サケが育てる豊かな森


高橋 博



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 2002年10月19日の朝日新聞(夕刊)に「森をサケが育む」という記事が掲載されました。これは、川を遡ったサケが、熊に食べられたり、産卵後の遺骸(ホッチャレ)が、森の栄養源になるという内容です。
 「上流の森の栄養が下流の海を豊かにする」といわれることの逆ですが、「魚の遡上が森を豊かにすること」は、遡上を妨げるダムの反対理由の一つになりえます。
 地球全体の物質循環を考えると、重力により物質は下にたまるので、陸は貧栄養、海は富栄養(海の中でも深海に沈む)になる一方です。
 しかし、それでは陸地に生物が住めなくなりそうですが、そんなことはありません。それは逆の働きがあるからです。
 まず、長期的にはヒマラヤが昔は海だったように、造山運動が重力に逆らう活動になりますが、これはあまりにもゆっくりした動きです。
 日常的には、風や波が海の栄養を陸に上げます。海でも深海から栄養豊かな昇流が湧いてくるところが好漁場となります。しかし、このような物理的な運動の他に、生物の働きが重要です。
 まず鳥や虫です。海鳥の糞が堆積しグアノと呼ばれる肥料になるように、鳥が海から陸に栄養を上げる力は大きいです。そして、水中で同様な働きをするのが、サケなどの遡上する魚です。
 このように生物が物質を重力に逆らった方向に上げることにより豊かな環境が形成されてきました。人間活動に伴い、富栄養化による水質汚染が問題になりましたが、本来は「富・栄・養」という字を見ればわかるようにいいことです。ただ過剰すぎたというだけです。
 最近、江戸時代を様々な視点で再評価する動きがあります。物質循環から見た場合、武蔵野台地と江戸の街での野菜等と下肥の循環、街からの排水で富栄養になった江戸湾での魚、海苔の収穫という循環が成立し、過剰害のない豊かな自然環境が成立しました。
 近代化に伴い、栄養分の逆方向の流れが大きくなり、環境汚染も起こるようになりました。しかし、この流れは海岸部に大都市が多いことにみられるように、内奥まではあまりいきません。サケなどは1000km以上遡上するものもあり、さらに支流等の細部にまで渡ります。この違いは大きいようです。
 栄養分の流れの観点からも、三番瀬を埋め立て、そこに下水処理場を作ることが、いかに愚かかわかると思います。(つまり栄養分を下流に集めてすぐ海に流すことになる)
 そうではなく、栄養分はなるべくそこにとどめる、水はあちこちめぐってゆっくり流れることこそが望まれます。環境再生を目指すのなら、人間活動を生物が行っているように、栄養分を重力に逆らって引き上げ、そこにとどめる方向にすることが重要です。
 このような重力に逆らう鳥や魚の働きは、地球全体の生態系を考えた場合、物質循環に重要な働きをしています。
 生物がどうしてこのような動きをするようになったか? 地球全体を1つの生命と考える「地球ガイア説」ではないですが、大きな命の働きの現われとみることもできるかもしれません。

(2002年11月)





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