■書籍・書評


 桂望実著

  『県庁の星』


石井伸二



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・著 者:桂 望実(かつら のぞみ)
・書 名:県庁の星
・発行所:小学館
・価 格:1365円


 桂望実(のぞみ)著『県庁の星』(小学館、2005年9月刊)がかなりの売れ行きだ。20万部発行のベストセラーとなり、コミックス化もされた。織田裕二主演で映画化もされ、2月25日に公開される。
 しかし、率直にいって、こんなものがどうして話題になったり、ベストセラーになるのか不思議でならない。


■エリート県職員がスーパーを改革

 同書のあらすじはこうだ。
 主人公の野村聡(31歳)は、Y県産業労働部産業振興課産業支援班の班長をしている。Y県の上級試験をパスしたエリート公務員だが、人事交流研修者として1年間、スーパーに派遣されることになった。
 スーパーでは、考え方や価値観の違いから浮き上がり、店員やパートと衝突を繰り返す。しかし、教育係のパート店員(二宮泰子)とぶつかり合いながら、やがて従業員のやる気と活気を引き出し、改革(売り上げ増)に立ち上がる。


■主人公が勤務するY県の行財政は問題外

 この物語のおかしいところは、Y県の行財政の実態がまったくふれられていないことである。
 政府や自治体はいま、どこも莫大な借金をかかえている。それは、ムダな公共事業などに湯水のように税金を投入しつづけてきたからである。
 たとえば評論家の佐高信氏は、政府や自治体を牛耳っている「エリート官僚」をこう批判している。
     「トッチャン坊やのような役人たちが国民の税金を自分のカネと錯覚して、やりたい放題のことをやっている」(佐高信『時代を読む』光文社文庫)
 Y県も例外ではないはずである。それをほったらかして、スーパーの改革に乗り出すとはどういうことだろうか。また、この小説では、民間研修で学んだことを県政改革にどう結びつけのかもいっさいふれられていない。
 もし私がスーパーの店員だったら、主人公にこう言う。
     「スーパーは、赤字になれば閉店せざるをえない。しかし県庁は、膨大な借金を抱えているのにつぶれない。それは、私たちからいくらでも搾(しぼ)りとることができるからだ。スーパーの経営は私たちにまかせ、県庁のエリートであるあなたは、県政をなんとかしてほしい」
 でも、この小説では、従業員はそんなことをいっさい言わない。これには首をかしげてしまう。


■Y県庁は職員が多すぎる
  〜人口200万人に対し2万9000人の職員〜

 そもそも、主人公が勤務するY県庁は職員が多すぎる。
 Y県は「東京から新幹線で1時間ちょっとの距離にあり、人口は200万人余り」だが、県職員は2万9000人もいる。たとえば千葉県は、人口600万人にたいし、県職員は1万4000人である。人口比でいうと、Y県の職員数は、千葉県のじつに6倍におよぶ。
 そんな県政こそまっさきに改革すべきである。スーパーの経営は、経営者や従業員にまかせればいい。


■特権的・情実人事を肯定

 同書では、こんなことが書かれている。
     「聡も桜井もこの研修を修了し、報告書を出せば主任になる予定だ。その後は3、4年ごとに異動しながら係長、課長補佐、課長と昇任していき、部長へ辿り着く。高卒の職員と較べると年齢で約4年、入庁歴ではおよそ8年分早く出世する。県庁内での主要なポストのほとんどは上級試験合格組が押さえていた。聡の場合は、力をもつ学閥のメンバーでもあるため、県の中枢に入ることが約束されていた」
 作者(桂望実氏)は、こういう特権的人事や情実人事を当然のこととして肯定的に描いている。主人公も、こういう弊害を改革しようなどとはいっさい考えない。
 しかしながら、政府の省庁や自治体が借金を700兆円以上も膨らませて破産状態にあるのは、こういう人事がまかりとおっているからである。
 日本の官僚は、「時代の変化に対応できず、私欲に走り、プロの能力を欠き、責任を取らず、『個人』の顔を隠し、やがて天下りする」(佐高信・宮本政於『官僚に告ぐ』朝日新聞社)といわれている。Y県のエリートである主人公もそういう官僚の一人である。
 そんな肝心な点をいっさい問題にしないこの本がベストセラーというから、驚きである。


■県庁や県職員が大量購入?

 いったい誰がこの本を買っているのだろうか。『千葉日報』(2005年12月26日)はこう記している。
     「出板社によると、特に県庁所在地、その中でも県庁内の書店で顕著に売り上げを伸ばし現在、16万部。『少し前の自分を見ているようだ』『研修に使いたい』という県職員からの読者はがきも戻っているという」
 なんことはない。全国の県庁や県職員が大量に購入しているようである。

(2006年2月)  






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