■書籍・書評


 本多勝一著『日本環境報告』


中山敏則





・著 者:本多勝一
・書 名:日本環境報告
・発行所:朝日新聞社(朝日文庫)
・価 格:880円


★刊行の目的

 この本は、かつて朝日新聞の記者をしていた著者が、1992年に刊行したものである。刊行の目的について、著者は『マスコミかジャーナリズムか』(朝日文庫)の中でこう記している。
 「(環境破壊の)現場に行くと、いまは必ず御用役人や国土計画(現コクド)の類の大企業とぶつかる。徹底的な戦争になるでしょう。そうなると、いまや体制内化してジャーナリズム精神を失った大新聞社内で“出世”できないという計算があると思う。サラリーマン記者は、そこを本能的に、あるいはもっと露骨に計算して現場に行かないのではないか。ある専門記者に直接聞いたら、顔色を変えて黙ってしまった。彼は総論や外国の現場は書くんですね。岩波新書で『地球環境報告』という立派な本を出しているように。私は皮肉って『日本環境報告』を刊行する予定です。」
 つまり、石弘之氏が著した『地球環境報告』を批判する意味もこめて、本書を刊行したのである。本多氏は、別の著作でも石氏などの姿勢を批判している。
 「(新聞の)全国版に出せる位置にいる環境専門記者(編集委員)は何をしているのか。たとえば朝日新聞の編集委員・石弘之氏は、岩波新書で『地球環境報告』といった『立派な本』を刊行しながら、かんじんの自分のメディアたる日刊紙では、この方がはるかに影響力があるにもかかわらず、重大な環境破壊現場のルポなど『絶対に』書かないのです。その一方で、外国では現場に行くのですね。アフリカだのブラジルだの。」(『貧困なる精神』N集、朝日新聞社)
 著者は、本書でも、「環境破壊をもたらす日本型の体制におもねって、みみっちい“社内出世”」を夢みて自然破壊の現場に足を向けようとしない新聞記者や、破壊の実態をなかなかとりあげようとしない大新聞をきびしく批判している。


★環境破壊の実態を詳細にリポート

 したがって、この本の第一のねらいは、日本各地の環境破壊の実相をくわしくリポートすることにある。大自動車道、大規模林道、ダム、ゴルフ場などの建設で滅ぼされようとしている南アルプスの原始林や、林野庁による乱伐・皆伐でハゲ山にされつつある朝日連峰ブナ原生林、屋久スギなどである。
 環境破壊の実相をとりあげるだけでなく、破壊対象の自然がもつ重要な価値も明らかにしている。また、自然を破壊しながら進められる「公共事業」の必要性も吟味する。計画段階では「地域経済の活性化」「地元住民の利便性向上」「100年に一度の大洪水への対策」などのふれこみが盛んにされるが、完成後はひどい状態になっており、初めに言ったことが実現しなくても誰も責任をとらない。そうしたふれこみは、開発側が創作したものであり、でっち上げである、と批判している。


★環境破壊の根源をするどく突く

 著者の真骨頂は、こうした環境問題の根源、つまり核心部分をするどく突くことである。たとえば、自然保護の叫びを無視し、白神山地のブナ原生林へ大規模林道(青秋林道)を通そうとすることについて、こう書いている。
 「結局は、道路を『造る』ことそのもの、つまりは、何十億円という税金の浪費こそ『目的』だったことがわかる。道がこわれたら、その補修と維持管理にまたいくらでも税金を食うことができるので、やはり『目的』にかなう。」
 「青秋林道の総予算28億5000万円。このカネそのものに群がる利権が真の『目的』である。」
 そして、毎年、巨額の税金が投入されて推進される「公共事業」について、こう言う。
 「こんな国は主要先進国にないらしい。アメリカと比べても、広さが25分の1、人口半分の日本で、アメリカを上回る『公共事業』が毎年行われている。日本は世界一の『土建国家』なのだ。要するに主として私たちの税金がこのように大量の土建資本とその下うけ作業へ食われているのである。その末端に位置するのが、『ノー政』としての『農政』(実は高度成長のための工業政策の裏返し)で食えなくさせられた農民たちの、土木作業アルバイトであろう。アルバイトはもはや日常化して生活の基礎となり、土建事業なしには生活できないほどになってしまった。『ノー政』で飢えさせておいて『土建』の毒マンジュウをくれてやったのだ。」
 「同じ税が浪費されるにしても、軍拡や核武装などより土建の方がマシだと、いえばいえるかもしれない。その土建が、本当に生活に必要な橋だの施設だのなら、そのとおりであろう。ここに白神ブナ原生林破壊林道の核心がある。土建も実は浪費のための戦争と同じパターンなのだ。具体的目的も大義もない林道。ただ造ること自体を目的とする林道。税金浪費に群がることが真の目的であるような林道。これこそ『土建国家ニッポン』におけるブナ林問題のハダカの姿なのだ。」
 「なぜ『つくること自体』が目的なのか。これも次のただ一つ以外にどうしても出てこないのだ。『土建業界と手先の役人や政治屋がオイシイ生活をしたいから』」
 このように、環境破壊の現場に足を踏み入れて内実を克明に調べ、開発推進側の主張などをくわしく調査したうえで、問題の本質を突いているのである。こうした本質は、たとえば三番瀬埋め立て問題にもそのままあてはまる。


★「日本の良心」たちを励ます

 著者は、環境破壊に抗してたたかっている「日本の良心」たちに本書が参考になればありがたい、と書いている。その言葉どおり、この本は自然を守るために奮闘している人たちにとって大きな励ましになるだろう。
 いま、「環境保護」「三番瀬保全」「里山・谷津田を守ろう」などを口にしながら、じっさいには環境破壊の元凶である行政官僚にへつらい、助成金獲得や事業受託などに汲々(きゅうきゅう)としている市民団体が幅をきかせている。こうした団体は、「行政とのパートナーシップ(協働)」をやたらと強調する。また、「行政との対決は時代遅れ」「対立関係からは何も生まれない」「“自然保護”対“開発”では多くの市民の共感を得られない」などともっともらしいことを言い、行政に批判的な態度をとることを批判する。自然保護のために懸命にとりくんでいる団体をバカにする風潮さえみられるのである。こうしたなかで、本書は、貴重な自然を守るために断固くじけないでがんばりつづけることの大切さを教えている。
 この本は、刊行から8年たつが少しも古びていない。千葉県自然保護連合の会員であり、リゾート開発阻止やダム建設反対運動などで活躍されている藤原信氏(宇都宮大学名誉教授。船橋市在住)との対談も収録されている。ぜひ、一読をおすすめしたい。

(2000年12月)  




このページの頭に戻ります
「書籍・書評」のページにもどります

トップページ | 三番瀬 | 産廃・残土 | ニュース | 自然・環境問題 | 房総の自然 |
環境保護団体 | 開発と行財政 | 催し物 | 自然保護連合紹介 | 書籍・書評 | リンク集 |