V.自然科学的な基礎知識(その2)

山の医学(一般)

山の医学(高所)

救急法(09-06-14更新)

体力・トレーニング・健康管理












山の医学(一般)

  登山医学の中心は、高所における環境変化の人体への影響が根本であり、高所順化や酸素補給などの特異な問題を持っている。一時  的な要素としては、気圧の低下、気温の寒冷と急激な変化、風による体温の喪失、過激な光線(紫外線)などであり、二次的なものとして  過激な肉体運動や精神的緊張がある。

山の医療を、予防、診断、治療の三つの項目に分けて考えると、予防がその大半を占め、診断と治療はわずかにすぎない。

1.予防

(1)積極的予防

  平素からトレーニングによって、個人として基礎体力の増強と自己体力および体質の認識を、パーティとしても相互の体力の増強と認識を  深めるべきである。他のスポーツのように試合より練習が苦しいごとく、登山にあっても日常のトレーニングや小山行を工夫し充実させたい  。単に重い荷物をになって歩いたり、岩場を昇降するのみでなく、インターバルトレーニングや、サッカー、水泳などもまじめにやれば体力   増強になり、平衡感覚の獲得にもなる。

  発汗は体温調整に必要かくべからざるものであるが、同時にエネルギーの大きな消耗でもある。このエネルギーは食事摂取によってのみ  補給される。したがって他のスポーツとことなり長期にわたる登山では、水分摂取と食事摂取は非常に重要なことである。しかし、水分お  よび食事の摂取は、各人に適した方法があり、ことに水分摂取は個人差が大きい。したがって、トーニングや小山行の内に各人が自分に  適した摂取方法を会得し、自覚するように心がけるべきである。

(水分摂取)

  水分の補給は食事によってもかなり補われう。しかし、体温調整のための発汗、さらに低温度環境中の呼吸による喪失量が多いため、登  山では行動中も飲むほうが良い。一度に大量飲むことは避け、少量ずつ何回にも飲むのがよい。激しい渇きを感じるようでは下手な飲み   方である。汗かきの人は、発汗と同時に塩分が失われるから、回数を多くすると共に、塩分、体液(電解質)のバランスを保たなければ疲  労の原因となる。



(食事摂取)

   疲労回復の最良の手段は睡眠と休養であるが、失われたエネルギーとさらに適応、順化のためエネルギーを供給するのは食事である   。単にタンパク質、脂肪、糖分といった栄養のカロリーだけでなく、ビタミンにも配慮すべきである。食欲不振のときは、無理に食べず適    当に回数を減らしたり、量を加減すべきである。下痢の時などは、全く絶食するのも良い。下痢の時に、疲労防止と考えて無理にたべる   人がいるが、胃腸のぜん動運動のエネルギーを喪失するのみで栄養の吸収はなくマイナスである。

  下痢は生理現象で腸の弱ったときや不良物を食べた時急いで排泄するために多くおこるから、給食により回復する。水分の取りすぎによ  る下痢の場合は食欲不振はない。絶食の場合、脱水状態を防ぐ意味で湯や温かい薄いスープが良い。


(2)消極的予防

  本格的に登山する人は、普段から健康な人に違いない。そのため、登山医学については、発病時の診断、治療にのみ注意が向けられ、  予防に関しては「入山前の健康診断」ぐらいしか関心がない。身体検査をあえて消極的予防と言う。(自己診断法「爽快な朝の目覚め」を  健康や疲労蓄積の尺度)





2.診断と治療

  登山中、不幸にして発病したり、事故が起きたたりした場合にはどうすればよいか。たとえ医者がいても少量の薬品では重症の時は、何  ほどの治療も期待出来ない。もし、そのために一命を助けえたとすれば、医療面より行動面での決断と処理の適切によるものであろう。し  たがって、「診断」とは病名を決めるのではなく、重症か、軽症か、あるいは経過が悪くなりつつあるかなどによって、登山続行か下山する  かの決定であり、「治療」とは症状、経過に応じた対症治療以上に行動面での処理が重要である。



(1)診断

  山では、何も病名を決める必要はなく、重要の事は「より悪化する場合を予想しつつ、現状および経過を観察することである。それには個   々の症状(出血、咳、痛み)とともに、食欲、気分、元気な感じ、ぐったりした様子、ただならぬ気配などで病気の程度を判断し、その軽減   や増悪で経過を予想すること」である。パーティの現在位置や状態、さらに全工程における現在の場所を考慮して、登山続行か下山かを   決定すべきである。この決定が登山医学にあっての診断である。



(2)治療

  個々の症状、病気の程度や経過に応じての対症的な治療は、多くの登山書や家庭医学書にも記載のとおりである。しかし、最良の療法  は「安静」である。

(重症救急処置)

  冷静にしてなにくそという強いファイト。必要なら人工呼吸、心臓マッサージ、止血。担架による搬送、へりコプターの手配。


例1.頭痛、腹痛、咳、発熱が激しいとき。
   まず鎮痛、鎮咳、下熱剤の内服。それで軽快しなければ休止、安静、流動食、睡眠、抗生剤内服で経過をみる。

例2.足関節をケガした場合。
  出血創あれば化膿に注意。痛みの程度に応じて湿布〜弾力包帯〜ばんそうこう固定の処置。処置後の歩行痛によって、登山か下山を決   めればよい。

例3.墜落や落石による頭、腰、腹の打撲
   受傷程度に応じて多少ともショック状態がある。軽ければ数分間ボーとするだけ、重ければ顔面蒼白でぐったりした状態が続く。休憩中    や行動しはじめたあとで、吐き気やめまいがすれば、なお安静を要する。



3.凍傷、凍死、雪盲

(1)凍傷

  凍傷の手当ては35〜40度の湯につけるように書いてある。しかし、一般の救助法の本や、また、かなり権威のある医学書でも、雪でこ   すれ、かわいた布でマッージするようにと書いてある。凍傷とはからだの組織が局部的に凍結した状態である。だから治療としては、凍結  した部分を再び体温に戻せば良い。凍傷は手、足、耳、ほほに起きやすい。小さめの靴、アイゼンのひもの締めすぎなどの部分的な圧迫  によって局部の循環が悪くなること、湿った手袋、靴下などの水分が凍結し、体温を奪う事、さらに、睡眠不足、空腹、疲労などが凍傷を   起こし易くすると考えられる。

(症状と処置)

  凍傷の最初の症状は、局部の冷たい感じであるが、やや進めば、次に痛みが起こり、さらに本物になればひかく知覚が麻痺してきて痛み  が無くなり、触れても鈍くなる。この痛みを感じたら、危険信号であるから、それをがまんして無知覚状態にまで進ませてはいけない。しめ  ったものはかわいた物と取り替える。締めすぎているものは緩める。手を動かし、足踏みしたりする。指の1〜2本であれば、口の中に含   む。股間に挟むのも効果がある。水泡が出来た場合には、感染を防ぐため破らない方が良い。

  凍傷の場合、血管の中に血液が詰まって循環を低下させている。ハッキリと段がついていて、色の変わっている場合、先が蒼白で、次に  黒ずんでおり、手前のほうが赤みがかって晴れている。このような時は、白い部分を前述のように溶かす試みをするとともに、上方の部分 、特に赤く腫れた部分から、さらに上方の健康な部分に向かって柔らかくマッサージを反復する。およそ、20分もすれば、黒ずんだ部分に   血行が再開され赤い生色がよみがえり、腫れた部分にしわが生じて退き始めたことが分かる。





(2)凍死

  凍死は長く寒さにさらされた時、体温の産生より放熱が大きくなり、体温が下がり死ぬ事を言う。死ぬまでの異常状態を凍ごと呼んでいる  。積雪期だけでなく、夏でも雨に長くうたれた時に起きる。疲労、空腹、睡眠不足、飲食、風などが凍死を起こす悪条件となる。不快な寒さ  、たまらない倦怠感、精神、肉体の動きが鈍くなり、呼吸も浅く、そしてたえがたい眠気に襲われ、幻覚、幻聴が起こり、ついに意識を失う。

  道に迷ったり、天候の急変にあったりした時、決して無理をしてはならない。余裕のあるうちに雪洞を掘るとか、地形を利用して寒さを避け  、出来れば火をたいて保温につとめ、暖かい飲み物をとる。下着はなならず、ウール等の物を着ておかなくてはいけない。体力的に余裕   があり、体温に自信があれば、緊急露営の時に睡眠はとってもさしつかえない。しかし、体力の余裕がなく、凍死しかけた物に対しては眠  らせないで身体を使わせたほうが良い。(等尺抵抗運動法)・・・・5秒以上力を入れ続ける。



(3)雪盲

  日中、紫外線にあたった後、暗いところへ入るか、日没になって暗くなると急に刺すようないたみが起こり、目を開こうとすると、とうてい耐  え難い激痛がくる。こういう程度のものは、目の表面(結膜、角膜)の刺激があって、少量の麻痺剤(コカインさど)を含んだ点眼水で嘘のよ  うにかるくなる。



山の医学(高所)

1.高地の概念

  高地に関するいろいろな自然環境条件のうち、気圧、気温、水の沸騰点、風速のだいたいの数字を下記に示す。


高度 気圧 水の沸騰点 気温 風速
mmHg ゜C ゜C m/sec
0 760 100.0 15.0 4.0
1000 674 96.7 8.5 7.0
2000 596 93.4 2.0 9.7
3000 525 90.0 -4.5 12.1
4000 462 86.7 -11.0 14.1
5000 405 83.3 -17.5 16.8
6000 354 79.6 -24.0 19.0
7000 308 76.5 -30.5 21.4
8000 267 73.1 -37.0 23.6
9000 231 69.7 -43.5 24.8

 非常に高い所では、どうして人は住むことが出来ないのかと言うと、気圧が低いこと、つまりは酸素の圧力が低いことによるものであるが、寒さもまた無視できない条件である。作物が育たず、植物の確保が困難になるからである。風はいちがいに言えないが、ともかく平地よりは強い風が吹き、低酸素、低温と相まって、人は凍傷にかかりやすい条件下におかれることになる。水の沸騰点の低下は気圧に伴ったものであるが、食物の調理、ひいては栄養摂取に関係を持つことになる。

 上記の表は北緯45度地点における春分のころの海面の気圧の平均を760mmHgとし、それを基準にしたものである。北緯45度から北極に近づくにつれて、同じ高度でも気圧は低くなり、赤道に近づくにつれて気圧は高くなる。したがって、ヒマラヤはだいたい北緯28度付近に位置しているから、そこでの気圧は表の基準気圧より高く測定される事となる。それは、地球をとりまく空気の層が地球の自転の影響で、赤道上で厚く、極上で幾分薄くなっているために起こる現象である。

 その上、季節的な変動があり、冬季は気圧が低く、夏期は高いことになっており、さらに日々の気圧配置の変化による変動が加わるので、気圧計による高度の算定は容易ではない。高所登山に関しては、あらかじめ、高度の分かっている地点での読みを標準にとり、絶えず補正を行うことが大切である。


2.高所(低酸素環境)症候群

  人が高所環境下にさらされた場合、平地と違ったいろいろな身体的症状が出現してくる。この場合、その変化がその固体の生存にとって  都合のよいものを高所順化と呼び、都合の悪い、あるいは不快な症状を高所症候群と呼ぶ。いわゆる高山病のことである。
  高山病はその症状があらわれてくる程度と質と時期、あるいは順化とのかみ合わせの関係から、
  (1)高所反応
  (2)高所障害
  (3)高所衰退


  {(1)+(2)の慢性状態 }− (順化)=(3)


(1)高所反応
   高所滞在の早い時期に出現し、だれもが体験し、重篤な状態にまで陥ることなくやがて消失、あるいは、自覚しなくなるような症状 を高    所反応と言う。(息苦しい、息がはずむ、呼吸が早くなる、動悸がうつ、吐き気、頭痛、食欲不振、寝つきが悪い、尿が少ない、顔や手足   のむくみ)。


(2)高所障害
   もっと状態が悪くなり、回復が遅れ、時には生命の危険すら案じられるようになってくる。もはや病気であり、これが高度障害である。(激   しい咳、呼吸困難、口唇や爪床が紫色になる(チアノーゼ)、呼吸不全、尿が出なくなる、嘔吐、意識を失う、神経症状)高所反応、高所   障害の現れてくる高度は決まっていない。個人差があるし、高所への到達手段、あるいは速度によってまちまちである。


(3)高所衰退
   これは、高所順化の反対語で、慢性的に現れてくる高所反応あるいは高所障害である。






3.高所順化

  高所での、身体変化のうち、その固体の高所での生存に都合の良いよいような変化が現れ、または高所症候群のうちの不快な部分があ  る期間高所滞在ののちに消失する事が自覚されなくなる状態を高度順化と言う。身体が酸素不足状態になれ、それに対応した変化をお   こしてくること。

  大気中の酸素分圧が下がると、酸素の体内への取り込みは低下する。そのことが呼吸中枢と循環中枢を刺激して、呼吸は深く速くなり、  心臓の動きも速く大きくなる。こうなることにより、より多くの酸素が体内に取り込まれ、身体各部へ送りこまれることになり、これが順化の  第一歩である。この反応は一度順化した人が再度その高所に登った時には、早く現れる。抹消血管が太く開いてすみずみの組織にまで  血液がよく行き渡るようになる。血液中の酸素を運搬する物質であるヘモグロビンならびに、それを含んでいる細胞の赤血球が増加してくる。



4.高所衰退

  人間の永住できる高さの限界は、南米アコンキルチア鉱山における歴史的事実から5300mとされてきた。生理学的にみて、人間にとっ  て高所とは1800m以上のことであり、この高度から順化の過程が進むのであるが、同時に衰退も始まる。5300m以上では衰退が順化  を上回るようになるが、差し引き人はこの高度以上に長く滞在すれするほど衰退が進行して行く。

(1)体重減少
   食欲が衰え、食べ物のエネルギー転換の能率が下がる。衰退を見るのに一番はっきりした指標である。高所登山隊は体重計を携行す   べきである。


(2)尿減少と浮腫
   呼吸が深く速くなると、吐き出す息の中に含まれて失われる水分の量は非常に多くなる。しかし、高所では喉の渇きはあまり感じないし   、飲料水の絶対量は常に不足であるから、補給は喪失に追いつかず、身体的に脱水状態となる。その上、体組織が酸素不足状態に陥   ると、毛細血管壁や細胞膜の水分透過性が変化して細胞内や細胞間隙に水がたまってくる。その分だけ血液は濃縮され、循環血液量   は減少する。その上、低酸素状態では肝機能が悪くなる。かくして全身に水が溜まって浮腫となり、尿は減少する。



(3)高所肺水腫
    酸素不足の直接作用として肺胞の細胞膜の透過性に変化がおこり、あるいはそれに心衰弱が加わることによって起こる障害で、肺の    中に水が溜まり呼吸が出来なくなる状態である。呼吸は浅く速く、ぜいぜいと音を立て、唇は紫色となり、年配者よりむしろ若年者に多    く見られる。それは、若い人は激しく動くからであろう。


(4)心衰弱
   赤血球の増加と脱水によって血液が粘くなること。心筋自体に酸素が不足することによって、心臓から血液を送り出す力が弱まってくる  。心臓の収縮期の血圧と拡張期の血圧の差が小さくなることから想定できる。心衰弱によって浮腫、尿量減少ないし肺水腫はさらに悪く    なる。





(5)精神ー神経失調

  身体内で酸素欠乏に最も弱い組織は脳である。酸素供給が4分以上絶たれると脳の働きはもはや回復しない。神経系に現れる最初の反  応は、頭痛、吐き気、不眠である。これらは、順化とともになくなるが、浅眠状態が続き、疲労回復は妨げられる。誰もが短気になり、寛容  さを失いおこりぽくなる。判断力は明らかに低下するからリーダーやドクターはそのような高所に長くとどまるべきでない(突然目が見えなく  なったり、意識を失うこともない)。これらは脳浮腫によるものである。


(6)静脈血栓症

  血液が濃縮されていることと、狭いテントの中で余り動かずにいる場合にかかる障害。


(7)肝機能障害
   アルコールや医薬品に対する解毒作用が弱まるので、酒に酔い易くなり、薬の中毒にかかりやすくなる。したがって、酒や薬を飲む場合   は平地での摂取量よりも少なめにしなければならない。





5.高所障害、高所衰退の対策

  要は衰退の出現をおさえて順化を伸ばす努力をするということである。5000m以上ではじめて経験する高度の地点にいきなり泊まるとい  うことは避けるべきである。最高到達地点より低い地点まで下がって泊まる。高所障害の出現は高所到達ののち6〜9時間してから出現  する。ヒマラヤの高峰をめざすには、上下を繰り返しながら6500mぐらいまで登ったのち、いったん5300m付近まで下り、ふたたび、次   は7500m付近まで登ってまた下山、暫らく休憩したのち今度は、一気に高度を稼いで登頂する。

  キャンプ間の高度差も500mを越えるべきでない。水分は1日6〜8リットルはとらなくてはならない。

  重態の高所衰退に対する治療としては、乳酸リンゲル液やマンニトール液の点滴静注が有効である。利尿剤(ラシックス)や強心剤(ジキ  タリス)も進められる。




6.酸素使用の問題

8000m以下の山なら酸素補給しなくても、うまく順化すれば、登頂することは可能である。しかし、現在の酸素使用基準は次のようである。7000m以上のキャンプでは睡眠用にもちいることが望ましい。流量0.5L/min
7500m以上では行動中にも使用することが望ましい。流量、2〜4L/min.
7500m以上の高所で酸素ボンベがたりない場合には、行動用は犠牲にして、睡眠用にまわすべきである。

  留意すべきことは、酸素補給は高所順化ができあがった者に対してはじめて有効に効果する。順化が不十分でも酸素さえあれば登山で  きると言うもでもない。



7.高所適正について
  高所に強い、あるいは弱い体質というものはあきらかに存在する。しかし、それをまえもって検出する方法は、今までのところ確立されてい  ない。日本の山で非常に強い人が、ヒマラヤでは役に立たなかったという事例は少なくない。要するにその高度に実際行ってみないと分   からない。








救急法


(1)救急法の意義

事故者が出たときに、その人の生命を救うため、医学に基づきただちに行う一時的応急手当である。現実問題として医師が常に各パーティに同行するとは限らない。したがって、医師の手当てを受けるのにかなりの時間がかかる場合が多いので、各パーティは適宣に救急薬を携帯しているのが実情である。事故者がでた場合に、リーダーの判断によって投薬しているのも事実である。それだけに、投薬の判断を誤らないよう十分に注意しなければならない。



(2)救急法の目的

救急法の第一義的な目的は事故を起こさない事を常に考え、各人が慎重な行動をするような習慣をつけることである。すなわち、最良の救急法は、事故防止の徹底にある。救急法とは「事故が発生した時を最悪の状態として、それ以上悪化させないで事故者を医師に渡すことにある」


(3)登山に必要な救急法

登山は標高を考慮に入れると「高所医学」と言う特殊な問題が起こってくる。救急法も登山に必要な特殊なものがあるように思える。だが、登山そのものは、標高に関する問題以外は、日常生活の延長である。日常生活上必要な基本的救急法の知識は登山者、特にリーダーには必修のものである。


(4)救急手当てを行う時の留意事項

(気道の確保)
 いかなる場合でも、十分呼吸が楽におこなわれているかよく観察して、呼吸がしやすいようにする事。

(血液の循環)
 特に静脈血が十分心臓へ還流し、脳へ十分な血流が行われるようにすること。気道確保と血流の問題は、事故者をいかなる体位におくか ということになる。

(体位)

・意識のある場合
 意識のある場合は、まず事故者のケガの状態や全身的な状態を考えて、最も楽であろうと思われる体位に寝かせ、その体位が楽であるか どうか聞く。そして、事故者が望む体位にしてやる。


・意識のない場合
 意識のないとき、寝かせ方が悪いとよだれや嘔吐物を飲み込んで、そのために窒息したり、嚥下性肺炎になったりしがちである。したがって
 そのようなことをおこさせない体位にしておく事が大切である。


ア)原則的には、水平に寝かせる。からだをしめつけているものを緩めて、血液の流れをよくしてやる。枕はさせない。もし、本人が枕をほしが  ったら、低いもので頭があまり高くならない物を使う。


イ)顔色が蒼白の時は、頭を低くする。頭部、胸部、腹部の損傷の場合は顔色が蒼白であっても頭を下げないで水平の体位にしておく。


ウ)足や脚に出血がある時は足を高くする。


エ)顔色が赤い時、または、水平に寝かしすと呼吸困難がおこるときは肩と頭を少し高くする。

オ)嘔吐する時

 ・水平であおむけに寝かせて顔だけ横に向ける。この体位で楽に吐けない場合がある。その時はからだを横にして吐きやすい体位にする。

 ・顔だけ仰向きに寝かせても十分吐けない時は、横向きに寝かせる。原則として右肩を下にして横に寝かせるが、傷の箇所によっては左肩  を下にしても良い。意識不明の場合にこの体位において、よだれや嘔吐物を飲み込まないようにする。

 (事故者のからだを動かすときは、脊柱の骨折、とくに頚椎骨折の有無をよく調べてから適当な体位におく。意識不明の人を寝かせる時は、  仰向けに寝かせると舌根が落ち込む恐れがあるので、体位をコーマーポジションにする)。



(保温)

天候、気温の激変しやすい登山においては、事故者が出た場合これをいかに保温するかは、非常にたいせつである。極言すれば保温がうまく行わなければ死亡することさえ考えられる。リーダーは限られた資材で、事故者を有効に保温するには、ポンチョ、グランドシート、シュラーフザック、アノラック等を活用すればかなり保温出来る。

保温に際し注意すべきことは、、、、、、
 ア)汗をかくほど保温しない。
 イ)上ばかりでなく、からだの下の方を十分保温する。
 ウ)全身を隙間がないようにする。
 エ)雪を中に包み込まない。



(飲み物)

 本人が欲しがる場合は、コップ半分ぐらいの量を限度にして、少量ずつ吸わせる。また、事故者には、どんな場合でもアルコール類は与え  てはいけない。(絶対に飲み物を与えてはいけない場合)
 ・意識不明の者
 ・吐き気のある者
 ・頭部、胸部、腹部に損傷のある者
  以上の者に対してはたとえ、本人が水を欲しがっても、絶対に飲ませてはいけないが、もし、本人がひどく欲しがる場合は、唇を湿す程度  にする。

(ショック)

ア)事故者は次のような症状になりがちである。
・顔色や唇が蒼白になる。
・額にひや汗をかく。
・あくびをするような、あるいはためいきをつくような呼吸になる。
・呼吸困難になる。
・吐き気があったり、吐いたりする。
・瞳孔はふつう散大する。
・気力はおとろえて、筋肉が弛緩し、ぐったりとなる。


イ)原因
・外傷を受けた時。
・精神的障害を受けたとき。
・急病によるもの。



ウ)手当て

・ひどい出血があれば、直ちに止血する。
・シュラーフザックの上に適宜の体位に寝かせる。
・必要に応じて下肢を高くして、顔を横向けにする。
・頭を低くすれば呼吸は自然に早く戻る場合が多い。
・胸、首、腰の衣類をゆるめ、呼吸と血液の循環をよくする体位に置く。
・特に、濡れている衣服を取り替える。
・保温を十分にする。なお、保温する時は、汗をかくほど暖めてはいけない。汗をかけば、それだけ体液を無くすことになり、ショックを いっそ う悪化させることになる。
・保温の目的は、体温の保持と寒気の防止である。
・本人が欲しがり、飲み物を与えても良い時は、約1Lの水に茶さじ1杯の塩とその半分の重曹をいれたものをコップ半分を限度として すこし づつ与える。
・冬山の遭難者に対しては、濃いコーヒー、紅茶に砂糖、粉ミルクを多量に入れたものを飲みうる限度で、出来るだけ熱くしたものを与える。
・早く、血糖値を高めるようにする。
・興奮と不安を取り除く。一服のタバコが精神的な落ち着きを与える事がある。
・事故者の耳に入るところで容態のことや、不安を与えるような事を語ってはいけない。









体力・トレーニング・健康管理

1。体力

(1)登山と体力

登山に限らず、ある強さの運動をどの程度の時間行う事ができるか、その人が運動中にとり入れることの出来る酸素の量(最大酸素摂取量)によって決まる。したがって、いわゆる体力を最もよく表すものさしは最大酸素摂取量である。

(2)登山者の体力

登山には精神力や病気に対する抵抗力が大きなウェイトを占めることは十分考えられる。しかし、自分の体力と経験を考えて山を選び、危険地区に相応する技術、体力などをもち、体力に応じた負荷によって、慎重に安全を期せという教えの中にいわれる体力は、登山という行動の土台となっている身体的要素である。


(3)歩行と体力

日常生活において積極的に活動するためには、たとえスポーツをしなくても、歩かなければならない。登山はまさに歩行の典型である。


@靴の重さとエネルギー消費量

毎分65mぐらいの速さ(3.9km)で歩けばどの場合にも,だいたい一致して体重1kgを1mだけ移動させるエネルギーが0.49calになる。
しかし、それより低速では重量が軽くなるほど、また、高速では重量が重くなるほどエレルギーの消費が大きくなる。

歩幅を自由にかえて歩くと、歩幅が小さいとき(80cm以下)には軽い方が、また歩幅が大きい時には、重いほうがそれぞれエネルギーの消費が少なくなる。しかし、最も歩き易いと思う歩幅で歩いた時には、くつの重さによるエネルギーの多少の差は殆どない。このことは日頃の山行やトレーニングにおいて、自分に適した歩幅や速度を体得することの重要性を物語るものである。























A歩く速さと背負う重量

はだしの場合には、毎分70mの速さで歩いた時、また1300gのくつを履いたときには毎分60mの速さで歩いた時がいずれもエネルギーの消費が最小となっている。このような速度を経済速度と呼ぶ。登山のように長い時間、しかも、安全に行動しなければならない運動において非常に大切な事実である。負荷0kgでは60m/minぐらいの速さが経済速度であるが、負荷の増加とともに経済速度は高速側に移行している。

これは、歩行運動中は身体のモーメントを利用できるからであり、したがって坂道を登るときより、降りる時の方が経済速度は速くなる。さらに、同一速度ならば、坂の傾斜が急になるほど登りに要するエネルギー消費量も大になる。

登山においては、特にこのような生理学的事実に基づき、むだなエレルギー消費を防ぎ、できる限り疲労を少なくするような歩行の速さや負荷重量を選択しなければならない。もちろん、経済速度や至適負荷荷重は、年齢、性別、体格、体力、熟練度などによって多少は異なるが、一応の目安としては、歩行速度は40m/min。重量は30kg以下(出来れば、体重の30%程度)。















2.トレーニング

(1)我々の体には、外界や身体内部からの刺激に反応して、絶えずそのはたらきをある限られた狭い範囲で一定に保ちつつ、同時にそのはたらきを改善させている。トレーニングもその刺激の一つで、運動能力、いいかえれば体力を発達させようとするものである。

@全面性
心身ともにすぐれた人間が専門的なスポーツを行ってはじめてその真の効果をあげることが出来る。したがって、体力の各要素を万編なく鍛えて、からだのバランスのとれた発達をこころがけなければならない。

A自覚性
トレーニング科学の進歩に伴い、トレーニングはその目的に応じて非常に多様化している。体力のどこをどのような方法でトレーニングするかをハッキリと自覚しておこなわなくてはならない。他人の指示に盲従していたのでは効果をあげることは出来ない。

B漸進性
トレーニングでたいせつなことは、強度と持続時間の組み合わせである。どちらも徐々に強めていかなくてはならない。

C反復性
トレーニングは長期にわたって、たゆまずくりかえさなければならない。

D個別性
トレーニングを行う人の性、年齢、体力、健康、経験などを考慮して、個人個人に最もふさわしい方法でトレーニングがなされなければならない。



(2)筋力をつけるトレーニング

筋力をつける場合には、一般にバーベルとかダンベルのような重量物やエキスパンダーのようなバネを用いる。このような重量物や抵抗を利用したトレニーングをウェートトレーニングと呼ぶ。ウェートトレーニングには、力を断続的に発揮して行う動的トレーニングと力を連続的に発揮して行う静的トレーニングとがある。


(3)スタミナをつけるトレーニング

運動の強さに応じて酸素摂取量を高める働きをするのは、心臓と肺臓を中心とした呼吸循環機能である。また、運動が長続きするかしないかも酸素摂取能力に左右される。したがって、呼吸循環機能の働きを全身持久力といい、一般にスタミナと理解されている。心臓と肺臓の働きを高めるのに、最も良い刺激となるものは「走る」ことである。その代表な方法に持久走とインターバルトレーニングがある。






3.健康管理

(1)健康管理の内容
体力管理,・医学的管理(登山のように持続的な運動では、たん白質・脂肪・炭水化物の比が重量比で1:1:4の割合になることを奨励されている)。生活管理・心理学管理・トレーニング管理



(2)山行時の疲労の判定
蓄積疲労を防ぐため、常日頃いろいろな面から健康管理をすることがたいせつである。山行中はそれと同時に現在の疲労の状態を知ることもその後の工程上きわめて重要である。


尿検査

登山活動を行えば、必ず、疲労が生じる。また、疲労しないような生活をしていたのでは、かえって健康によくない結果をもたらすようになる。問題は、今日の疲労が翌日、翌々日へともちこされて慢性疲労の状態になったときである。疲労が蓄積されていくと器官に病的な変化が起きる。たとえば、ふつう尿の中にタンパクがない。ところが、激しい運動をすると、腎臓の血液が障害されて酸素不足の状態になり、タンパクが尿中にろ過されてくる。しかし、このような尿タンパクは一般に運動後1〜2時間たてば消えてしまう。腎臓に病気があれば尿に必ずタンパクが出る。運動をした次の日にもタンパク尿が出ている場合には、腎臓に病的な変化が生じた疑いを持つ必要がある。


浮腫

女子は男子に比べて、登山中から下山後に浮腫をきたす人が多い。これは女子に貧血の傾向がある事も理由の一つであるが、直接の原因は、登山という重労働が、心臓の負担を増すためである。なんら、疾病が認められなくても、浮腫をきたし易い人は荷物を軽くして、塩分の摂取もひかえる。



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