手をつないで守りたい

〜八ツ場ダム計画の川原湯温泉を訪ねて〜


追原を歩く会 北沢真理子



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 川原湯温泉に行ってきました。上毛力ル夕に「耶馬渓(やばけい)しのぐ吾妻渓谷」と書かれている吾妻川にできる八ツ場ダムに、七里川に計画された追原ダムを重ねあわせ、他人事とは思えずにとにかく現場を見てみようと考えたのです。

 行ってみて、七里川のやさしさとは違うスケールの大きさにびっくりしました。深い渓、水量の多さ、川に流れ込んでいる沢の大きさ、生えている木の見事さ、遠くの山の威容。驚くばかりの私を迎えてくれたのは「ようこそ、ダムに沈む川原湯温泉へ」という自虐的とも読めるアーチ型の看板でした。
 温泉街は一時代前の趣きがあります。細い坂道の両側に建つ旅館のたたずまいからは、かつては栄えたであろう様子が偲ばれます。
 湯量も豊富で、本格的な温泉街なのに、ガイドにもあまり載っていないのは、40年以上の間ダム計画に翻弄されて、前向きの観光事業ができなかったからでしょう。

 「八ツ場ダムの闘い」の養寿館に泊まりました。設備も建物も古いのに、ゆったりとした贅沢な宿です。本物の大木を使い磨き上げた床や本物の絵、こんこんと湧き出る熱い湯、露天風呂からは樫の大樹の梢越しに満点の星月夜。
 養寿館だけでなく、どの宿も見晴らしの良い露天風呂が自慢です。激しい川の流れも離れて眺めればのどかな日本のふるさとの景色です。多くの文人墨客がここを愛し長逗留したというのもうなすけます。

 1日目は吾妻渓谷を歩き、2日目は草津口まで歩きました。川原湯神社の前の新温泉源の上に新しい温泉街ができるとのことですが、ムササビが翔んでくるという今の趣きは全く失われてしまうでしょう。
 補償金で新しい建物ができたとしても、果たして客を呼べるか疑問です。
 川沿いの道は格好のハイキングコース。立原道造の見上げたような「林を透いた青空」が清冽な空気の向こうに広がっていました。
 不動の滝を見、可愛らしい双体道祖神を拝み、横壁、丸岩など珍しい(しかも大きい)景色を見ながら歩いていると、風花がひちひら舞いはじめました。古い自然石の石仏群の傍で出会った近くのおばさんは、「草津は雪だそうだ」と教えてくれました。彼女は浅間山の噴火で埋まった村の発掘作業をしているそうです。
 川原湯から相当離れているのに、ここも水没地点でした。そばに謙訪神社がありました。ここには町指定の天然記念物の大欅(けやき)が立っていました。樹高46メートル、根元の太さは10.3メートルとのことです。大きくて全形は見えませんが、大変美しいと思いました。樹齢600年。ダムができた時、この木はどうなるのでしょうか。

 素晴らしい自然、遺蹟の数々、ここをふるさととしてきた人の心、全てを水の底に沈めるために巨額の税金を投入する。治水、利水の条件は40年前とすっかり変わっているのに。
 祖先たちが幾世代にもわたって作った石仏や道祖神は、山の中腹にも道の辻にもたくさんあって人々を見守っています。この地を守るために作られた神仏を、ダムができた時、どこにお移しするのだろうか。
 綿々と続いてきた思いや営みを断ち切る不遜な行為が、私たちの世代に許されているのだろうか。
 長く激しい反対運動に疲れ果て、条件つき賛成の答えを出した地元のみなさんと、もう一度ここを守るために手をつなぐことはできないのだろうか。
 私はここを守りたい。

(2000年12月)





川原湯温泉の入口に立つ看板






樹齢600年の大欅(けやき)と筆者



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