私の読書ノート:野尻抱介『太陽の簒奪者』

読書ノートから、お勧めの書籍(文学作品の朗読を含む)をご紹介します。
紹介のスタイルとして、読んでくださっている皆さんに手紙を出すという想定で文章を作っています。
該当作品にはAMAZON書店へリンクを貼りましたので、興味を持たれた方は見てみてください。

拝啓、立秋となりましたが全然そんな気がしませんね(^_^;)昨日は本当に久しぶりにクルマを洗ってワックスがけをしたのですが、炎天下に作業したせいか最後の方は本当に辛かったです。

以前から早川書店は読みごたえのある良質のSFを出版していますが、この本もその一つです。ファーストコンタクトという、異星人と地球人との接触を描いたジャンルの小説で、派手さはあまりありませんがプロットがよく練られており、大変面白く読了しました。

物語は、天文部に所属する高校生、亜紀が水星の異変を見つけた時から始まります。水星の周辺に建設されたリング状の巨大建設物により、地球に届く太陽の光が遮られ、人類は存続の危機に見舞われます。人類の存亡を賭け、宇宙船に乗って飛び立った4人の勇者が「リング」の破壊に挑みます。勇者の1人は科学者となった亜紀で、彼女の機転で「リング」の破壊に成功、人類は存続の危機をかろうじて脱します。

調査の結果、表面に建設された巨大プラントは、太陽エネルギーを利用した巨大レーザー・ビーム照射装置で、異星人の光帆船を太陽系内に静止させるものであることが判明します。人類は異星人とコンタクトを取るべく、あらゆる手段を使って呼びかけを続けますが、彼等からの応答はありません。一体何故彼等は応答しようとしないのか、そして人類はどう対処したらよいのか、読み手は様々な疑問を引っ張りながら物語を読み進めることになります。話の展開は丁寧に出来ていて、読み手を飽きさせません。

そして、いよいよ異星人とのファーストコンタクト。人類は彼等を太陽系内から排除すべく、コンタクトが成功しなければ迎撃する意志決定を下します。亜紀をはじめとするコンタクトチームの必至の努力にもかかわらず、異星人の乗った宇宙船に核ミサイルが発射されてしまいます。しかし人類よりも遙かに高い技術力を持った彼等にとって地球人の武器はまるでお話にならず、作戦は次々と失敗。しかしここでもまた亜紀の機転により、遂に彼等とのコンタクトを果たします。彼等の目的は、そして人類の運命はどうなってしまうのか・・・最後まで読者の期待を裏切らない、大変良質のハードSF小説だと思いました。

ファーストコンタクト(人類と異星人との出会い)は普遍的なテーマとして、SF小説の一ジャンルを形成しています。アーサー・C・クラークやカール・セーガンもこれを題材とした小説を発表していますし、友好的なもの、敵対的なものなど数多くのバリエーションがあります。コンタクトの形態は様々であり、メッセージが届くもの(カール・セーガンの『コンタクト』など)、異星人がいきなり訪問してくるもの(アーサー・C・クラークの『宇宙のランデブー』など)、異星人が残した遺跡を発見するもの(アーサー・C・クラークの『2001年宇宙の旅』など)がありますが、この小説は異星人が放ったマシーンが届き、後から異星人がやってくるという設定になっています。どれも可能性としてはあり得るので(私自身はメッセージが届くのが最も確率が高いと思いますが)、どこまでリアリティを出せるかは作家の腕次第ということになります。この本の作者は飛躍した設定をせず、ナノテクや原子力、レーザーのような馴染みのある技術の組み合わせできっちりと話を展開しているのは好感が持てます。また異星人の技術の方が進んでいるという設定ではありますが、人類が対抗できる範囲に収めており、宇宙戦争として臨場感があるよう工夫されているように思いました。

物語を読み進めていく面白さの他に、異星人と人類の意識の差も大変面白いテーマになっているように思いました。個々の意識を持たずに全体として一つの「意識」を共有する、そこには人類との間に埋めがたい差が存在する−これは私たちの意識や感情を考える上で面白い問題を含んでいるように思えます。

実は、本書を読了したのは3年も前のことなのですが、何回も読み返しても楽しめる良質な小説です。

 

敬具



野尻抱介
『太陽の簒奪者』
ハヤカワSFシリーズJコレクション

早川書房(2002)


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読書ノート No.12 2007/8/9
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