八ッ場ダムは疑問だらけ

〜“首都圏最後の水がめ”を見学〜


中山敏則



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●吾妻渓谷と川原湯温泉は水没

 2002年3月、八ッ場ダム予定地を見学した。
 八ッ場(やんば)ダムは、群馬県吾妻郡長野原町に計画されている。“首都圏最後の水がめ”といわれており、町を流れる吾妻川をせきとめてつくろうとするものだ。この町には“関東の耶馬渓(やばけい)”と呼ばれるほどのすばらしい吾妻渓谷がある。また、大自然につつまれたたいへん静かな川原湯温泉もある。しかし、ダムの建設によって、渓谷のかなりの部分と温泉街のすべてが水没する。こんなすばらしい渓谷や温泉がなくなってしまうのかと思うと、胸がふさがれる。
 私たちは吾妻渓谷を見学したあと、同温泉の旅館「柏屋」で八ッ場ダムの事業概要や諸問題などについて話を聞いた。話をしてくれたのは、群馬県自然保護団体連絡協議会代表の飯塚忠志さんである。飯塚さんは「八ッ場ダムを考える会」の副代表でもある。1日目の夜は長野原町会議員の牧山明さんも同席し、地域の実情などについてさまざまな話をしてくれた。









●ダム計画の問題点

 飯塚さんは、ダム計画がもちあがってから50年がたつことや、猛烈な反対運動がつづいたことなどを話し、ダム計画にはつぎのような問題があると指摘した。


(1)必要性に疑問

 ダム建設の必要性に基本的な疑問がある。建設の目的は洪水調節と都市用水(水道用水+工業用水)の開発である。
 しかし、洪水調節についてみれば、その効果は机上の計算である。八ッ場ダムができることによって果たしてどれだけ大洪水を防げるのか、疑問がもたれている。また、事業主体の国土交通省は「200年に一度の大洪水に対応」としているが、他方では「ダムの寿命は100年」と言っている。ということは、200年に一度の大洪水が起きる頃にはダムの寿命はつきていることになる。
 また、都市用水についても、需要は今後増えないと予想されている。ダムの水は、東京、埼玉、千葉、茨城、群馬、栃木の1都5県が水道用水や工業用水として利用することになっているが、いずれの都県も水使用量は横ばい又は減少傾向にある。したがって、今では八ッ場ダムを建設する必要性はまったくない。


(2)代替地が未整備なのに移転補償交渉

 ダム建設によって川原湯温泉はすべて沈んでしまう。川原畑地区も全部水没する。長野原地区なども一部が沈み、水没世帯数は5地区あわせて340世帯におよぶ。水没する住民と国土交通省との補償交渉が昨年決着し、個別移転補償がはじまっている。
 しかし、代替地の整備はまだはじまっていない。代替地を希望しても、代替地がまったくできておらず、自分がどこに移転するのかもまったくわからない。また、代替地の取得価格もいくらぐらいになるのかがまったくわからない。それで結局、補償金をもらって町から出ていかざるをえない状況に追い込まれている。
 そうなると、ますます過疎化が進み、代替地に移転する人はわずかしかいなくない。


(3)自然環境を破壊

 ダム建設によって天然記念物の岩脈が水没する。環境省のレッドデータブックに記載されている数多くの動植物も絶滅する。イヌワシやオオタカなどの貴重な猛禽類にも影響が必至である。


(4)酸性が強く飲料水には使えない

 吾妻川は酸性が非常に強い。それで、水を中和するために一日60トンもの石灰を投入している。この中和費用は年間約10億円である。
 しかし、それでも完全に中和されるわけではない。川を見れば分かるように、石は茶褐色に染まっている。そんな川をせきとめてダムをつくっても飲料水などには利用できない。


(5)ダム湖は観光資源にならない

 川原湯温泉は、水没地の上に移転することになっている。いわゆる“ずり上がり方式”である。しかし、移転予定地(代替地)は過去に何度も災害が発生した危険地帯である。上は土砂崩れの恐れが高い急な勾配の山、下は人造のダム湖である。そのダム湖も、中和生成物の堆積ダム湖になる可能性が大きい。乳白色や緑色の藻類が水面を覆った人工湖やダムが観光資源になるとはとても考えられない。今の川原湯温泉は、豊かな自然に包まれ、ひなびた温泉郷として親しまれているが、そんな場所に移転したら、湯治客もあまり訪れないのではないか。


(6)ダムは渓谷美をだいなしにする

 吾妻渓谷は、春から夏にかけて流水の量が増える。この増水が岸壁のゴミや草木を流し、すばらしい渓谷美を形づくってきた。ダムが建設されれば、渓谷のかなりの部分が水没する。ダム下流部分の渓谷は残ることになるが、水量が極端に減る。水がわずかしか流れなくなると、岸壁に草木が生えたり、汚れたりして、渓谷美はだいなしになってしまう。


(7)国や県が“兵糧攻め”

 住民は、かつては元気にダム建設反対運動をくりひろげてきた。1974年にはダム反対派が町長に当選した。しかし、国と県による町政への締めつけがはげしく、町長はダム反対から賛成の姿勢に変わった。
 この50年間、国や県による“兵糧攻め”がかなりはげしくつづけられた。そのため、住民は闘いに疲れきってしまった。また、世代交代が進んだこともあって、ついに補償交渉に応じた。


(8)本当にダムに賛成している住民はいない

 ダムができないと補償金がもらえないために、ダム建設に反対する住民はいなくなった。しかし、本当にダムに賛成している住民はいない。


(9)関係自治体と住民は多額の負担

 ダムの総事業費は5047億円とされている。ダムの本体工事はまだ始まっていないのに、すでに今年度までに1300億円がつぎこまれている。事業単価の上昇や関連事業などを考慮すると、じっさいの事業費は5047億円を大幅に超えるとみられている。
 事業費5047億円の負担内訳をみると、国2738億円、東京都653億円、埼玉県715億円、千葉県395億円、茨城県217億円、群馬県318億円、栃木県10億円となっている。財政難にあえいでいる自治体が、不必要なダムのために多額の負担を強いられることになる。









(10)地元にも財政負担が重くのしかかる

 “地元負担はゼロ”ということになっていたのに、長野原町は関連事業への一部負担を余儀なくされていて、財政負担が重くのしかかっている。移転補償も、“国や県はやりづらい”ということで町が肩代わりすることになった。そのため、町は、移転補償のために40億円もの起債(借金)を見込んでいる。


(11)公共事業の見直し対象から除外

 いま公共事業の見直しがさけばれているが、「八ッ場ダムはすでに工事が進んでいるので見直し対象から除外する」とされている。このダムは、前述のように必要性に大きな疑問がある。しかし、それでも莫大なカネをつぎこんで強引に着工しようというのは“ゼネコンを儲けさせるため”としか考えられない。


(12)ダムを中止し、国と関係都県の負担で地域振興を

 住民は長い長い反対運動に疲れきり、ダム建設を容認する方向に変わった。しかし、これまで述べたように、移転再建の困難さはまったく解決していない。
 それを考えれば、住民にとって最善の選択は、ダム建設を中止して地域振興をはかることだ。温泉街についていえば、自然豊かな現在の場所でより多くの湯時客を呼び寄せられるようにすることである。そのために必要な費用は、ダムが必要だと言い続け、地元住民に苦難を強いてきた国と関係都県が負うべきである。


 飯塚さんは、ダム計画の問題点などをこのように話したあと、「ダムのために住民はたいへんな経済的精神的損失や苦痛を強いられている。しかし今は住民が反対運動をすることは不可能になっている。そこで、つくる必要のないダムのために莫大な額の負担を強いられる関係自治体の住民が立ち上がってくれることを期待している」と訴った。


●千葉県の395億円負担にビックリ

 ほとんどの参加者が今回の見学で八ッ場ダムのことをはじめて知った。飯塚さんや牧山さんの話を聞いて、ダム計画への疑問などが活発にだされた。
     「千葉では、水道用水の需要は頭打ちになりつつある。工業用水は需要が減り続けて余っている状態だ。たとえば、川崎製鉄千葉工場は工業用水をものすごく使用しているが、工場を大幅に縮小するので、水の使用量はかなり減る。こんな状態なのに、千葉県はなぜ八ッ場ダムを必要とし、水道用水や工業用水を新たに確保しようとするのか。しかも、県は財政再建団体へ転落すれすれの危機的状態にある。そんななかで395億円も負担するとは。バカげているとしかいいようがない」

     「代替地がまだ整備されていないのに移転補償を進めるというのは、通常の公共事業では考えられないこと。普通は、移転先の代替地を見てもらうなかで補償交渉をすすめる。八ッ場ダム事業の進め方は異常だ。これでは、住民もやりきれないだろう」
──などだ。


●ダムは水不足に対応できない

 飯塚さんたちのダム反対運動にたいしても率直に質問がでた。たとえば、「夏の渇水期にダムが干あがっている映像をテレビなどで見せられると、やっぱりダムは必要だと思う」などである。飯塚さんはこの点について次のように述べた。
     「ダムが干あがっているときに、なぜ利根川では大量の水が流れ、多量の水が海に流出しているのかを考えてほしい。夏は洪水が起きやすい時期でもあるので、ダムの水をわざと放流し、満水にしない。満水にしておけば、大雨時に下流に災害をおよぼすからだ。じっさいにダム放流による災害が各地で起きている。つまり、ダムは満水にできないので、渇水に対応できない。ようするに、ダムをいくつ建設しても水不足は解消しないということだ。さらに、群馬県にあるダムの多くは東京電力の水力発電にも使われている。そうしたダムでは、電力消費シーズンの夏にダムの水をどんどん放流し、発電に利用している。こうした事実があることもぜひ知ってもらいたい」


●八ッ場ダムの事実を知ってショック

 参加者は、飯塚さんや牧山さんの話を聞き、ダム建設によって住民がたいへんな苦難と犠牲をしいられていることを知った。このダムが今では必要のないものになっていることも認識した。八ッ場ダムの事実を知ってショックを受けるとともに、ダム問題をより多くの人に知らせることの必要性などを確認し、吾妻渓谷と川原湯温泉をあとにした。

(2002年3月)







飯塚さんの話を熱心に聞く








講師の飯塚忠志・群馬県自然保護団体連絡協議会代表








飯塚さんや地元町会議員の牧山明さんと深夜まで懇談








川原湯温泉街








吾妻渓谷










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