| 私の読書ノート |
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読書ノートから、お勧めの書籍(文学作品の朗読を含む)をご紹介します。
ニコラス・G・カー『クラウド化する世界』−ビジネスモデル構築の大転換、翔泳社(2008) クラウドコンピューティングに関する古典的な書物です。いろいろなところで紹介されている本ですので。既に読まれた方もいらっしゃるかもしれません。 ネットワーク社会の現状と未来について 私は、クラウドコンピューティングはWeb 2.0とはまた違った方向の技術革新だと理解していますが、インターネットの世界をより快適に使いやすくする技術であるという点では同じです。今まではスタンドアローンでやっていた様々な処理を全てインターネットを介して別の場所で行うというのが核心です。 実は、このような考え方や技術はかなり昔からありました。Time Sharing System(TSS)と呼ばれていた、ホストコンピューターと端末をつないで、プログラムの処理は全てホストコンピューター側で行うというもので、大学の講義でFortranというプログラム言語の実習を受けたことがありました。ただし、昔は端末の処理能力が低かったので大型のシステムを皆で使うという発想であったのに対し、クラウドコンピューティングの思想はインターネットの使用を前提とした、いつどこでもネットのリソースにアクセスできるようにしようという、便利さから発しているように思われます。まあ、問題は24時間いつでもネットにアクセスできるようになることが幸福につながるかどうかは別の問題なのですが・・・本書では「ブラックベリー孤児」という面白い?例を挙げ、仕事中毒に陥った女性エグゼクティブの例を紹介しています。 スタンドアローンの端末でなんでもやろうとする発想から離れて、ネット上にソフトウェア資源を置いてそれを組み合わせることで新しいモノを創造する、それにより場所やハードウェアの制限から解放されることは素晴らしい発想です。しかもデータもオンライン上に載せておけば盗まれる心配もないし、世界中どこからでもアクセス可能というわけです。このような技術や行動様式はハードウェアの数を減らすので、日本のような国土が狭い国にとっては悪くないでしょうね。アラン・ケイが夢見た「ダイナブック」というのは、クラウドコンピューティングの将来の姿のように私には思えるのです。 技術の面からはとてもスマートで、未来的な雰囲気が漂うクラウドコンピューティングですが、現実的にはいくつもの課題があります。常にインターネットが使えるとは限らない、データセンターが落ちたらどうする(最近、NTTデータセンターの障害でいくつかのブログサービスがダウンしました。データは完全には復旧できなかったようです)、オンラインに載せたデータは盗まれることはないのか(Gmailは怖くて使えないという人もいます)等々、情報の管理や安全で莫とした不安が抜けない限り、重要な情報はやはりスタンドアローンで持っていたいと思ってしまうのです。 技術面だけではなく、クラウドコンピューティングが普及すると人的リソースのかけ方も影響を受けるだろう、と本書は指摘しています。インターネットを利用してビジネスを行っている会社は驚くほど少ない人数でビジネスを回している、と。さらにネットを介して全世界どこからでも情報にアクセスできるようになると、働き手の地理的な住まいも重要でなくなってくるので、知的労働を国境を越えて移転させることが可能になってくるとあります。例えばサポートセンターはインド、データセンターはアイスランド(気温が低いからサーバールームのエアコン代がさほどかからない)、本社は米国と分散させてコストを抑えてながら質の高いサービスを提供する、といった運営形態が取れるようになるでしょう。 クラウドコンピューティングというのも、グローバリゼーションの一部であると考えることができるでしょう。情報技術関連で大きな革新が起きると、上記で挙げたような労働力の世界的な分散のように人々の生活や行き方に非常に大きな影響を与えます。情報技術関連の進歩が人類にとって必ずしも幸せをもたらしているとは限らないこと、そしてそれは今後も課題を残すであろうことがこの本ではきちんと考察されていて、近い未来にさらに進むであろうクラウド化の実態についての良いガイドブックになっているように思います。
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ニコラス・G・カー |
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| 読書ノート No.29 2009/6/05 | |