私の読書ノート

読書ノートから、お勧めの書籍(文学作品の朗読を含む)をご紹介します。

大石真『教室205号』、講談社文庫(1979)

先に紹介している、『チョコレート戦争』と同じ著者が書いた長編児童文学小説である。秘密の地下室を通じて知り合った小学生4人の友情の物語である。4人だけが知っている秘密の地下室、小説の核心はこの言葉に集約され、秘密の共有は普段付き合いが無い生徒同士の気持ちを結びつけてしまう魔法の特効薬だ。

成績は良いが足の悪い友一、物は豊かに揃っているが両親の愛情を充分に受けられない明、そして継母が来たことで父親に反発している洋太、運動は得意だが学業はいまひとつの健治の4人は、教室205号で時間を共有することで次第に他の立場を理解し、進んで相手に対して協力するようになっていく。その流れが違和感のない自然体で克明に描かれていて、読む者を飽きさせない。4人に次々に襲いかかる事件の配置も緻密に計算されているものと思われ、小説構成の面でも完成度は高いと思う。

『チョコレート戦争』は子供vs大人(金泉堂のオヤジ)という構図がくっきりと出ていたが、内容の大部分は子供たちの物語であった。子供たちは自分で考え、行動し、そして最後には自分たちの無実を証明するという一種の爽やかさを感じさせたのだが、『教室205号』は子供vs大人という構図ではなくて、子供たちが大人の社会から受ける影響を描き出す構図を持っている。物語の中では友一、明、そして洋太の家庭事情が語られるが、作者はそれらの家庭事情に対して解決策や決着を明示することはしない。明に関しては母親の対応のまずさから明自身が交通事故で死んでしまうが、その記述は意外なほどあっさりとしている。どうも、作者は大人側の事情を子供側に包み隠さず提示し、子供の視線でその反応を記述するのを狙ったようである。(大人の視線では責任の追求や今後の対応などが語られると思われるのだが、そのような記載は一切無い)社会が抱えている問題を子供に正直に提示している点は、『チョコレート戦争』とは異なりむしろ吉田足日『宿題ひきうけ株式会社』と同様の構成である。

教室205号で一晩を過ごした友一と洋太は、健治の説得もあって自分たちで家出を中止する決心をする。その少し前に友一と洋太の親たちが自分たちの非を認め(客観的に見ると非と言えるようなものではないのだが)、子供達に悪かったと思う場面が描かれる。大人の反省から子供の反省へと話を展開することで、読者の目が子供達に対して暖かくなるように仕向けられる一瞬のテクニックである。子供達が家出を中止する決心をする、3人のやりとりは完全に子供達だけの世界での話であり、実に活き活きと描かれていて楽しい。ここからそのまま幕が下ろされてプロットは止まる。友一や洋太の家庭事情については何一つ解決していないのであるが、読者は爽やかな読了感を得ることができる。

同じ著者の本、『チョコレート戦争』の読書感想文はこちらに紹介しています。


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大石真 著
『教室205号』
(1979)


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読書ノート No.35 2009/7/20
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