★大規模開発と行財政

《資 料》


徹底検証

湾岸ゴーストタウン「幕張新都心」の謎

〜『週刊プレイボーイ』1994年10月18日号より〜



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 かつて潮干狩りの名所。今、新車展示場。千葉市美浜区に展開する企業、商業、イベント会場などが集まった522ヘクタールに及ぶ一大都市計画地・幕張新都心。高層ビルが立ち並ぶその未来型都市は、驚くほど人の少ない、そして、ミョーな空き地の多い不思議な空間だ。「幕張への素朴な疑問」をちょいと迫っかけてみた。
 
 
●ホテルとビルの乱立する場所
 
 幕張のホテルで、遅れた夏休みを過ごしていた女の子2人組に聞いてみた。
 「埼玉から来ました。ベイエリアっていうから、ディスコとかレストランとかオシャレな店がいっぱいあるかと思ったら観光地もなにもない。人も歩いてないし。ディズニーランドも、15分で行けるって聞いてたのに、ホテルからだと40分。これなら浦安に泊まったほうがよかったって話してたの。千葉と埼玉ってよく比較されるけど、『勝った』って思った(笑)」
 幕張新都心には、ニューオータニ、プリンスなどホテルが6つもある。ホテルの合計部屋数は全部で2000室以上。リゾート地区でもなく、名所旧跡があるわけでないこの場所に、なぜこんなにも。
 「去年あたりまでは集客にずいぶん苦労していたようですが、最近では、パジャマやぬいぐるみをプレゼントするパックツアーが若い女の子たちに好評だったようですよ」(ホテル業界に詳しい関係者)
 ホテルに入ってみる。どこもしストランは“バイキング”“食べ放題”というコピーのオンパレードだ。
 「休みの日は時々、レストランのバイキングに家族で来るよ。宿泊? しないしない」(千葉市内在住の男性)
 オマケ付きパックツアー。バイキング方式。各ホテルが実質的なプライスダウンを続けるのは、冒頭の彼女の言葉どおり幕張に観光がないせい。では、観光地でない場所になぜ6つもホテルが建ったか。それは“幕張メッセ需要”を当て込んだからだ。
 メッセのイベントに訪れた人が宿泊施設として利用する−−ホテル各社はそう踏んだ。が、実情は違った。メッセに来ても高級ホテルには泊まらない。日帰りで帰るか、6つの中で最も低料金の中堅シティホテルに客は集中する。
 「宿泊料がかなり安いんですよ。そこは別棟も現在建設中です」(前出・ホテル関係者)
 ホテル各社はとっくに “メッセ需要” はあきらめているという。頼りになるのはパックツアーと披露宴……。そして、そちらのほうが好調というのはなんとも皮肉な現象だ。
 観光名所のないハンデを背負った場所に勤務したホテルマンは企画力を向上させることができるにしても、この状況はホテル側が当初から望んだものではなかった。メッセの客が来ればそれに越したことはなかったのである。
 客が来ないのはホテルだけじゃない。幕張新都心地区には15の高層オフィスビルが建っているが、テナントが入らなくて四苦八苦しているビルが少なくない。4フロアまるごと借り手がいないというビルもある。1階のエントランスはビルの顔だが、幕張新都心では人の出入りが少なく、どのオフィスビルも閑散としている。あるビルの管理者は「入居状況は、正直、芳しくない」と苦しそうに語る。
 三井不動産、第一生命、鹿島で運営し、幕張新都心のシンボルフラッグ的なビル『ワールドビジネスガーデン』も「入居状況は75%」(三井不動産広報部)。4分の1は入っていないということだ。
 「最も条件のいいビルで75%は、決していいとは言えないと思う」(地元不動産業者)
 という評価もある『ワールドビジネスガーデン』はオープン当初、県企業庁から“入居するテナンドは国際都市にふさわしく外資系企業が望ましい”と言われていた。それが「カタカナ会社ならOK」、「入居してくれるのなら」と変化してきたらしい。
 拡大地区の企業誘致計画でもJALが撤退を決め、ソニー、オリックス、内田洋行は土地購入契約を延期した。
 
 
●奇妙な花畑と人気のない舗道
 
 商業施設が集まる予定だった『タウンセンター地区』では、“一等地” のはずなのに、不思議な、あるいは不自然な空き地が多く見られる。
 例えば、駅前に建つ商業ビル『プレナ幕張』の東側には一面の“お花畑″がある。駅前花壇は珍しくはないけれど、こんなにも広いお花畑が、なぜ。
 もともと、ここには流通大手2社を誘致し、L字型3棟のショッピングセンターになるはずだった。
 「企業庁は、当初は『東急、ブルーミングデール(アメリ力の高級デパート)、セゾン、そごうが来る予定』とおいしいことを言っていましたが、それが全部撤退していった。その後がまったく決まらないんです」(千葉市内の商店主)
 流通業者は、出店する地域を事前に徹底的に調査するのが常だ。立派な高層ビルがいくつ建とうとも、回流する人がいなければ商売にはならない。駅前一等地といえども幕張新都心には人が少なく、ゆえに採算は取れず撤退もやむなし−−集客の専門家である彼らがリサーチして出した結論がそれだったのだ。
 『プレナ幕張』のそばには忽然と“パットパットゴルフ場”が現れる。企業がパットパットゴルフを接待に使うとも思われないし、ふだんそこでプレイする人を見かけることもめったにないという。
 これは、あるファッションメーカーのビル建設計画が頓挫しているため暫定的に営業しているとのこと。
 オフィスビルには思うようにテナントが入らず、商業地区では流通各社の撤退が続き、進出予定企業もなかなか計画が進まない状態なのだ。
 “お花畑“ は、整地したままの赤茶けた土地ではあまりにカッコがつかないからと花を植えたものだった。が、そういう無意味に空いている土地を、暫定的にでも有効活用しようという動きもあった。
 「例えば、幕張に不足している飲食店を集めて屋台村にするとか、人々が憩えるスペースを作るというアイデアもありました」(地元商店主)
 それに対して、主体の企業庁はあまりいい顔をしない。
 「すべて却下しているわけではありませんが、計画どおりにビルが建つのが望ましいですね。都市の景観や環境の問題もありますし」(企業庁地域整備部幕張新都心整備課)
 つまりは、未来型新都市というイメージが悪くなるのは困るというわけだ。
 幕張メッセから駅に向かう途中には、噴水、花壇、モニュメントなどに彩られた“メッセモール“という立派な舗道がある。企業庁の作成したパンフレットには「水と緑の空間」は「人間の心理的側面に安らぎを届け」とあるが、この遊歩道を利用する人はほとんどいないというのだ。
 「幕張海浜駅からはここを通ると遠回りになるんですよ。それに、夜は暗いですからね」(幕張のオフィスに勤務するサラリーマン)
 あまり人が通らないので、メッセでのイベント終了後、会場出口で「駅まではメッセモールを通って帰ってください」というアナウンスまでしたこともあった。イメージアップのため小さくない予算で作ったのに使われない施設。
 余談だが、幕張新都心内の交通信号機は、緑、黄、赤の表示が円形ではなく、なぜか“八角形”である。各地からのメッセ視察ツアーの際には、担当者が「ここでは信号機が八角形です」と説明していたようだ。ここ幕張では、目立つものや豪華なものが第一義に考えられているのだろうか。
 
 

人気のなくなった夜の街にそびえる
ビルは大きな墓のようでもある  
 
 
●箱庭のように“あればいい”
 
 幕張の名物はメッセとゾクー−−そんな言い方がある。ゾクとは、ゼロヨン族、ローリング族、ナンパ族のことだ。
 「3つ合わせて『三族』と呼んでいます。路上に段差を設けて走りにくくしたり、取り締まりを強化したりして、最近は三族もずいぶん減ったようですが」(警察担当者)
 彼らが車やバイクを走らせたくなるのは、整備された太い道路があり、かつ、そこに夜間、人や車の通りがほとんどなくなるからだ。流通業者がそうであるように、彼らも人気の少ないところに敏感なのだ。
 幕張は族にも認定された“人のいない場所” なのである。
 
 では、なぜ幕張新都心にはこんなにも人がいないのか。
 プロ野球のロッテが、すったもんだの末に川崎球場から千葉マリンスタジアムにフランチャイズが変わったのは1991年。それから2年後の昨年、スタジアムのある関係者がこうつぶやいたという。
 「こんな(にJリーグが盛り上がる)状況だったらサッカーを誘致すればよかった。集客力のあるスタジアムができればよかったんだから」
 つまり、ロッテでなくともプロ野球でなくとも“あればなんでもよかった”のである。
 この“思想” は幕張新都心全体に貫かれている。
 都市を作るなら企業を誘致しよう。イベント会場で大イベントが開かれるならVIPが泊まれる高級ホテルが必要。駅前にはショッピングセンターがあるべき、そこには有名なデパートを……まるで箱庭を作るように夢を描いた。きれいなハードができれば人は自然に集まると考えた。きれいで快適なハイテク施設が“あればいい”。
 が、人も集客に敏感なデパートも来ない。前述した人の通らない『メッセモール』も“あればいい”の象徴だ。幕張新都心は「人があえて訪れたくなる街」とはならなかった。
 
 「幕張新都心って、酔っ払った人がいないんですよ。飲食店が少ないというのもあるかも知れませんけど、こんなとこよりもっとゴミゴミした場所で飲みたいんでしょうね」(幕張に勤務するOL)
 しかし、“国際都市”幕張ではそんな店は許されない。
 纂張新都心には他にも数々の「?」がある。平均稼働率58%の幕張メッセが増床される理由、交通アクセスの要である新都市交通システムができないわけ、『ファンクルーズガーデン』というテーマパークは本当にできるのか……。
 かつて、千葉は道路や下水道の整備が遅れていたところから“貧しい県”と称されていた。それを、浦安を始めとする海浜地区埋め立てによる都市開発を成功させることで、そこから脱却してきた。
 そして“貧しい県”から一足飛びに“国際都市”にまで駆け上がろうとしたステップボードが幕張新都心開発計画だった。しかし、その性急さと目的の咳味さに、バブルの崩壊が加わり、ある種の歪みをも生んでしまった。 
 現在、日本の各都市で未釆に向けた壮大な街づくり計画が進められているが、その中に幕張新都心に似た計画はないか。例えば、目的の不明朗さが問われている『東京フロンティア計画』 はどうか。
 本来、人が快適に過ごすための都市計画がどこかで本末転倒を起こしている。街を作るのは高層ビルやきれいなプロムナードではなく、そこに集まる人、原理を僕たちは思い出したほうがいい。




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