■書籍・書評


 戸石四郎著

 『もう一つの銚子市史〜戦後の民衆運動五十年史〜


伊藤章夫



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・著 者:戸石四郎
・書 名:もう一つの銚子市史
     〜戦後の民衆運動五十年史〜
・発行所:なのはな出版
・価 格:1905円


 この本には、著者の教え子にあたる東京大学教授の増田祐司氏が序文を載せている。この序文は、「地域の歴史には世界全体の歴史がそこここに織り込まれており、いわば社会全体の構図が縮小された形で現れることになる」と簡潔に結んでいる。これ以上の序文はないと思うが、環境保全運動を中心に、解説的に述べてみたい。
 著者は民主主義文学同盟、日本科学者会議の会員である。また、千葉県自然保護連合の代表もつとめている。『蘭医関寛斉』(崙書房)や『地球時代と環境教育』(光陽出版社。ほかに著書多数)の著書にみられるように、文章が巧みであり、科学的な視点を有している。高校教師をつとめ、教え子にも大きな影響を与えた。退職後も、民衆の力を信じ、環境を守る運動を専門におきながら、平和、民主主義、文化活動に情熱を燃やす行動派である。
 環境問題を紹介すれば、最大の問題は、東京電力の大規模火力発電所計画を撤回させた市民運動である。銚子をゆりうごかしたこの運動に、1970年代、公害学者の宇井純氏、経済学者の宮本憲一氏、沼津三島コンビナート反対リーダーの西岡昭夫氏らが来銚し、大きな影響を与えている。
 1970年、名洗港100ヘクタール埋立地に出力520万kw、重油約2万トン/日、SO2約1000トン/日の計画が友納知事から要請された。松本神父が事務局長となり、「公害から銚子を守る市民の会」が結成され、銚子市史上かつてない民衆運動が展開された。この闘争の物語は、著者の別の作品『ふるさとを守り抜いた人びと─銚子火力発電反対運動の記録』(崙書房)にくわしく書かれている。
 1989年には、銚子市のガン死亡率が異常に高いことがわかり、市民の会は水道水のトリハロメタン汚染、ごみ焼却や除草剤によるダイオキシン問題など、化学汚染の対策を求めた。このことと関連し、水源地付近のゴルフ場設置反対運動、産業廃棄物反対運動が発展した。
 産廃関連では、1994年、キャベツ畑の異常発熱問題が生じている。県は、その原因をメタンの流出と判断した。このとき、すでに3つの大型産廃処分場が市内にあり、さらに4つの大型処分場が計画されていた。市民の運動によって1995年、市による「産業廃棄物最終処分場設置反対・不法投棄しないさせない都市宣言」が実現した。この年に、産廃中間処分場の計画を断念させている。
 日本が高度経済成長期にあったとき、銚子市民の考えについて興味深いデータが示されている。千葉大学と新潟大学が1973年に調査した結果である。「あなたは銚子がどんな形で発展するのが一番よいと思いますか?」に対し、1位は「自然環境を損なわない観光開発」44%、2位は「水産業や農業など地元産業の振興」42%である。この傾向はその後も変わらないという。これは経済学者の宮本憲一氏らの内発的開発の思想と一致している。
 著者は、世界史と市長の市政史をからめ、政治家、政党、市民の動きをリアルに描いているが、これは割愛するので、ぜひ読んでほしい。
 著者は最後に、「50年を通じ、人びとを運動に立ち上がらせた理念的なものを敢(あ)えて求めるとすれば、それは真に人間らしく生きたい、という素朴な本源的なねがいであり、具体的には『人類普遍の原理』としての憲法的理念そのものといえるのではないか」と結んでいる。

(2000年12月)  






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