湯本香樹実『ポプラの秋』

作品番号:3 1999/5/11登録
湯本香樹実

『ポプラの秋』幼い日に綴られた「あの世」への手紙

作品情報

テキスト : 湯本香樹実 『ポプラの秋』、新潮文庫(1997)
このページの出典: 福永武彦研究会 第30回月例研究会発表 「読書ツールとしてのコンピュータの利用」

この作品について

本屋をぶらぶらしていて何気なく手に取り、読んでみたところ「大当たり」だった1冊で、97年に私が読んだ本の中でいちばん感動した本であった。「あの世」へ手紙を運ぶという気味悪いおばあさんと父を失った少女の物語。その後18年後の秋、おばあさんのお葬式に向かう私の胸の中におばあさんや隣人たちとの交流が鮮やかによみがえるとともに隠された母の秘密を知る。「癒し」という言葉がぴったりな小説で、心に疲れを感じている人にもお勧め。

※ 湯本はこの作品の前に『夏の庭』という作品を出しており、こちらは映画化、舞台化されると共に世界10カ国で刊行されている。本ウェブサイトでも『夏の庭』の作品解釈を掲載している。こちらからどうぞ。

なお、本作品の読み解きは福永武彦研究会 第30回月例研究会での発表「読書ツールとしてのコンピュータの利用」において作品分析の具体例として提示したものである。したがって本作品の読み解きにはアウトラインプロセッサ「インスピレーション」を使用しており、そのイメージ図をここで発表する。


作品の構成と特徴

語り手である「現在の私」が18年前に知り合ったおばあさんの死を知り葬式に向かう。そこから「現在の私」の回想が始まり、「18年前の私」が語られる。現在の私(28歳)と18年前の私(7−10歳)はどちらも危機に遭遇しており、どちらの「私」もおばあさんにより癒されていくという筋になっている。現在(大人)の私と過去(子供)の私が対面する構造になっている。これは宮崎駿のアニメ映画「思い出ほろほろ」と似ているように思われる。

ポプラの秋構造分析図

『ポプラの秋』 作品構造分析図
語り手である「現在の私」と回想部分である「過去の私」の関係を図示化した

 

作品の解釈

『ポプラの秋』は、おばあさんの死をきっかけとして18年前の「母」を再発見し、現在の「私」が人生の危機を乗り越えていく力を与えられる物語である。「あの世への手紙」を綴るのは現世に対する癒しとなることをおばあさんは暗に知っていたと思われる。 「私」が受けた癒しはおばあさんの与えた癒しのごく一部にしか過ぎない



ポプラの秋主題分析図

『ポプラの秋』 作品主題分析図

おばあさんの死をきっかけに物語が始まり、「現在の私」が「過去の私」と再開する構造を取る。現在も過去も、「私」は人生上の危機に遭遇しているところがポイント。現在の「私」は自殺の危険性がある


作品の解釈を終えて

アウトラインプロセッサの導入により、作品の構造分析および主題分析がグラフィカルに可能になった。今後はこのツールを応用しなるべく図示した形で作品の解釈を行っていくことになる。本作品の前に『夏の庭』が刊行されているが、これは少年3人とおじいさんの物語である。湯本の作品はこの2つを読んだだけだが、キーワードが明確で子供ー老人ー死を結ぶプロットが作品中に明確に認められる。老人と死の扱いがとても暖かく作品から受けるhealingな印象はここから来るものと思われる。今後は『夏の庭』との比較検討によりこの点がさらに検討されるべきだと考えている。


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