■書籍・書評


 森口誠之著

 『鉄道未成線を歩く 私鉄編〜夢破れて消えた鉄道計画線実地踏査〜


林 計男



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・著 者:森口誠之
・書 名:鉄道未成線を歩く 私鉄編 
     〜夢破れて消えた鉄道計画線実地踏査〜
・発行所:JTB
・価 格:1700円


■戦争の惨禍を子孫に味わせたくない

 横浜で生まれ、横浜で育った私は、1945年5月28日、横浜の市街地がほとんど壊滅した横浜大空襲のために巨大な噴煙の立ち昇るのを、縁故疎開先の、父の実家のある鎌倉の植木峰下という所の、農家の広い庭で見ていた。
 当時、横浜最大の繁華街だった伊勢佐木町に隣接し、現在、JR京浜東北線関内駅からごく近くの蓬莱町の商家が、私の生家だった。しかし、生家も空襲で焼けてしまい、数年前、そこへ行ってみたが、ホームレスのいる地域に変貌していた。私が長い間、労働運動に関わってきたのも、逃げ惑った空襲体験の数々からの、戦争への恐怖と、二度と再び戦争の惨禍を子や孫に味わせたくないという思いが、原点にあってのことだ。
 今は、殺風景な大通り公園になってしまった大きな運河が、広い道路を隔てて流れており、水は清く川底の石や魚影が見えた。当時、父は出征し、中国東北部の満州にいたが、敗戦後はシベリアに抑留され、帰国したのは、私は少学3年生になってのことだった。
 戦時中の厳しい時代ではあったが、縁故疎開先の鎌倉の田園風景と、遥か彼方を走る湘南電車の、夜汽車の長い光の幻想的な風景を、今も懐かしく思い出す。広大な田園は今はなく、工業団地と住宅密集地になっており、わずかに、従兄の営む野菜農家のパイプハウスと裏庭の竹やぶだけが、当時の姿の片鱗を残すのみとなっている。


■「自らの政策決定の未熟さと先見性の無さを露呈」

 前置きが長くなったが、当時の鎌倉の緑豊かな自然が、未だ、私の住む流山には残っている。そんな、首都圏にわずかに残った流山と柏の貴重な自然と農業を、自治体財政破綻を伴いながら壊滅させる計画が、常磐新線沿線巨大開発である。
 本書は、鉄道マニアを魅了する新線計画が、「鉄道会社が新たなマーケットを求めて打ち出す、最後のカンフル剤」であり、「開通の日を待ちわび、地図を開きながらルートを想定し、自分の頭の中で鉄道経営をシミュレートする作業は楽し」く、「ある種、子供の頃のゴッコ遊びに通ずる快感があ」り、また、「麻薬というべきか」とも指摘する。
 本書は、計画されながらも、さまざまな事情によって未完成に終わった鉄道路線を対象に扱っている。「当事者にとって、失敗した計画というのは触れられたくない暗部」で、「自らの政策決定の未熟さと先見性の無さを露呈しているようなものであ」るとしながら、「旧運輸省に残された膨大な資料をひもとけば、カビ臭い匂いと共に、在りし日の事業家たちの欲望と打算と焦燥と、そして一抹の希望が沸きたってきた」としている。そして、「アホらしさと紙一重である彼らの情念こそ、現実世界が忘れてきた何かがかくされている。たとえそれが悪夢に過ぎなかったとしても」とし、「そんな鉄道会社と鉄道官僚と、そして鉄道マニアが見果てた夢と挫折の物語を追い求め」ている。


■展望のない巨大開発に莫大な血税を投入

 常磐新線沿線整備計画が浮上した当時、流山市は広報をつうじて次の宣伝を流布した。江戸時代から江戸川の水運で潤っていた流山の支配層が明治の常磐線計画に反対し、常磐線が松戸から柏へのルートになったため、その後の発展から大きく取り残された教訓に学ぶべきだというのである。
 ところが、常磐新線沿線整備計画の本来もっている矛盾があきらかになり、2005年開業の展望がほとんど無理となりつつある今日、行政は何をしたか。
 2001年11月27日、第三セクター「首都圏新都市鉄道株式会社」は放漫経営が暴露され、マイカル関連社債で110億円が回収不能となり、4月4日に社長が更迭された。(後に、本年3月の流山市議会で、それ以外にも50億円の損失、計160億円の損失があると暴露された)
 しかし、「朝日新聞」が「お先真っ赤」と書いた常磐新線の用地(区画整理地区以外の単独買収地)の土地収用法事業認定申請が、鉄道建設を請け負った日本鉄道建設公団によって行われた。流山でも柏でも、市の広報にも掲載せずに資料が縦覧された。私たちが約2000筆の意見書を提出し、公聴会を要求すると、12月27日という非常識な日程で公聴会を開催した。本年1月18日の国土交通省交渉では、担当者は答弁不能に追い込んだ。が、同省は3月8日、常磐新線用地の土地収用法事業認定を強行した。
 オオタカの生息する流山の「市野谷(いちのや)の森」がメタメタに伐採され、化石時代の希少な植物の自生するとされた柏ゴルフ場の自然も破壊されている。莫大な血税を費やしてである。
 知事選最中に常磐新線沿線整備計画の根本的見直しを文書公約をした堂本暁子知事は、知事就任以後は開発推進の立場で常磐新線計画を積極的に推進している。このことを、堂本知事誕生に期待した多くの有権者に伝えなければならない。

◇                 ◇

 本書は、常磐新線の開業時期は相当ずれ込むのではと報道されていることを紹介し、「東京から鬼門の方向に向かう常磐新線には、(未成線となった)筑波高速の怨霊がとりついているのかもしれない」と記している。私たちは、時代遅れの常磐新線沿線整備計画を、徹底した情報公開と市民参加で、必要性、採算性を根本的に見直しさせる運動を、「あせらず、あきず、あきらめず」旺盛に展開していく。

(2002年5月)  






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