私の読書ノート:
尾崎紅葉『金色夜叉』(こんじきやしゃ)

読書ノートから、お勧めの書籍(文学作品の朗読を含む)をご紹介します。
該当作品にはAMAZON書店へリンクを貼りましたので、興味を持たれた方は見てみてください。

明治の文豪が書いた、長編小説です。前編、中編、後編の他に、続・金色夜叉、続続・金色夜叉、新金色夜叉が収められています。かなり分厚い本で、かつ文語体で書かれていますが、漢字にはひらがなが振ってありますので、文語体が完全に読解できなくても意味を摂ることはできます。

いわゆる、恋愛を扱ったものですが、それは成就することはなく、金に恋が負けたという構図になっています。今の時代の感覚から見るとかなり違和感がありますが、明治の時代はこういうのが大衆に人気があったのだなあと思いを巡らせるには良いかもしれません。時代的な背景を理解しておかないと、ジェンダー的にかなり噴飯もの、と感じてしまうと思いますので、この辺は了解された上で読まれることをお勧めいたします。

間貫一こと貫一は、許嫁のお宮を銀行家の息子、富山に取られ、その後の人生が狂ってしまいます。ありがちなパターンとしては、金のために仕方なく金持ちに嫁ぐといった構図(百姓の娘が、親の借金の肩代わりに廓に売られるのと同パターン)がありますが、ここではお宮が富山に対して心が動いている、といった点が異なります。つまり、お宮は富山との縁談を断ろうと思えば断れたにも関わらず、貫一を振ったという構図です。そして、貫一は熱海の海岸で泣きながらお宮を責め、蹴り飛ばし、去っていきます。ここは物語の中で有名なクライマックスで、この場面の銅像が熱海の海岸に設置されています。(銅像と、お宮の松の案内はこちらをご覧下さい) 私は初めてこの銅像を見たときによく分からなくて、後に調べてこの本のことを知りました。貫一がお宮にケリを入れる場面は、物語のかなり前の方に出てきます。

その後、貫一は学校を中退し、高利貸しになります。作品中では高利貸しは一貫して世間から忌み嫌われるものとして描かれており、アイスや美人クリイムといったなかなか洒落た表現が出てきます。※ちなみに、アイスというのは高利貸しの隠語で、高利貸し→氷菓子→アイスの連想、美人クリームというのは女性の高利貸しのことで、アイスクリームからの連想です。 冷静に考えると、女に振られたからといって学校を辞めて高利貸しに転じなくてもよさそうなものなのですが、まあ、要するに貫一はお宮のことを恨みながら闇の商売に入っていくわけです。

その後、お宮と再会するも2人が結ばれることはなく、最後にお宮は自殺してしまい、そこで貫一はやっとお宮を許すという構図です。小説のプロットとしては単純ですが、明治時代にはこういう筋書きを大衆が求めていたのでしょうかねぇ。。この作品は、6年間にわたり読売新聞で連載していたそうです。

ストーリーは単純であり、財目当て(だけでもなかったと思いますが・・)で富山と結婚したお宮は幸せにはならず(寛一のことが忘れられないのと、富山がやさしくしてくれないというダブルパンチ)、寛一もそこそこもてたであろうにもかかわらず、お宮のことが忘れられないことになっています。そしてやっとの思いでお宮は寛一と再会しますが、寛一に対しては命をもってして償う、という構図です。財目当ての結婚を清算するには、命が必要ということなのでしょうか。まあ、気持ちはわからなくもないけれど、改めて明治時代と現代の感覚の違いを意識せざるを得ません。

作品の中には、「男」を強調する表現が結構多いですね。

「やい、貴様のな、心変をしたばかりに間寛一の男一匹はな、失望の極発狂して、大事の一生を誤って了ふのだ」(新潮文庫、平成10年第39刷、76頁より)

まあ、そrだけ深くお宮のことを想っていた、と言えなくはないですが、それでも自分から去っていく女に対してここまで言うかなあ・・・というのが正直なところ。恋愛技巧という点では文句なしに落第点ですが、明治時代にはこういうのが受けたのでしょうね。

コメントがありましたら文学作品を読むblogまでお寄せ下さい。


敬具



尾崎紅葉/
『金色夜叉』
(S44年)

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読書ノート No.16 2008/10/11
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