| 私の読書ノート |
|---|
読書ノートから、お勧めの書籍(文学作品の朗読を含む)をご紹介します。
中川淳一郎『今ウェブは退化中ですが、何か?』、講談社(2009) 『ウェブはバカと暇人のもの』に続く、インターネットのネガティブ面に光を当てた現場からのレポート。前作を著した後で、何を考えたのかというフォローも付いているので、併せて読まれることをお勧めする。 <目次> 著者の職業は、ネットニュースの編集者。ネット上の情報を扱うことが仕事だ。”仕事で”(=お金をもらうことを前提として)ネットを活用している立場から見た、「ド現場」からの現状報告というスタンスで書かれている。”仕事で”ネットを使う立場と、”非仕事で”使う立場では全く違うというのが著者の一つの主張になっているものと思われる。”非仕事”であるにも関わらずネットにどっぷりと浸かっている人というのは基本的に暇人であるという認識であろう。中川氏は、梅田望夫氏が説くようなネットの理想郷が当たり前になる未来はやってこないと断言する。 ネットの世界を語るとき、そこには無限の可能性があるかのように夢を語る人がいる。が、著者はそれは間違っているとする。インターネットは既に成熟したインフラストラクチャーであり、誰でも安価に使用できるのだから、夢を語る時期はとっくに過ぎ去ったというわけだ。だからネットを語る場合にはもっとリアリティを持たなければいけない、と。具体的には、ネットを活用していくら収益を上げたとか、このように良いことがあったといった成果を提示すべきということだろう。常に可能性を説くネット教信者の言うことを信じてはいけないそうだ。 第3,4章は既存のメディア(特にテレビ)との比較がなされている。今も昔も大衆に一番大きなインパクトを与えるものはテレビであり、芸能人であるという指摘がなされ、ネット上での盛り上りというのは世の中全体から見ればインパクトはものすごく小さいと説明する。ネット上でちょっとした騒ぎが生じると、それがあたかも世界全体が騒いでいるかの如く感じてしまう不思議さがネットにはあるのだが、その感覚は間違っているらしい。2009年の衆議院選で民主党が圧勝、政権交代が生じた時もネット上の議論では自民党優勢であったが、リアルの世界はそうはならなかったこと等を挙げ、ネットとリアルの世界は一致していないことをを指摘する。梅田望夫氏が『ウェブ進化論』で指摘したような、ネット世界の理想は使う人のレベルが追いついていないと機能しないと、氏はここでも前著の見解を繰り返す。氏は、単に時間が経過すれば使う人のレベルが追いつくだろうと楽観的に考えていないことは明かである。インターネットは既に成熟したインフラであるため、ネットを使う人たちのレベルが今以上に向上することはないだろう、と暗黙のうちに述べているように思われる。 中川氏は再度指摘する。ネットの明るい未来を論じる人たちの中に、「ド現場」で不特定多数のユーザーに対峙している人はあまりいない、と。ド現場と関係ないところで、ネットとネットユーザーを使って儲けている。だから”脳天気”に明るいことを言い続けられる、と。私は同じネットの世界を材料にして、梅田望夫氏と中川淳一郎氏のようにこれほどまでに見方が異なることに驚嘆の念を感じざるを得ない。私自身の感覚から言うと、中川氏の言うことはとてもよく理解できるのであるが、コンセプトや将来に向かってのモチベーションという観点からは梅田氏の論は捨てがたい魅力があるように思うのだ。梅田氏がたとえ理想を語っているにせよ、そこには人々を惹き付けるパワーがあるように思うのである。 第5章を読むと、中川氏は、ネットよりもリアル世界の方へ重点を置いていることがわかる。氏はネットを活用するときに、どれだけのリターンがあるかをまずは考えるという。自らブログやトゥイッターで発信するメリットはほとんどない、それは自分自身のリアル世界が充実しているからだと言う。結局は、人間対人間の生のやりとりに勝るものはない、というのが、氏が出した結論のようだ。 この本を読んで面白いと思うのは、どのような人たちだろうか。おそらく、ネットで何らかの不愉快な気分を味わったり、疲れている人たちであるように思われる。なぜならば、ネットが楽しくてしょうがない人たちはこのような本を読む時間すらもったいないだろうし、ネットとの関わりは仕事だと割り切っている人たちにとっては当たり前の中身だからだ。ネットに期待したけれど裏切られた人、期待通りのリターンが得られずに面白くない気分を味わっている人にとっては、「そうだ、そうだ!」と共感するところが多いように思う。 それから、おまけ(サービス)としてネットでウケるための方法、良いコメントをもらうための8つの条件、PVを稼ぐためのテクニックが紹介されている。いずれも氏の経験と観察に裏打ちされたpracticalな内容であり、ブログやウェブサイトを作成運営されている人には得るところがあるかもしれない。ある程度経験を積んでいる人にとっては当たり前のことばかりであるが。 コメントがありましたら文学作品を読むblogまでお寄せ下さい。
|
|
|---|---|
読書ノート No.46 2010/01/11 |
|