作品番号13−その2/ 070630 ENT
大林宣彦監督映画「廃市」紹介
福永武彦作品「廃市」を大林宣彦監督が映画化したものです。ほぼ作品通り忠実に映画化されていますが、所々に監督の「読み」と思われる修飾が施されていますが、私的には非常に満足の行く作品でした。
主人公「僕」は江口と名が与えられている他は、作中人物は原作通りです。主人公「私」は卒業を控えた大学生ですから、20代前半のはずで、かなり若い人のはずなのですが、映画の中ではずいぶんと年上のように感じました(キャストは、山下規介という人がやっています)。もっともこれは服装によるところが大きく、江口が背広を着ていたことによるのかもしれません。今の大学生はもっとカジュアルですからね。
貝原安子、郁代、秀は私が作品を読んで抱いたイメージそのもので、全くといってよいほど違和感はありませんでした。特に安子はぴったりですね。また、この映画は福岡の柳川で撮影されており、割堀の風景も実際の作品と良く合っています。小説をベースに映画化された作品はいくつもありますが、私が今まで見た中ではこの映画は原作に忠実であろうとした努力が最もよく認められるものだと思っています。
が、完全に原作に忠実というわけではなく、大林監督の解釈が述べられている箇所があります。いわば、この作品は大林宣彦監督の読書感想文であるとも言えるでしょう。「廃市」には謎の部分があり、小説ではその解釈は読み手に委ねられているのですが、映画ではここの部分を大林監督がどう解釈したかが示されています。 「僕」が最初に貝原家に泊まった夜に聞いた女のすすり泣き声の正体、安子と直之が交わした会話の中身が映画の中では補完されていて、大林監督の読みを楽しむことができます。そしてラストシーンでは原作には無いシーンが付け加えられており、この映画の中ではクライマックスになっているとも言えるように思いました。
私自身の読みも、この作品の読みと大体一致していたせいか、違和感はほとんどありませんでした。福永武彦を愛読されている方に対してお勧めできる逸品です。