大いなる音楽の効用

 

    冬のマグマ


薪に火がつく瞬間、ストーブは「ボムッ!」という音をたてる。

薪は燃え出したら最後、もう誰にもその火を止めることはできない。
以前から栃木の山荘でこの瞬間を見届けるたび、私はあることを連想してきた。

世の中にはブームという火をつけようと躍起になり、あれやこれやと仕掛けを施し、
最先端のテクニック等を使い、全身風向きのアンテナと化して右往左往する輩が、
それはそれは大勢いるのだろうと想像をふくらませる。
ブームやブレイクという言葉とは無縁であった私でさえ
「いったいどうやったら」
それが起こるのかを考えるのは意外と楽しく、愉快な時間であった。

ストーブの薪を燃やすには何といっても手順がある。
火がつきやすい様に燃料をくべる。
まず必要なのは古新聞。ちいさくちぎり、まるめて小山を作る。
次にダンボール。これもちぎってねじったり折ったりして小山に厚みを加える。
次に木っ端(コッパ)。廃材をナタで割ったいくつもの細長い積み木の様なそれを、
インディアンのテントの様な形に立てかけていく。
いかにも燃えそうなセットアップが完成し、最初にくべた古新聞目指して
マッチ棒を差し込めばああらお見事、
マッチの火は時間差で次々と外へ向けて大きく広がり、
やがて木っ端の館に火がうつる・・・。

しかしめでたく木っ端に火がついたからといって、
ストーブの扉を開け、すぐさま薪を放り込んではいけない。
ストーブ自体まだなまぬるく、そこへ冬の外気で冷え切ったくぬぎやコナラの
たくましい薪をゴロリと入れたならば、木っ端の火はたちまち鎮火してしまう。
木っ端の火がオキになるまでじっと待たねばならない。
「オキ」というのはボーボーからジクジクに火がすすんだ状態を言う。
炭が良くイコるのに似ている。
ある瞬間、気付くと表面的だった炎が内面を照らす炎へと移行しているのだ。
このタイミングを見計らっておだやかに素早く、
自信と確信をもって薪をくべなければならない。
さて次の瞬間空気の流れを全開にし、
木っ端の寿命の尽きるまであおることあおること・・・。
扉のスキマを細くすれば空気はものすごいスピードでかけめぐるし、
一瞬閉めれば、全体が均一にオレンジ色に染まる。
つまり開けたり閉めたりがふいごの一吹きになり、
やがてストーブというマグマはその時を迎える。
「ボムッ!」というニブい響きとともに2〜3sはあろうかという木の塊に火が回るのだ。
さて、こうなると安定飛行、炎が一人歩きをはじめる。
ほうっておいても冬のストーブは、幸せのマグマを放ち続ける。

固形燃料など使ってはいけない。そこに必要なのは紙と木と空気。
それだけだ。炭火を装う焼肉屋だって、下からガスであおっているではないか。
そんな物を使っては火を汚す。

30年も40年も芸を磨き、薪を良く乾かし、余計なことを考えず決して急がず。
気の流れを気持ちよく、小さな心を見のがさず・・・そんな人間ニ、ワタシハナリタイ・・・。

2004年12月29日、10年の歳月を経て私は「上様」と再会する。



つづく

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