作品番号:10 2000/6/6登録
福永武彦 『風のかたみ』
作品情報 テキスト : 新潮社『福永武彦全集』第9巻、新潮文庫『風のかたみ』

この作品について

娯楽小説として捉えられやすい(というか、娯楽として十分に楽しめるだけの面白さと構成の美しさを持った)小説である『風のかたみ』。しかし筆者はこの作品には愛の不条理よりも遙かに厳しい世界が描かれていると考える。福永武彦研究会での例会発表準備を通して明らかにした『風のかたみ』の世界を紹介する。なお、本作品解釈は再考して論文化され、会誌『福永武彦研究』第5号に掲載済。

作品の構成と特徴

『風のかたみ』は今昔物語の影響を受けた長編小説で、登場人物は多く、法力(いわゆる魔法)も登場する。物語の進行は早くかつ動きは大胆で一見娯楽的に見えるこの小説であるが、実は萩姫が2つの属性に分裂して描かれている点に着眼して読み解くと娯楽的な色は消え、非常に重い主題を含んでいると考えられるのである。なお、『風のかたみ』は初読と再読(反復読み)で解釈が非常に大きく変わった作品で、このような経験は筆者は初めてのことであった。このような読みの発見は、田中実氏の論に依るところが大きい。

作品の解釈

再読から感動の源泉の発見までの流れ(福永武彦研究会 発表レビュー)はこちらを参照。この小説をどう捉えたかを説明している。



作品を解釈するために作成した図を示す(この図はInspiration Ver5.0+Canvas Ver6.0で作成した)

登場人物人間関係図
図1:登場人物の人間関係

 作品構造図(萩姫を中心として)
図2:作品構造図

図3 『風のかたみ』物語進行タイムテーブルはこちらをクリック。

ウェブマスターの解釈の結論

  1. ウェブマスターはこの小説を萩姫を中心に置いて読解した。萩姫は「愛欲のプロット/<業>の部分」と「やさしい女性のプロット」の2つに分裂して描かれている。萩姫の示す2面性はこの小説の構造の大きな特色であり、主題と直接結びついている。
  2. 最終章「いさら川」では、萩姫の持つ2つのプロットが統合される。ここでは「業」に対する「罰」という主題が提示される。
    萩姫の「業」は非常に重く、この先も赦されることがないと明示される(萩姫は「業」と共に消滅する美女)。
  3. 『風のかたみ』は娯楽小説として捉えることはできない。「愛の不条理」よりも遙かに厳しい世界が描かれている。

本発表は論考としてまとめ、会誌『福永武彦研究』第5号(2000年発刊)に掲載されている。研究会発表時に萩姫を中心とした読みは男性の読みだとの指摘をいただいたが、それについて詳細な考察を展開することはできていない。今昔物語や源氏物語に描かれている女性像との比較検討も必要であるが、現時点ではそれは筆者の能力を超える。このページをご覧になってくださった方々から有益なアドバイスやコメントをいただけたら幸いである。



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