■書籍・書評


 石渡正佳著

 『利権クラッシュ』


木下 博





・著 者:石渡正佳
・書 名:利権クラッシュ
     〜日本列島分裂! 地方からの夜明け〜
・発行所:WAVE出版
・価 格:1500円



 著者の石渡氏は千葉県職員である。石渡氏が昨年12月に刊行した処女作『産廃コネクション──産廃Gメンが告発! 不法投棄ビジネスの真相』(WAVE出版)はたいへんな反響をよんだ。5万部以上を売り上げ、ベストセラーになった。この本は、産廃Gメンとしての現場体験を基礎にし、産廃投棄の知られざる実態をえぐり出したものとして高く評価されている。私も深く感動した。


●利権の具体的実態は書かれていない

 それだけに、今回の『利権クラッシュ』にも期待し、発売と同時に購読した。
 しかし、正直いってガッカリだった。タイトルは「利権クラッシュ」なのに、利権の具体的実態が書かれていない。千葉県職員なので公共事業などをめぐる利権の実態をいろいろ知っているはずなのに、具体的な問題をまったくとりあげていないのである。
 そればかりか、「公共事業の発注担当者は、国でも地方でも、なんとかして無駄をなくそうとがんばっている。にもかかわらず、結果として、無駄な公共事業はなくならない」などと、公務員をかばったり、事実と違うと思われる記述があちこちにみられる。処女作とはおおちがいである。


●道州制の導入を提案

 しかも、沈没しつつある日本の活路として道州制の実現を提案している。税源を完全に地方移譲して道州制を導入し、中央と地方の主役交代をはかることが必要というのである。「道州制移行後の旧都道府県域は、道州の地方局として再編成される」とも書いている。
 しかし、道州制の導入は、財界などが盛んに主張しているものである。そのねらいは、市町村合併とおなじである。巨大プロジェクトなど大型開発をすすめたり、自分たちの意のままになる政治や行政をすすめるためには、道州制のほうが都合がいいからである。住民自治もむずかしくなる。
 いまやるべきことは、千葉県住宅供給公社問題にみられるように、利権にまみれた県政の実態を暴き、それを是正することではないのか。そうした実態に目をつぶり、道州制を導入すれば沈没を防げるというのは短絡的である。


●「改革派知事・市長」の連携は地方分権政党へ発展するのか

 著者はこんなことも書いている。
 「政党の存在理由も、道州制移行によって大きな転換を求められる。現在、改革派知事・市長の連携が盛んに行われているが、これが地方分権政党へと発展することが考えられるし、既存の政党も、地方分権に対応した政策転換を求められるだろう。このような大胆な統治機構の改革は、革命とよぶにふさわしい」
 いまの日本の政治情況をしっかり見つめてほしい。「改革派知事・市長」の連携が地方分権政党へ発展するなど可能なのか。
 「改革派知事」とは堂本暁子・千葉県知事らのことを指していると思われる。しかし、堂本知事は、予算編成では自民党の要求を100パーセントとりいれている。沼田前知事が県政の最重要課題として押し進めた大規模開発「千葉新産業三角構想」(幕張新都心、かずさアカデミアパーク、成田空港関連開発)はそのまま継続である。これに新たに常磐新線沿線開発を加えて「四角構想」を推進中である。市川市民などが強く反対している東京外郭環状道路や首都圏中央連絡自動車道などの大規模高速道路も積極推進の姿勢である。“第二のアクアライン”といわれる東京湾口道路(富津─横須賀間)も推進の構えである。選挙公約では「バブル的発想の大規模開発は見直す」などと言っていたが、就任後はその公約を破りつづけている。
 こうした堂本知事について、ルポライターの永尾俊彦さんは『週刊金曜日』(2003年4月4日号)でこう述べている。
 「千葉県政の根本問題である公共事業には抜本的なメスを入れていない。公共事業職場のある職員はこう証言した。『入札はほとんど談合でしょう。設計価格が高く設定されているんで20%程度も儲けが出るから自民党に献金もできる。業者は県会議員と一緒に選挙運動もやってますよ』。三番瀬の埋め立て計画だけは白紙撤回したが、逆にそれを隠れ簑(みの)にするかのように堂本知事は、他の巨大開発はやめようとしない」
 堂本知事はまた、千葉県住宅供給公社問題の疑惑解明も及び腰である。この問題は、公社が市原市の山林約75.2ヘクタールを買収する際、倍以上の不動産鑑定結果を採用して70億円高い金額で購入したり、土地がより高値で取り引きされるよう業者に契約前の開発許可取得を指示したというものである。
 知事は、こうした疑惑を解明しないまま、同公社かかかえる911億円もの借金を県民の血税によって肩代わりしようとしている。これについては、新聞も次のように記している。
 「(住宅供給公社問題の監査結果の)最大のポイントは『政治家など外部の不正な働きかけはあったのか』だったが、確認できなかった。『灰色』決着のまま、県は、多額の借金を抱える公社の支援に乗り出そうとしている」(『朝日新聞』2003年11月20日)

 さらに、ダム建設を次々と中止させるなど、保守勢力と対決しながら改革をおしすすめている田中康夫・長野県知事は「改革派知事」に加わっていない。そんな「改革派知事・市長」の連携が地方分権政党へ発展することなどありえるのだろうか。また、「税源の完全地方移譲」や「中央と地方の主役交代」などができるのかどうか。それを実現するみちすじの記述がまったく不十分なので、著者の提案は絵空事としかみえない。


●石渡氏のアマチュアパワーに期待

 同書は抽象的な記述が多く、はっきりいって毒にも薬にもならない本になっている。処女作の『産廃コネクション』を読んだ人は「なーんだ」と思うのではないだろうか。

 石渡氏は文章力がたいへんすぐれている。『産廃コネクション』でみられるように、現場感覚も鋭いものがある。そうしたアマチュアパワーを発揮し、行政体験や現場感覚に立脚したものを書いてほしいものである。
 たとえば評論家の佐高信氏は、学者の姿勢についてこうなげいている。
 「現実に関わると称して権力の内部に入り、とめどなくその言説を曲げていく学者や、一切、現実に関わらず、ひたすらカビ臭さだけを漂わせて朽ちていく学者との両極端に分かれている」(金子勝・佐高信著『誰が日本経済を腐らせたか』毎日新聞社)
 こうしたなかで、石渡氏のような在野研究者は貴重である。初心にかえってかんばってほしいものである。

(2003年11月)  




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