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拝啓
今年のスギ花粉症は昨年に比べ軽く済んで喜んでいましたが、ここ1、2週間ほど軽いアレルギー症状が出ています。どうやら今の時期に飛散する花粉に対してもアレルギーがあるようなで、おそらくブタクサではないかと疑っています。スギよりはずっと軽いですが、それでも鼻水やくしゃみがブワーッと出てくるのは気分の良いものではありませんね(-.-)
今回ご紹介するのは、石川達三『僕たちの失敗』/新潮文庫(昭和48年)です。
昔読んだ、眉村卓か筒井康隆の本の中に、「契約異性」というのがありました。これは永続的な結びつきを前提とせず、何年毎の契約で夫婦関係を見直すというものですが、『僕たちの失敗』の主人公が選択した生き方はこれに近いものと言えます。相手の女性もそれを納得の上で結婚生活に入るわけですが、結局は主人公が幸福にならないんですよねぇ、端から見て。。最後はパートナーの妊娠と子供の始末を巡って意見が対立し、3年どころか1年で破綻してしまうという筋書きです。他にも脇役として、実母と自分の上司である工場長との再婚、友人の事故とそれに端を発した離婚騒ぎ、傷害事件、等々と様々な人々の気持ちが生データとして提出され、「なるようにしかならない」という展開で話が進んでいきます。頽廃的な雰囲気の中、一人主人公だけが妙に突っ張っているような印象を受けるのですが、前半にはかなり立派に見える彼のポリシーも、後半になるとかなり色褪せてしまうように思えるのです。
主人公の福田の考え方は取り立てておかしなところがあるわけではなく、それどころかむしろ筋は通っています。が、作者はその福田を最終的に幸福にはしなかったように思えます。この話の中で誰が一番幸福かというと、工場長と結婚した実母のように思います。彼女には生き方の主義主張があったわけではなかった。好きだという気持ちを正直に表出して行動しただけの極めて単純な考えですが、作者もこのような人物には敢えて手を入れようとは思わなかったのかもしれません。
主人公・福田が自由を主張する一方で、嫉妬にさいなまれているのは大変面白い。まさ子の旧友(実は腹違いの兄妹)の片桐とまさ子の間の関係を疑ってかなり執拗に調べ回ししています。まぁ読み手の目から見ると、自分は恵子と浮気している事実がありながらよくやるよなぁと思いますが、実際このような立場に置かれたらまぁ福田の取ったような行動が標準的なものでしょう。この点において福田の思考・行動は他の男と何ら変わりありません。
最後に、まさ子に子供ができて、その子供の対処をめぐって2人の意見が対立し、3年どころか1年で破局を迎えるわけです。通読して、恐ろしいまでの自分中心主義−自分の主義主張通りに他人が動いてくれないと気が済まない−が根底にあること、そしてそれをどこまでも貫き通した果てに待ちかまえてた自己の崩壊が恐ろしいまでに冷静に描き出されているように思いました。そこには自己完結が暴走することの怖さが見え隠れてしています。
※おそらくこの小説を読まれて、主人公・福田の思想と行動は立派だとお考えになる方がいらっしゃるかもしれません。もしそのようにお考えになる場合は、物語全体の流れの中で彼は果たして幸福だと言えるか、作者は彼を幸福にしたか、という視点で眺めてみていただけると、考察が深まるように思います。
読書ノートには、石川達三『独りきりの世界』も収められていますのでよろしければご覧下さい。
敬具
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石川達三著
『僕たちの失敗』
新潮文庫刊
文庫・単行本 |