私の読書ノート:
ロバート・フランク『ザ・ニューリッチ』〜アメリカ新富豪層の知られざる実態

読書ノートから、お勧めの書籍(文学作品の朗読を含む)をご紹介します。
該当作品にはAMAZON書店へリンクを貼りましたので、興味を持たれた方は見てみてください。

先に、小林多喜二『蟹工船・党生活者』の読書感想文をアップロードし、格差社会についてはもう少し考察が必要だ、と述べた。本書は、格差社会を考察する上で示唆に富んだ文献である。

直感的にではあるが、日本と米国を比べたら、米国の方が格差の程度は大きいと思うだろう。医療保険に限っての話であるが、米国では医療保険を持っていない人が5000万人近くいるとされている(注:国民皆保険の日本と異なり、米国では健康保険は民間の商品を購入する)。無保険者の問題は米国でも深刻に受け止められており、今度の大統領選の争点の一つとなった。日本でも、充分な収入が無いために国民健康保険の支払いができなくなっているケースがあると問題視されているが、少なくともこの切り口から見ると米国の方が(収入)格差は日本よりも大きい。

(収入)格差の問題を考えるとき、富が一部の者に集中しているのか否か、そしてその一部の者というのは固定しているのかは非常に重要である。なぜならば、日本で今問題となっている格差は、それが固定されてしまっているという危機感とセットで語られることが多いからだ。一度格差が形成されてしまい、それが固定されてしまうとそこから抜け出すのは非常に難しい。日本の一部の論客は、格差があるのは既に当然であるというところから議論を始めるが、その姿勢には賛成できない。地球温暖化問題と同様、事実をきちんと見るためには慎重な検討が必要である。

米国では貧富の格差が拡大していると言われる。これは、一見貧困層が増えているだけ(そして、一部の富める者たちがますます富んでいる)ように思われるかもしれないが、実際にはこの10年でアメリカの富豪層は倍増している。つまり、「蟹工船」で描かれたような、一部の裕福層が搾取しているという構図は必ずしも当てはまらず、一代にして富豪になる道というのは現実に存在しているのである。著者はこのような新・富豪層を「リッチスタン」と命名し、その実態について克明にレポートしたものが本書である。

この本にはリッチスタンにインタビューして、彼等の生い立ち、ビジネス、生活ぶり、苦悩等の多方面から記述し、彼等の実態を立体的に紹介しようと試みている。いわゆる「お金持ち」の何に興味を抱くかは人それぞれだとは思うが、私は彼等がどのような方法で財を築いたのか、に一番興味をそそられる。本書のまえがき部分にリッチスタンのプロファイルが挙げてあるが、私はこれが一番面白いと思う。

著者によると、リッチスタンには少なくとも次のような3つの階級が存在する。1)ロウアーレベルは企業幹部、医師などが属し、勤勉さが求められる高学歴の専門職で、彼等の資産の半分以上は給与所得で稼いだもの、3分の1が投資利益によるもの。 2)ミドルクラスになると起業家や企業オーナーが増え、一財産築くならば会社を興して売却するのが一番確実らしい 3)アッパークラスでは、自ら興した会社を売却して財を成る場合が多いが、企業経営者や資産運用マネージャーも急速に増えている。

「蟹工船」で労働者の敵として設定された、監督職はおそらくロウアーリッチスタンのプロファイルに所属する。ロウアーリッチスタンが持っているのは「富」ではなくてただの「能力」と”軽蔑”されるらしい。実際のところ、このクラスの人間が何らかの理由で働けなくなった場合には、坂道を転がり落ちるように財を失っていくことがあるらしい。格差社会が話題になったとき必ず出てくるのが年収の話であるが、市場へ労働力を提供して収入を得ているという構図は、ロウアーリッチスタンでも変わらない。彼等の資産の3分の1を占める投資資産は、アメリカ発の金融危機を見てもわかるように、簡単に目減りしてしまうものなのである。

ミドルクラスやアッパークラスになってくると、事情は異なる。彼等は自分で起業する、あるいは企業を運営する力を持っており、その能力で彼等は財を形成した。もちろん景気の影響を受けはするが、彼等の収入源は給与所得ではないため、ロウアークラスほどは影響は受けないように思う。また、ここが最も面白いところではあるのだが、彼等が成功した事業というのが必ずしも世の中でメジャーな商売ではない、ということだ。第3章「ニューリッチへの道」では、ミニチュアハウスを作ってヒットさせ、それで財を築いた人物が紹介されているが、新しく市場を作り出した人物が巨額の財を手にしているのだ。インターネットの普及などで世界がグローバル化しているため、このようなチャンスは日本にも転がっているに違いない。

「蟹工船」の時代に比べ、我々は遙かに複雑な時代に生きている。ボーダーレス、グローバルという言葉に代表されるように、アメリカの金融危機が全世界に派生して深刻な事態をもたらしている。ならばその逆もしかり、重要な産業で大きなブレークスルーが発見され、全世界が一気に活性化することもあり得るのである(そのような大きなブレークスルーは、科学関連産業から出現する可能性が高い、と思われる)。格差社会という言葉を、より広い目で考えるためにも、「蟹工船」を読まれた方には本書も合わせて読まれることををお勧めしたい。

                                                                                                                 
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敬具



ロバート・フランク /
『ザ・ニューリッチ』
(2007)


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読書ノート No.19 2008/11/15
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