私の読書ノート

読書ノートから、お勧めの書籍(文学作品の朗読を含む)をご紹介します。

中島義道『戦う哲学者のウィーン愛憎』、角川文庫(平成11年)

先日、ウィーンへ出張する機会があったので久しぶりにこの本を再読した。実際のところ、ウィーンには行ったものの宿や仕事場は郊外であり、町中を見学する時間はほとんど無かった。しかも天気はずっと悪く(なんと雪が降った!)、ドナウ川も冷たく灰色に淀んで美しいとは言い難かった。シュトラウス「青く美しきドナウ」の曲とは全然違うやんけ!と、私は心の中で大声を出して叫んだ(^^;

さてさて、この本はウィーンのガイドブックではないし、ウィーンは素晴らしいところであると称賛する本でもない。お世辞にも恵まれているとは言い難い環境での生活記、冷静に読むとかなり必死に頑張った生活の記録である。生活をする上で関わったヨーロッパ人の態度に辟易しながらそれでもなんとか生活を成り立たせてしまうという、中島氏のしぶとさ(強さ)を感じさせるものでもある。

<目次>
1.黄昏のウィーン
2.日本人学校教師として
3.ウィーンの日本人社会
4.ウィーン人とは
5.永遠の学生
6.家主との闘い
7.ウィーンでの結婚

中島氏は、私費留学生としてウィーン大学で学ぶため渡欧、その後運良く(氏の記述を読むと本当に運が良かったとしか言えない)日本語学校の教師として採用されるが、そこで味わったのは非ヨーロッパ人に対する本能的軽蔑であったという。この部分は実際のやりとりを含めて詳細が語られていて、読者の血中アドレナリン濃度をがんがん上げてくれる(^^; 私だったらこんな態度取られたらきっと切れるだろうな・・・でも英語で応酬するのは厳しいかな・・でもなぜ英語で応酬せにゃならんのかと、氏のストレスを察するに余りあるような記述が続く。

さらに、氏の観察眼はウィーンで暮らす在日人にも注がれる。ウィーンに住む日本人の間では、私費留学生は大企業や国費留学生と差別されていると、詳細データ付きで語られ、ここでも氏の苦労を察することができる。海外に出ると日本人同士助け合ってもよさそうなものだが、ここで語られている状況は全く逆、私はこのような状況に陥ったことがないので実体験からコメントはできないが、ヨーロッパ人の日本人に対する蔑みと日本人の差別意識の板挟みにあって精神がおかしくなってしまう人が出るのは頷ける。日本社会は平等だと言われるが、異国の地に赴くと各人の状況で差別が発生してしまうのは興味深い。(でも実際に自分が遭遇するのは御免被りたいが・・・)

次に、ウィーンに住む人の気質、というかヨーロッパ人に共通する特性についてのエッセイが続く。ここでは非ヨーロッパ人として彼等が自分のことを対等に見ていないというバックグラウンドを踏まえて語られているのだが、ウィーンでやっていくには、「言われたら言い返す」、「諦めたり泣き寝入りしない」、「彼等の細かい攻撃を放置しない」といった、見ただけで疲れそうな文言が並んでいる。ここでも氏の実体験の詳細データ付きでその理由が語られるが、「決して自分が悪いと泣き寝入りしないこと」が大切だと結んでいる。ここも読んでいると血中アドレナリンがかなり上昇する。

それから、大学入学の手続き、学位を取得するまで、家主との交渉、ウィーンでの結婚と続く。家主との交渉も、ウィーンで家を探して住むことがいかに大変であるかが詳細に語られ、上記のウィーン人気質の話と合わせて味わうと血中アドレナリン濃度が上がる。

私は、ウィーンには3日間しか滞在せず、完全なお客様であったので上記のような事態に陥ることは全くなかった。住んでいたら(それも自力で家を見つけ、仕事を見つけるのであれば)状況は全く異なるのであろう。中島先生、ご苦労様m(__)m 大変楽しく読ませて頂きました。

※中島先生の別著書、『私が嫌いな10の人びと』の読書感想文もあります。こちらからどうぞ。


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中島義道 著
『ウィーン愛憎』
(平成11年)

中島義道著
『ウィーン愛憎』
(1990年)


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読書ノート No.42 2009/11/26
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