千葉県環境行政の実像


中山敏則



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 たいへん豊かだった房総の自然は、乱開発などによって破壊されつづけてきた。浦安から富津までのキロにおよぶ遠浅の海岸は、大部分が埋め立てられた。日本の原風景を形づくっていた里山や谷津田も、ゴルフ場、工業団地、住宅団地などの造成や山砂採取、産廃・残土投棄などによってかなりの部分が破壊された。住環境の破壊も各地で深刻になっている。
 このように千葉の自然がメチャクチャに破壊され、大気や海・河川がひどく汚されつつあるとき、県の環境部署はなかなか腰をあげようとしなかった。市民団体が環境保全策を求めても、「知らぬ顔の半兵衛」をきめこんだのである。
 そればかりか、環境部署が環境破壊に荷担することもしばしばだった。


 公害耳打ち事件


 たとえば、1972年に起きた「公害耳打ち事件」である。
 同年3月、県議会議員人が海上から臨海部工場の視察をおこなった際、県の公害対策局長と大気保全課長(いずれも当時)は、事前に20余の企業に対して「ばい煙及び排水について十分注意すること」という電話連絡をした。視察時間も教えた。このため各工場は、「釜洗浄水の排出時間をずらすこと」「着色水についても同様とすること」「ばい煙の発生なきよう燃焼に注意すること」といった指示を現場担当者に指示した。
 これが県議会で問題にされ、友納武人知事(当時)は局長と課長を更迭した。しかし「更迭」は名ばかりで、じっさいは栄転だった。
 また当時、県幹部の間では、それがなぜいけないことなのか、なぜ「更迭」されたのかがよく理解されていなかった。水質保全課長に「更迭」された元大気保全課長は翌年、ある官庁関係雑誌で次のように書いた。
     「審議会の視察は立入検査などと異り何ら秘密にする必要はなく、しかも審議会には企業代表も多数委員になっているのだから、その日程を知らしても差しつかえないと筆者は当時思ったものであるが、世論が汚職をしたかのような扱いをするのには粛然たる思いであった」


  「干潟はもう必要ない」


 また、東京湾沿岸の広大な干潟が次つぎと埋め立てられていくなかで、石川敏雄さん(千葉県自然保護連合の初代代表)らが埋め立て抑制を要請した際、県は次のように回答した。
 「こんな干潟はどこにでもあり、そんな貴重なものではない」「もう内湾漁業の時代ではない。遠洋漁業の時代だから、干潟はもう必要ない」「千葉県は昔から貧乏だったから、工業化して儲けるのだ」と。

 さらに、九十九里海岸に有料道路を建設するなど、九十九里を一大レジャー基地とする計画がもちあがった際、その見直しを求めた石川敏雄さんらに対し、県幹部はこう答えた。「九十九里にはあんな広い砂浜が遊んでいる」。

 こうした姿勢は、千葉県の環境行政全般にみられるものだった。だから70年代や80年代は、県の「大気保全課」は「大気汚染課」、「水質保全課」は「水質汚染課」、そして「自然保護課」は「自然破壊課」と揶揄(やゆ)されていたのである。

 そうした姿勢は変わったのだろうか。残念ながらノーといわざるをえない。具体的にみてみたい。


 射撃場鉛汚染を隠ぺい


   1999年11月、市原市古敷谷の県射撃場(管轄は県自然保護課、運営は県猟友会)の周辺水路で、環境基準の7倍もの鉛が検出されたことが市原市の水質調査でわかった。翌年(2000年)2月に県が実施した水質調査では、同水路から環境基準の60〜70倍にあたるきわめて高濃度の鉛が検出された。
 この水路は、市原・千葉市民の飲料水源である高滝ダムにつながっており、県民の生命と健康にかかわる重大な問題である。しかし、この事実を県はひた隠しにした。

 県は、「千葉県射撃場環境保全対策検討会」という組織を県庁内に秘密裏に設けた。2000年2月の会合で、職員から「まずは射撃場の営業をやめるべきだ。汚染を知りながら、鉛をまき続けているのはよくない」「部外秘にも限界がある。できる範囲で発表すべきだ」といった声があがった。しかし同課は、事実の公表も射撃場の閉鎖も退けたのである。

 この汚染問題は、2001年4月に県職員が内部告発したため、やっと明るみにでた。環境保全を推進・指導する立場にある県の環境部(現在の環境生活部)は、自前の施設から有害物質を出すばかりか、その事実を内部告発があるまで隠ぺいしつづけたのである。


 産廃不法投棄を放置


 2000年1月、市原市古敷谷の谷津田で大型ダンプが次つぎと林道を行き交い、産廃の不法投棄がはじまった。住民は、ただちに県の産廃担当部署に連絡し、投棄物の調査や林道へのダンプの通行止めを依頼した。しかし、県はなかなか動かなかった。再三の要請で現場調査に行ったものの、産廃業者の威圧に屈し、すごすごと帰ってしまった。それからは何の対策も講じなかった。

 谷津田には県土木部(現・県土整備部)が管理していた国有財産(赤道=道路法の適用を受けない公道、青道=河川法の適用を受けない水路)が存在しており、それが産廃投棄により不法占拠された。それで、住民がこれらの国有財産を管理する県市原土木事務所(現・市原整備事務所)に通報したが、ここもまったく動かなかった。

 仕方がないので住民が奮起し、ダンプを止めて「搬人物を見せてくれ」などの行動をとると、逆に「なぜ車を止める」「営業妨害だ」などのいやがらせや脅しを受けた。町会長などへの個人的攻撃もあった。

 こうして、警察が動くまで6か月間にわたり、大型ダンプ3000台分の産廃が投棄されつづけた。
 産廃の山は高さが25メートルにもなり、これがそのまま残ってしまった。表面を残土で覆い隠した産廃から有害物質が小川に流れ、下流にある市原・千葉両市民の飲み水である高滝ダムを汚染しつづけた。


 苦情通報の住民名を産廃業者に連絡


 産廃の不法投棄が大きな問題になっていた市原市で、県に苦情を通報した住民の名前を県の担当職員が産廃業者に知らせていた。これが、2001年6月の市原市議会で明らかにされた。事実を知った住民や町会は、「苦情の内容が名前ととともに業者に筒抜けになっていたのではとても行政を信頼できない」と、堂本知事(当時)に強く抗議した。県は事実を認め、担当職員らを注意した。

 しかし同年7月上旬、同じ職員が、産廃不法投棄を通報した市原市の住民2人に対し、「業者に名前を教えるがいいか」と応対したことがわかった。県が「再発防止を徹底した」とした後も同じことがくりかえされたことで、住民らは「県はどんな指導をしていたのか」と批判した。


 産廃処分場許可取り消し判決に控訴・上告


 エコテックが旭市、銚子市、東庄町に計画している産業廃棄物最終処分場をめぐり、周辺住民らが設置許可取り消しを県に求めた行政訴訟で、千葉地裁は2007年8月、住民側の訴えを認め、許可取り消しの判決を下した。ところが堂本知事は、この判決を不服として控訴した。原告側の田中由美子弁護士は次のようにコメントした。
     「今回の知事の判断により、県の環境行政は大きく後退した。また、県の環境行政が、体面を優先し、住民の命や健康をないがしろにするものであることも明らかになった」

 今年(2009年)5月には、許可を取り消した一審(千葉地裁)判決を高裁も支持し、県の控訴を棄却した。東京高裁の裁判長は、「県の許可手続きに重大な欠陥があった」と指摘した。ところが驚くべきことに、県は、この二審判決も不服として最高裁に上告したのである。


 大企業が反対すれば不許可


 エコテック産廃処分場の問題では、2009年の5月と6月、地元住民が県庁に二度出向き、「森田知事は上告しないで!」と切実に訴えた。しかし、森田健作知事は面会を拒否しつづけ、廃棄物指導課の課長や担当主幹らが対応した。課長らは「法制度上、許可せざるをえない」を繰り返した。

 一方、木更津・君津両市の丘陵地域にある「かずさアカデミアパーク」(工業団地)の隣接地に計画された建設残土処分場は、法制度上の許可条件を満たしていたにもかかわらず、県は許可しなかった。不許可の理由は「進出企業の反対」と「静穏な環境の悪化」だった。新聞はこう報じている。
     「県は同パークを新産業三角構想の一角として、企業誘致を強化している最中で、『(同パークは)良好な環境が売り物。誘致への影響が懸念される』とし『隣接地に処分場が建設されるのは困る」(商工労働部)と反対の構えを崩していない。ただ、これまで2回の申請とも、県の残土条例の基準を満たしており、今度の計画も、基準をクリアしていれば、県は本来申請を拒否することはできない」(『千葉日報』2006年8月11日)

 ご覧のように、県は、産廃・残土処分場が工業団地の隣接地に計画されたり、大企業が反対すれば、たとえ許可基準をクリアしていても不許可にするのである。そうでない場合は、住民たちが反対しても法制度をタテにしてどんどん許可する。たとえ地裁や高裁が許可取り消し判決を下しても、それを認めずに控訴する──。これが県の姿勢である。

 エコテック産廃処分場の許可取り消しを求める住民たちは、県の環境対策監や廃棄物指導課長らと交渉し、こんなことを切切と訴えた。
 「産廃処分場ができると、汚染によって優良農地がダメになる。風評被害も確実だ」「飲み水や農業用水も大きな影響を受ける」「高裁判決を尊重し、上告しないでほしい」と。
 しかし、県の官僚たちはまったく聞く耳をもたなかった。


 三番瀬のラムサール条約登録に後ろ向き


 三番瀬は船橋市や市川市の地先に広がる貴重な干潟・浅瀬である。県や市川・船橋両市は、1980年代までに三番瀬の半分近くを埋め立ててしまった。しかし、県が1993年に策定した2期埋め立て計画(市川2期・京葉港2期地区計画)は、埋め立て反対運動や「これ以上埋め立てないで」という県民世論の高まりにより、2001年9月に白紙撤回された。

 残された1800ヘクタールの三番瀬は、東京湾奥部に残された貴重な干潟・浅瀬である。日本有数のスズガモ、シギ、チドリの飛来地として、国際的にも重要な渡り鳥の中継地となっている。とくに三番瀬は日本一のスズガモの生息地となっており、冬には数万羽が確認されている。
 そんな大切な三番瀬を恒久的に保全するため、保全団体はラムサール条約の登録湿地とするよう求めている。登録を求める署名も10万筆を突破した。

 2008年3月には、船橋市漁業協同組合が臨時総会でラムサール登録賛成決議をあげた。環境省も、次回の第11回ラムサール条約締約国会議(2012年予定)までに6か所以上を新規登録するとし、その有力候補地に三番瀬をあげている。

 しかし、県は三番瀬のラムサール登録に消極的である。自然保護課長は、2009年6月県議会予算委員会における丸山慎一県議の質問に対し、ラムサール登録の手続きが進まない理由として「水面の埋め立てや建物等の建設など一定の行為をする場合は、環境大臣の許可が必要になる」と答弁した。

 要するに、ラムサール登録地になると、埋め立てたり、道路(第二東京湾岸道路)を通したりすることができなくなるので、登録手続きに後ろ向きなのである。


 盤洲干潟の保全にも消極的


 県自然保護課は、盤洲干潟(小櫃川河口干潟)の恒久保全にも消極的である。
 木更津市の海岸に広がるこの干潟は、1400ヘクタールにおよぶ日本最大級の砂質干潟である。現存する干潟では、日本屈指の自然景観と生態系を維持している。したがって、「小櫃川河口・盤洲干潟を守る連絡会」が、県自然環境保全条例にもとづく自然環境保全地域の指定を同課に要請している。しかし、その指定をさぼりつづけているのである。


 「生物多様性保全」はかけ声だけ


 千葉県はいま、「生物多様性の保全」をしきりに唱えている。しかし、内実をみると、言葉だけがおどっているような気がしてならない。

 たとえば県は、「干潟的環境の形成」という名で三番瀬の猫実川河口域を人工干潟にすることをめざしている。しかし、この海域は、水質浄化能力がたいへん高く、多種多様な生き物が生息する重要な浅瀬である。稚魚のエサとなる底生生物なども豊富で、三番瀬の中で最も生物相が豊かな海域となっている。泥干潟やカキ礁もあるというこの海域の底質環境の多様性は、三番瀬全体の生態系の豊かさに大きな貢献をしている。

 三番瀬再生計画検討会議(通称・三番瀬円卓会議)が2004年1月に堂本知事に提言した「三番瀬再生計画案」にもこう記されている。
     「多様性を失って均一な砂質の底質環境となりつつある現三番瀬において、泥質であり汽水域の生物が多数生息している猫実川河口域の底質環境はまず保全すべきです」「現在の泥干潟を砂浜に変えることは生物や環境の多様性を失わせることになります」
 ところが、県はそんな提言をまったく無視である。そして、生物多様性豊かな海域に土砂を投入して生き物を埋め殺しにし、泥干潟を疑似自然(人工干潟、人工砂浜)に変えようとしているのである。「生物多様性の保全」を県民にアピールしながら、実際はこんなことをしているのが千葉県の環境行政である。これは、殺人者が「ポア」とか「救済」を言いながら殺すのと同じではないだろうか。


 闘わなければ自然は守れない


 以上の事実をみれば、千葉県の環境行政の体質が70、80年代と基本的に変わっていないことがおわかりだと思う。

 近年は、「行政との対立は時代遅れ」を強調する環境団体が増えている。これらの団体は、イベント開催、クリーンアップ(清掃)、情報提供、啓蒙など、行政が許容する範囲内の活動しかしないのである。自然破壊に必死に抵抗している団体を嘲笑したり、自然をメシの種にする市民活動家や学者も目立つ。

 しかし、「自然を守ろう」や「生物多様性の保全」を念仏のように唱えても、それだけでは自然や生物多様性は守れない。これは、幾多の事実が証明している。

 「房総の自然保護運動の父」と呼ばれる故・石川敏雄さん(前出)が私たちに残した格言は、「闘わなければ自然は守れない」である。これは至言であり、現在でも色あせていない。

(2009年12月)




〈注〉本稿は、『ちば─教育と文化』第75号(2009年12月、千葉県教育文化センター編集・発行)に掲載されたものです。






市原市古敷谷の谷津田に不法投棄された産廃




銚子市高田町の産廃不法投棄の山。人(左側)が小さく見える。




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