■書籍・書評


  新保國弘著

  『オオタカの森〜都市林「市野谷の森公園」創生への道〜


植田和雄



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・著 者:新保國弘
・書 名:オオタカの森
     −都市林「市野谷の森公園」創生への道−
・発行所:崙書房
・価 格:1300円


 流山市にある「市野谷の森公園」は、常磐新線沿線開発の一事業である区画整理事業施行区域の中にある。「市野谷の森公園」はこの計画の中で与えられた名称で、地元では「市野谷の森」とよばれている。この森は、当初計画では、丸ごと開発区域にとり込まれ、住宅地になる予定だった。  この書は、巨大開発に対し、オオカタの生息する里山「市野谷の森」をいかに守ろうとしたかという市民運動の話である。
 私たちは「市原のオオタカと里山を守る会」を1999年1月に発足させた。そのこともあり、大規模開発の中でオオタカの生息する自然を守ろうとしたという点で大いに関心をそそられ、この書を拝読した。二つの点に的をしぼって感想をのべたい。


●オオタカの生態などをくわしく記述

 一つは、オオタカに関する知見である。オオタカといえば、鷹狩り、鷹匠という言葉に馴染みのある人が多いのではなかろうか。わが国の鷹場制度の歴史、明治以降の鷹狩りの変遷の記述を読んだとき、私がいかに鷹狩り、鷹匠について言葉以上のものについて無知であったかを思い知らさせた。
 また、学習で会得するオオタカの狩り能力について、保護したオオタカを切り身の肉やレバーで育てると、そのオオタカはハトを見ただけで怖がってしまうという、野生動物の先天的能力に加えて学習能力の凄さを改めて考えさせられた。本書はオオタカの生態や形態についてさまざまなことが記述されていて、おもしろかった。
 つぎは、市野谷の森のオオタカとその生態系を守る市民運動についてである。
 1993年6月、「流山自然観察森を実現させる会」が発足した。著者の新保氏は同会の運営委員でもある。同会の発足にあたって、リーダーの恵良好敏氏は次の主旨を訴えた。
 「オオカタを守るということは、オオタカを支える自然を守るということです。守るのはこの森だけでは足りません。狩り場になっている江戸川沿いの水田やその斜面林なども共に保全していかねばなりません。オオタカを守るために『市野谷の森』を残せというのではなく、オオタカがいつでも棲めるよう里山の自然を残すことが人間にも必要であると考えて行動していきたい。『市野谷の森』が21世紀のまちづくりの核となるように。保護活動は私たちだけではできません。ぜひ、皆様のご協力をいただきたい」
 同会の運動によって、「市野谷の森」は半分の約25ヘクタールが残されることになった。「都市林」として保全され、都市公園化されることになったのである。半分とはいえ、森を「都市林」として保全させたのであるから、その点ではこの運動は評価される。


●巨大開発の免罪符?

 しかし、気になる点もある。それは、森が25ヘクタール残されただけでは、やがてオオタカはいなくなってしまうのではないかという懸念である。巨大開発によって、森の周りは住宅地として開発される。さらに、高架鉄道や何本もの都市計画道路が網の目のようにはりめぐされる。こうなれば、オオタカは棲みにくくなる。「オオタカが棲む森」ではなく、「かつてオオタカが棲んでいた森」となる可能性が非常に高い。しかし、この点について、同書はまったくふれていない。
 常磐新線沿線開発事業は、沿線の1都3県の開発予定面積が3500ヘクタール(千葉県内は1090ヘクタール)、総事業費が7兆2000億円(うち鉄道建設は1兆500億円)という巨大開発である。流山市についていえば、開発面積は640ヘクタールにもおよぶ。当然のことながら、国や関係自治体の財政を圧迫し、自然環境を大規模に破壊することは必至である。これは、全国的に大問題となっているムダで環境破壊の巨大公共事業そのものである。したがって、「住みよい流山をつくる会」などが、開発の抜本的見直しを求める運動をすすめている。しかし、同書は、こうした問題や運動にはまったくふれていない。
 むしろ逆に、開発反対の運動を否定しているようにみえる。たとえば、「実現させる会」は、活動方針としてつぎの点をあげている。(1)中立性が評価されている日本野鳥の会を前面に出し、政治色はつけない。(2)反対のための反対はせず、千葉県、流山市および住都公団など都市整備にかかわる行政や事業者に先行する形での提案に努め、話し合い型の姿勢をとる。
 また、同書は、「実現させる会」の活動に対して県が次のように評価していることを肯定的に紹介している。(1)同会は、初めから行政の声に耳を傾ける態度で望んでいた。行政の立場を無視して一方的に主張する団体、ヒステリックに行政を非難するだけの団体ではなかった。(2)森の情報交換会を通して、お互いに落とし所を探して話し合いをしたことも大きい。
 これらは、前述の恵良氏の訴えとどのように整合するのであろうか。「オオタカを守るために『市野谷の森』を残せというのではなく、オオタカがいつでも棲めるよう里山の自然を残すことが人間にも必要であると考えて行動していきたい」などと訴えていながら、わずか25ヘクタールの保全だけで幕を引いてしまったのである。
 端的に言えば、「実現させる会」の姿勢は、「市野谷の森」が半分でも守られればよく、巨大開発によって地域の自然環境がズタズタに破壊されても、それは問わない。行政とはあくまでも「話し合い型」で進め、妥協をひきだしていく−−ということではないかと思ってしまう。結果として、「市野谷の森」の半分保全は、巨大開発の免罪符になったのではなかろうか。
 最近、市民団体の一部でこうした「パートナーシップ」論が幅を利かせているだけに、気になることとしてあげた。たとえば三番瀬保全運動でも、市民団体の一部は、「行政との対話や協調」を強く主張し、埋め立て面積が縮小されたことで埋め立て賛成に方向転換したと聞く。「市野谷の森」の行方や「実現する会」の今後の活動に注目していきたい。

(2000年10月)  





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