| 私の読書ノート |
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読書ノートから、お勧めの書籍(文学作品の朗読を含む)をご紹介します。
池田清彦『がんばらない生き方』、中経出版社(2009) 構造主義生物学者が書いた人生論(処世術?)で、頑張る、正義、努力、力一杯、ポジティブ思考にまったをかける本。森毅先生(京都大学の数学者)の本と似たところがある。 2009年に出版された本で、サブプライムローンに端を発する世界不況の世を反映させた作品で、池田先生が不況の世の中(日本)をどのように捉えているかがわかって面白い。池田先生の作品が好きな方にはお薦めできる。 ハウツー本の批判に始まり、「いくら努力してもできねーものはできねー、才能の下地が無ければ伸びねー」と、ハッキリ言われる。ハウツー本の類の功罪の一つに、誰でもがこのハウツーに従って努力すれば成功すると思わせることがあるのだが、池田先生はそのような考え方は危険だと言う。※ハウツー本の類は成果について明確な約束をしていないのが普通。まあ、冷静に考えれば(そして少し自分でもやってみれば)わかるであろう当たり前のことが書いてあるに過ぎないが、ハッキリ書かれるとかえって新鮮さが感じられる。 仕事に関しても、情熱、やる気、夢などは一切不要、必要なのはその仕事を達成するための技術であり、むしろかえって仕事は面白くない方が良いと断言する。働いている人の大部分は一日のうちの少なくない時間を仕事に充てているわけだから、あまりにも辛いと人間が壊れてしまうので、やはりある程度は楽しい方がよいと私は思う。がこれは全部にわたって楽しくなければいけないというものではなく、そのうちの一部でも楽しみがあればベターという程度だ(例えば会合でタダ飯がいただけるとか)。仕事を達成するための技術が無い、あるいは不十分な人とは組みたくないというのはその通り。なぜならば自分自身が不足分を補わなければならず、仕事量も時間も増大してかつ賃金アップは無いから。仕事を通じた自己実現は、できればそれに越したことはないが無理に求める必要もないだろう。世の中では仕事での自己実現を成し遂げた人の意見が過度に尊重される雰囲気があるが、これは悪しき問題である。 以前、「ちょい不良(わる)オヤジ」とか、「大人のやんちゃ買い」といった言葉を見かけたことがある。「ちょい不良」の方は『LEON』(主婦と生活社)から出ていたが、AMAZONでチェックすると今でも出ている。私は中を見たことがないのだが、池田先生のこの本に詳細に解説されていて面白かった。要は金を持っている(ターゲットは年収1千万を超える層だそうだ)連中を相手に、いろいろなモノを売りつけようとするのが趣旨らしい。「大人のやんちゃ買い」も似たようなコンセプトで、要はもっとお金を使おうよとの趣旨である。第一にこれは「余計なお世話」という気がするし(ただし企業がそのようなプロモーションを行うのは自由であるが)、そのような感覚を大部分の日本の中高年は持っていないのではないか。団塊世代をターゲットにしたビジネスの一つであるが、大きな成功を収めているようには感じられないのは出発点からして間違っているのでは、と池田先生は指摘する。LEONはまだ刊行され続けているようだが、「やんちゃ買い」の方はすっかり見なくなってしまったので、あまり流行らなかったのかもしれないが。 ※同様に定年後の人生を自然豊かな田舎で暮らすという定住型リゾート住宅の宣伝もよく見かけるが、野菜や果物を作る生活を全ての人が望んでいるわけでもないし、身体に故障が出た場合医者は近くにあるのか、ご近所は助けてくれるのかという不安もある。日常品の買い出しはどうするのかとか、子供や孫達は訪ねてきてくれるのかということも気になるだろうから、いくら自然が好きでも早々に引っ越すわけにはいかないだろうことは容易に想像できる。もっともこれらの課題は企画会社も考えているだろうから、何らかの方策は打っているだろうが、それらはコストに反映されているだろう。実際の数字は知らないが、住宅の購入費用の他にもかなりの費用がかかる可能性が高い。 池田先生は、生き方を複線化して気持ちの持って行き場所をリスクヘッジせよと強く勧める。先生のご趣味は虫取りだそうだ。今現在が上手く行っていたとしても、病気、怪我、予想外のリストラや家族の事等々、いつその安定が崩れるかは誰にもわからない。そうなったときに単線は危険という、これまた今までもいろいろな人が散々指摘してきたことではあるけれど、昨年からの不況で経済面でこれが実感されるようになってきて、今考え直すには(そして自分自身にリセットかけるには)良いタイミングかもしれない。 この本には心に残る(?)名言がいくつも入っている。「大人ならではの「安定感」は、滅多に感動しないことにある」、「仕事は「情熱」でやるものではない」、「仕事は楽しくなくても問題ない」等で、まあ、当たっている(笑)。 私は技術評価に携わる仕事をしているのだが、例えば新しい技術やデータがベンチャー企業から持ち込まれて、「これ、ものすごい画期的なものですよ!」と言われても、私たちはそれをマトモには受けない。どこかに穴があるはずだ、という目で見るのが普通だし、まず間違いなく製品化できないと考えて評価する(そしてこの予想はほとんどの場合は正しい)。そもそもそんなに画期的製品の話が持ち込まれること自体がほとんど無いと思っているので、感動などというものに触れることは、正直言って年に1回も無いのである。実際に新製品が出来て世の中に受け容れられるには様々の要素が絡むのであるが、技術がすごくて売りにつながる例は(技術革新が叫ばれている割には)世の中が期待するほどには多くないように思う。池田先生のこの本を読んで、あぁ、それが現実なんだなあと改めて思った次第である。
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| 読書ノート No.41 2009/10/25 | |