| 私の読書ノート |
|---|
読書ノートから、お勧めの書籍(文学作品の朗読を含む)をご紹介します。
吉田足日『宿題ひきうけ株式会社』、講談社文庫(昭和52年) 昨日、自分の生まれ育った町へ行く機会があった。通っていた小学校は中学校として使われており、辺りはずいぶんと変わっていたが、神社や、その当時友達だった子の家(商店なのだ)はそのまま残っていた。駄菓子屋は2軒とも無くなっていた(1軒は完全に消滅していたが、もう1軒はシャッターは下りていたが店の名前は確認できた)。驚いたことに、結構な数のアパート(木造2階建て)がそのままの形で残ってた。またマンションもいくつかは当時の面影のままだった。しばらくその場に佇んで遙か昔の思い出に浸ってきた。 さて、今回ご紹介するのは、小学生と小学校を舞台とする物語である。勉強ができる子供が宿題をやって、お客(小学生)からお金をもらうという立派なビジネスモデルである。感心するのは、この会社は宿題をやる係(サービス提供部門)、注文を取ってくる係(営業部門)ときちんとミッションが分かれている。さらにお客の方も自分の分+弟・妹の分で一括で頼むから、ディスカウントしてくれと交渉し、本物のビジネスを見ているようである。 本来ならば自分でやるべき宿題を、金を払って友達にやってもらう。シンプルには文句なしに悪いことである。作者はここに色々な条件を付け、この当時の社会問題を浮き彫りにしようと試みる。人工的な感じがして説教じみてはいるが、この作品が書かれた当初に世の中に存在した「生活格差」が浮き彫りにされて興味深い。 宿題ひきうけ株式会社の顧客は、ズルしてラクをしようと考える生徒ではない。小学生でも新聞配達のアルバイトで助けたり、今から手に職をつけたいとソロバンに打ち込んでみたりと、それぞれの事情で学校の宿題の優先順位を下げている生徒たちが顧客である。彼等が自分たちの置かれた状況を敏感に感じ取って行動する様が活き活きと描かれており、この本の一番の味わい所である。作者はここに工場の組合運動、成績の相対評価が抱える問題点などを重ね合わせ、子供達がこれらの問題をどのように捉えるのかを描き出そうとした。ただしこれはあまり成功しているとは思えなかったが、それは子供たちの感じ方が大人の目線すぎるのである。小学生がここまで深い考察をするのは恐らく無理なので、ここに描かれているのは作者の目線のように思われる。小学生の目線としては、自分の親、きょうだいの言動を素直に捉えて新聞配達をしたりソロバンを習ったりというあたりまでである。 この作品の中には、宇野浩二「春を告げる鳥」という話が出てくる。アイヌ酋長の優しい一人息子の話で、息子を鍛えるために修行させたところ死んでしまった。息子は鳥に生まれ変わり、父親もこれでよかったのだと思った、というのが筋書きである。子供達に感想を求めたところ、様々な意見が出る(実際に授業で行われたことを元に書かれた話である)。様々な意見を経て、過去は野蛮だった、現代はそれよりは進歩していることを皆が認識し、それでは今から未来を考えてみようという流れで締めくくられるのであるが、この部分は物語の後半部分への伏線となっている。物語の後半では、労働組合、合理化、成績評価、試験といったこの当時の社会が抱えている課題が登場する。 社会が抱える問題の一つとして、比較的詳しく語られているのがヤマト電機の労働組合の話である。アキコの兄はソロバンの腕を磨いて就職したが、電算機の導入で職を追われる。同じ頃に自動交換機の導入で電電公社の交換手たちの首切り問題が発生する。いずれも技術の進歩により職を追われたり変わったりする不条理を扱っているのだが、作者はこの問題に対しての結論を出すことはしない。それは、子供たちの心の中にしっかりと根付き、将来必ず良い方法で解決されるであろうとする、作者の希望が込められているように思われる。
|
|
|---|---|
私の読書ノート バックナンバーリストはこちら |
|
| 読書ノート No.34 2009/7/11 | |