私の読書ノート

読書ノートから、お勧めの書籍(文学作品の朗読を含む)をご紹介します。
紹介のスタイルとして、読んでくださっている皆さんに手紙を出すという想定で文章を作っています。
該当作品にはAMAZON書店へリンクを貼りましたので、興味を持たれた方は手に取ってみてください。

拝啓

今日は12月の下旬とは思えない、暖かい日でした。石油ファンヒーターのスイッチを入れると部屋が
暖まりすぎてしまい、温度調節に苦労しています(-.-) ところで、朝日新聞の夕刊一面のニッポン人・脈・記という連載で、「数学するヒトビト」というテーマで4回にわたり日本で活躍する数学者の紹介がありました。なかなか面白いと思って読みましたが、この記事から日本の数学のレベルは結構高いことがわかります。


今回ご紹介するのは、数学者であり、エッセイストである藤原正彦氏の著書です。今から20年も前の本
ですが、その中身の面白さとメッセージの大切さは全然古びておらず、面白く読めます。藤原正彦氏が最近書かれた『国家の品格』がベストセラーとなり良く売れ、いろいろなメディアで取り上げられたこともあって
結構名前をご存じの方も多いのではないでしょうか。私は、藤原正彦氏の文体も割と好きで、著書はほぼ
読んでいます。


この本でいちばん面白いのは、最初の章にある「学問と文化」の”学問を志す人へ−ハナへの手紙”という
部分です。藤原正彦氏がコロラド大学で教鞭を取られていたときに教えた大学院生の挫折について綴った
文章で、学問(に限らず一つのことに集中すること)で成功するには危険な曲がり角を突破しなければならないことを力強く、情熱を込めて語っています。藤原正彦氏はこれを「専門的成長」対「情緒的成長」の問題だとしていますが、これが人間的な魅力とどう関わっているかについて氏は考察を進めていきます。

氏は、「生命を燃焼しなければ真理が見えてこない」という言葉が示すように、ひとつの問題に粘着できるのはそれ自体が類い希な才能かもしれない、と述べています。ここら辺は藤原正彦氏の実体験が語られていて、半年間ほど集中したが結果は得られなかった、と。正直言って私自身は数学というのはぱっとしたヒラメキですべて綺麗に解けてしまうと思い込んでいたので、これほどまでに集中して考えることが要求されるというのは非常に大きな驚きでした。

ここで藤原正彦氏が言う「専門的成長」とは、たとえ数年間でも自分が選んだ何かに打ち込むことで得られるもので、氏はそれを「人間の強さの魅力」と表現しています。これに対して「情緒的な成長」とは、他者の「涙」に敏感な心であると説明していますが、両者が同時に育つのは難しくても、情緒的な成長を決して無視することなく、将来的には必ず両者を結びつけてほしい、というのが、藤原正彦氏の読者に対する強いメッセージかと思います。

その他、藤原正彦氏のユーモア溢れる文体で旅行記やエッセイがたくさん詰まっていますので、お勧めの一冊です!

                                                             敬具


藤原正彦
『数学者の言葉では』
新潮文庫(昭和59年)


私の読書ノート バックナンバーリストはこちら
読書ノート No.4 2006/12/16

トップページへ