■書籍・書評


 平野拓也著

 『官僚は失敗に気づかない』


中山敏則





・著 者:平野拓也
・書 名:官僚は失敗に気づかない
・発行所:筑摩書房
・価 格:700円



●「敗戦」を指揮した官僚が責任をとらず、今も重要政策を決定

 本のカバーには、次のように書かれています。
「官僚の本質は今までの10年の実績を見れば明らかです。言うならば、『失われた10年』として、世界経済戦争に敗れたにもかかわらず、敗戦を指揮した参謀が相変わらず実質的な作戦を立案しているという奇妙な現実が、現実の姿です」
 また、帯にはこんな宣伝文句が書かれています。
「特権は能力を磨かない。初めから幹部を固定するキャリア制度は自己保身しか生まない。彼らは責任という発想をもてない」
 ようするに、日本の高級官僚は、「失われた10年」の責任をとらず、何とか自分たちが生き延びようと国家経済の再生を議論したり、重要な政策を決定している。これが、日本を沈没にむかわせている──ということです。これには、まったく同感です。
 著者は元大蔵省役人(税関相談官)です。「長年の大蔵省役人生活を通じて官僚システムの病根を知っているだけに、日本の停滞の根深さも私にはわかる気がします。しかし、この官僚主導の政治システムを変えなければ日本は変わらないという思いは、私の心に深く食い込んでいます」と書いています。
 本書に共感した点はたくさんありますが、ここでは日本経済再生のカギとしての公共事業削減にふれます。


●過度の公共事業がモラルハザードを蔓延化

 日本の一つの特徴は「過度の公共事業という財政出勤」にあるとし、こう述べています。
「公共事業費用は、先進諸国平均がGDP(国内総生産)比2%のところを、6〜8%と3倍から4倍になっています。しかも、この異常な出勤が90年代を通じて継続しました。この異常な出勤は、経済活動にプラスではなくマイナスの効果となっているのではないかと思われます」
「国民は政治が無駄な公共事業をすればするほど、我が国の政治の無能に呆れ、こんな政治が続く限りいつか破綻がくる、と不信をいだくのです。信頼の喪失です。このように、信頼が失われる社会では、経済は停滞すると考えられます」
「公共事業をつぎ込むことによって経済の再生を図るという我が国の政策は、国民の意識を大きく歪めてしまいました」
「そこでは、住民自らが新しい産業を興したり、起業にチャレンジしたりするよりは予算を獲得できるように中央にぶら下がろうという意識を生み出すだけです」
 著者は、公共事業を誘致するために地方から中央への予算獲得運動などが繰り広げられ、その過程で行政や政治が歪められ、行政、政治家、企業、住民のモラルハザード(倫理観の欠如)が進んだ、と指摘しています。これは、まったくそのとおりです。


●公共事業費を欧米先進国並みに3分の1に削減すべき

 著者は、日本の財政を分析し、こう結論づけています。
「基本的には、公共事業という非効率な官需を減らし、効率の高い民間需要に転換することです。それによって日本経済は再生の途を辿ることでしょう」
「公共事業費用を先進諸国並みのGDP比2%、11兆円まで削減すれば、約21.9兆円の削減となり、単年度赤字はわずか1.7兆円となります。残り1.7兆円については、公共事業と同じく無駄遣いである特殊法人の補助金(一般会計から2.7兆円、特別会計から1.5兆円)を削減すれば済みます。これで、我が国のプライマリーバランス(国の予算のなかで国債関係を除いた収支)は確立できるのです」
 公共事業を大幅に削減するうえでの参考として、欧米先進諸国の例をあげています。
「この10年間、我が国の経済は停滞しましたが、その間一貫して、政府が試みたのは対処療法でした。その内容は、『地方経済振興、失業改善』という名目で、公共事業でお金をつぎ込み、景気の回復を持つという方法だったのです。しかしながら、すでに欧米諸国では、不況時に公共事業にお金をつぎ込んで景気の回復を図るという政策は、実質的に効果がなく、国の財政事情を悪化させるだけだ、として採用されていません」
 たとえば英国は、1974年にGDP比5.3%だった公共事業を、8年後の82年には1.8%(約3分の1)に削減しました。ドイツも、一時は4.7%だったのを2%に減らしました。
 著者は、「先進諸国はこのように公共事業削減の道程をたどっており、我が国も公共事業を2%に削減する、というのは歴史の必然でもあるのです。問題は、それをいつから実施するのかという決断だけにしか過ぎません」と書いています。
 ドイツのアイヒェル蔵相は2001年9月、日本をハッキリ名指して、「日本を見よ。国家による景気操縦がどのような結果をもたらしたか。日本政府は来る年も来る年も、借り入れによる財源調達で歳出を増加させ(注、公共事業のこと)、景気にテコ入れを試みてきた。ドイツ政府はこのような誤りをするつもりはない」という予算演説をおこなったそうです。

 本書を読めば、日本の公共事業がいかに異常に肥大化しているか、そして、それを欧米先進諸国並みにいますぐ削減することがいかに大事かがよくわかります。
 これができなければ、日本は本当に沈没です。そして、太平洋戦争と同じように、その犠牲は一般国民におしつけられます。

(2003年1月)  




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