので見物していた人々はほとんどいなくなっている、近所の人はひと家族だけ残っていた、小学生と思われる姉妹2人はびっくり仰天している、幼稚園児らしい弟は親に抱かれてすやすやと寝てしまっている、お姉ちゃんたちがとうぶんくやしがらせることだろう。

 24時終了。

6月21日(日曜)

10時開始。

 渋谷の地下街、ガメラが歩いたため陥没する天井の撮影。
 なんということもないカットだがライティングに時間がかかり本番開始が22時すぎ、人物合成の参考に全体を撮り、合成素材として蛍光灯のみを全体、奥、手前と別々に撮り、電飾看板のみを撮り、手前の柱と奥の壁をはずしブルーバックにして奥の天井の陥没をとり、奥の天井をはずして手前の陥没をとり、全てを取り去ってから手前の柱を入れて柱が折れるところを撮る、という複雑なことをするためえらく時間がかかる。

 折れる柱は3本用意してあったが1本目はうまく折れず、強く叩いたら柱が折れずに床が壊れてNG、2本目の柱は切り込みを入れ強度を下げてチャレンジ、うまく折れたが折れた位置がフレームの上すぎてNG、今度は下の方を重点的に弱めて3本目にチャレンジする、しかし折れた位置は良かったが折れ方が良くない(仕込んであった中の鉄筋が見えない)のでNGとなってしまった、どうにもならないので本日終了。

午前3時であった。

******** 第4週 *********

6月22日(月曜)

 昼開始。

 ギャオスの落下で崩れ落ちる山の手線ホーム天井の撮影。
 1/3セットなのでかなりの作り込みである。
 天井を突き破るコンクリートの塊、これは石膏製の天井をスチロール製のコンクリートブロック(に似せた物)でぶちやぶるのだ、壊れる部分は決っているので位置がズレると困る、そのため鉄骨を使ってレバー式の押し下げ装置を作る。

 駅名の電飾表示板は片側が外れてぶらさがるという設定、これはピアノ線切りで行う、落ちるH鋼はバタンコ方式、各所にパチパチ君を仕込む。

 本番開始は22時、コンクリート落しに一人、手前の本気ガラ落しにふたり、私がパチパチ君のシャミセンにつくと操演部は売り切れである、あと「炉端焼き」と称する部分的なガラ落しが2ケ所2人、H鋼のバタンコ落しに一人、「燃えるガラ(ファイヤーガラと命名された)」の火付け棒を受け取る係に2人と各方面にお手伝いを要請する。

 本番、まずスチロールの塊が天井をぶちやぶる、すかさずパチパチ君が火花を散らす、電飾看板が落ちる、ここでもパチパチ君がいく、続いてH鋼が落ちる、あとは本気ガラ、ファイヤーガラがところせましと落下してきて大混乱となる、監督モニターの映像をビデオで見直すまでもなくOKをだす。

 気が付いたら途中で止まるはずのスチロール塊が杭から抜けて下まで落ち、天井の穴からスタジオ上部がバレていたのだが、もうこまかいことは抜きの勢いでOKである。

22時30分終了。

6月23日(火曜)

撮休。

6月24日(水曜)

 大爆発したあとの燃える東急東横店を崩してガメラがハチ公前広場に姿を現すカット。
 どれくらいビルを燃やしておくか決っていなかったのだが、先日当の私が東横店を大爆発させ、ミニチュアビルが燃え落ちるほど火勢を強くしてしまったため「激しく燃え上がるビルを崩して、炎の中から現れるガメラ」ということになってしまった。

 こうなるとファイヤースタントである、福沢君の安全確保のためにはいわゆる火だるまのセッティングが必要となる、AAC(スタントチーム)から阿部氏をよび準備をととのえる。

 操演部的にはガメラの後ろにプロパンバーナーと火皿を並べビルが崩れたあとの炎の背景を作る、カメラとビルの間にも火皿を置きナメの炎を作る、ガメラに絡むのはビルのすぐ手前に置いたプロパンバーナーとビルに塗るアメ火薬、ビルの中に入れるファイヤーガラだけである。
 
 プロパンはガメラがビルを崩したら火を止めてしまうので実際にガメラが触れるのはアメ火薬とファイヤーガラだけであるはずだが前後に火があること、普通のファイヤースタントと違って容易には現場から脱出できないこと、着ぐるみに火がついたとしても脱がすのには時間がかかること等を考えて最大限の防火対策を施すことにする。

 監督がビルが崩れたあとは火の粉が舞いあがりたい、というので一斗缶と炭を買ってきて火の粉出しの仕掛をつくる、「熾き」になった炭を叩き壊しておいて高圧のエアーを吹き付けると火の粉が舞い上がるのだ。

 いよいよ本番、福沢君は全身にスタントジェル(アメリカでファイヤースタント用に売られている耐熱ジェル、冷蔵庫であらかじめ冷やしておく)を塗りたくる、次にノーメックスの全身タイツ(F1ドライバーが着ている防火服)を着る、頭もノーメックスのマスクをかぶり、ゴーグルをつける、ガメラ本体はメソシルという防炎素材を塗る。

 ガメラが位置についたところでまずガソリンと灯油の混合物が入った火皿に点火、次にバーナーの口火に点火、ビルに塗ったアメ火薬に点火する。
 時刻は17時、今日は定時に帰れるかな、などと思ったのがいけなかったのであろう、まさに本番の声がかからんとしているその時にビルが勝手に崩れ落ちてしまった!、全員唖然とするしかない。

 このセットはオープンの爆破でビルが燃え落ちてしまったため、燃え残りの部分とその他の廃材を使って美術部がでっちあげたものだった、しかしなにしろつぎはぎ細工であった為部材がおたがいを支えあって成立していたようなのだ、それがアメ火薬に点火したため木材部分が燃えて連結が解けバランスが崩れてしまったようなのだ。

 しかたないので今度はピアノ線でつっぱりを作り、支えておくことにする、ピアノ線はガメラが壊しにかかったら電気で切断することにする。

 ふたたびセッティング完了となったのは20時過ぎである、今度はうまくいった、壊した残骸に足をとられた福沢君が燃える残骸の上に倒れ込んだので一瞬ヒヤリとしたが万全の準備のおかげでなんということもなかった。

 20時30分終了。

6月26日(金曜)

9時開始。

「へたりこんだ女子高生がみあげたガメラの姿」の撮影。

 カメラははじめ足をとらえている、ガメラが一歩足を踏み出したところで上に振り上げると超ワイドレンズによって巨大感の強調されたガメラがそびえたつように見えてくる、というもの。

 「札幌電話ボックス方式ガラ飛ばし」がお気に入りになってしまった監督、今回も最初の足の踏みだしにあわせて火薬によるコンクリート飛ばしをしてくれと言う、コンパネの裏に緑弾着2ケを石膏で張り付ける。
 その他のエフェクトとしては東急大爆破のあとなので後ろで火が燃えているということでプロパンのバーナーと火皿を置いて火を燃やすことになる。

 美術の飾りと操演部の仕込みは昼までに終わったがそれからの照明が大変でなんと、本番の声がかかったのが21時であった。
 
 完成した照明をみてしまったと思った、というのはライト足がセットを取り囲んでいてほとんどセットにアクセスできないのである、NGが出た場合弾着を交換するにはミニチュアをバラす必要があり、ミニチュアをバラすにはライトをバラす必要がある、しかしそんなことをしていたら1テイクに何時間かかるのだろう。

 いよいよ本番、バーナーに点火、火皿に点火、雰囲気のミニ黒スモークを流してスタート、ガメラが足を踏み出す、私がスイッチON、弾着がちょうどいいくらいにガラを飛ばす、カメラが振り上げられる、ガメラ決めポーズをとってカット。

 うまくいった、と思う、いってくれないと困ったことになるとも思う、監督はモニターのビデオを見つつOKじゃないですかと言っている、良かった良かったと思っているとカメラマンがあれれ、とか言い出す、イヤな予感、なんと手前の街路灯のランプシェードがはずれて中の電球とコードがむき出しになっているではないか、

 監督も火薬の交換が面倒なことは知っているのであれって目立ちますか?などと聞いている、カメラマン何度もファインダーを覗きながらこれはバレますねと言う、NG決定である。

 助監督の神谷、弾着交換にどのくらいかかりますか?と聞いてくる、それ自体は15分くらいだけど周辺が大バラシになるから何時間もかかるんじゃない、と答えると、ならばもう今日はやめます、と暗い顔をして言う、もちろんそうなれば「送り」は決定であるからだ、仕切りなおすとよけい時間がかかるので演出部としては送りでもやりたいところだろうが一方貧乏現場としてはタクシー代はもったいないのだ、また送りでやれば翌日の開始時間がズレその翌日がまた送り、という悪循環に陥る可能性が高くなる、時間は惜しいがお金も惜しいというジレンマがあるのだ。

 こうなったからには正攻法はあきらめようと思い別の手を考えることにする、一番アリなのは下から叩くことである、タイミングが取りにくいしスマートでないので採りたくはない方法論だが仕方ない、コンパネの下の平台に10ミリほどの穴をあけシャフトを通し、下から15Kgのウエイトでひっぱたくことにする、つながりで私が平台の下にもぐり込む、普段はこういう狭く、暗く、ほこりっぽい場所での作業は助手に押しつけ私は汚れ作業にはタッチしないことにしているのだが今回は流れ上やむをえない、助手連はそれぞれもう自分の仕事が決まっているからだ。

 舞台の上が全然見えずタイミングの取りようがないので小型液晶TVを持って入り、モニター映像をUHFで飛ばしてもらう。

 結局3テイク撮ってOK。

 23時30分終了、終わって良かったけれど送りにはなってしまったのだった。

6月27日(土曜)

10時開始。

 「このままじゃ終わらないけど、どうお考えですか」問題に対する回答として監督が絵コンテを削除、変更したため、あらためて打ち合わせ。

 最後に監督より、これ以上のことはもう出来ないのでなんとかペースをあげてくれという要請がある。

 17時より演出部と撮影部、制作部のみ渋谷へ夜間実景ロケに出かける、ギャオスの飛びのバックを高所作業車から疑似空撮するのだ。

 私は久々の定時終了に新宿に浮かれ出て、ソフマップでゲームを色々買い込む、しかしやる暇あるのかこれ?

6月28日(日曜)

9時開始。

 ガメラがギャオスの超音波メスを手でうけ止めつつプラズマ火球を吐くカット、操演的には後ろで火を燃やすことと、手にパチパチ君をつけるくらい、美術的飾りはないので17時までに2カット終わる、昨日の要請も効いているのか。
 
 夜、日活オープンに移動、ギャオスを狙って打ったプラズマ火球が流れ弾となって109のタワーを破壊するカット、前もって火薬は仕込んでおいたので操演部的には準備することとてない、火薬は1発でタイミングがあるわけでなく、失敗しようもないので一週間前と違って私はお気楽である。

 夜間ライトをつけていると撮影不能になるほど虫が集まってくる、セットの照明を落とし別にところに照明をあてておき、本番寸前にライトを切り替えるなどという技を駆使して虫よけをする。

 22時30分終了。

******** 第5週 *********


6月29日(月曜)

撮休。

6月30日(火曜)

 この文章は現場で日々暇をみて書いているのだが、ウルトラマンの新シリーズ「ウルトラマンガイア」の撮影が始まり発進パターン撮影のためモーションコントロールの機材を持っていかれてしまった、この操演日記はその制御用コンピューター(9801NX/E)を使って書いていたので困ったことになってしまった(私はモバイルコンピューターを持っていない)

 しかたないのでバックアップのさらにバックアップ(部品取り用くらいのつもりで買ってあった)HDDのないコンピューター(!)を持ち出した。
 しかしフロッピー1枚でシステムを組むなんて何年ぶりだろうか、たった1.4メガにDOSのほか、FEPと辞書、エディタとファイラーを入れるなんて不可能のようにも思えるのだが(ってやってみると思い出すもので、このように運用している)

 9時開始。

 喫茶店の窓外に顔を出すガメラのアップ。

 口からドライアイス、燃えた東横店の煙を引いて前進してくるということでフレーム外で黒スモークを焚く。

 15時シュート。

 喫茶店の窓外でプラズマ火球を吐くガメラ、正面からエア砲を撃ちドライアイスを吹き飛ばす。

 18時シュート。

 ガメラの墓場に合成する深海魚の撮影、ブルーバックの前に水槽を置き、美術部制作の怪しい深海魚に棒を刺して泳がせる、こういう物は芝居っ気のある奴にやらせるのが一番なのだが、今回の助手のその手の適性は未知数なので自分でやる。

 とっかえひっかえ色々な深海魚もどきをカメラ前で泳がす、端から見たら遊んでるように見える光景だろう。



「フェイマス・モンスターズ」誌といったような雑誌を読んで、七才から八才のときに初めてこう思いました。
 「待てよ、これはある人にとってのお仕事なんだ、朝、働きに出てこれで生活しているんだ」

マーク・ハミル




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