Bat observation code 東洋蝙蝠研究所

コウモリ観察コード


 コウモリ観察についての注意事項 (2000/10更新)

1.コウモリを捕獲しての調査には、環境庁の捕獲許可が必要です。

 「捕獲」と言うと大仰に聞こえますが、コウモリを手にとって見ることも特別な許可が必要な捕獲になるのが日本の法律です。海外では更に厳しく、場所によっては網のような道具の携行に許可が必要な国もあります。
 日本でコウモリを捕獲するためには、各県の自然保護課(県により担当課が異なる場合があります。長野県の場合は森林保全課)へ捕獲申請をして許可を受けなければ法律違反となります。また、絶滅の危険性がある種や天然記念物指定されたものや、捕獲にカスミ網を使う場合は国の管轄となりますので、各地の野生生物事務所を通じて環境庁長官の許可を取得する必要があります。
 許可されるまで通常2〜3ケ月(ここ1〜2年は環境庁の事務手続きが渋滞気味で4〜6ヶ月)かかりますので、調査計画に合わせて早くから捕獲申請をしなければ調査に支障が出る事もあります。許可期間は最大で6ケ月です。詳しくは、各県の自然保護課等の担当部署にお問い合わせ下さい。
 このように研究者が姿勢を正した上で、コウモリは小さな生命ですがむやみに捕まえたり殺したりしてはいけない動物だということを知らせていく事が、無知による駆除や捕殺等による減少を少しでも減らせる事になるでしょう。


2.洞窟でのコウモリ観察について

 コウモリにとって洞窟とはどんな場所なのでしょう。それは、人で言えばベッドルームであったり産院だったり保育園だったりするわけです。この点を理解すれば、出産保育の時期に入洞を避けることはコウモリという野生動物、つまり自然を大切にする観察方法の基本であることはわかると思います。それ以外の時期でも、大勢で洞窟に行くというのはそもそもエコツアーとして失格ですし、寝ているところで静かにするのは観察者に求められる配慮です。参加者それぞれが好き勝手にストロボを光らせて、本来真っ暗である洞窟を明るく照らす撮影をしないよう、入洞に先がけて注意事項を説明しておくのは観察会指導者のなすべき事項です。
 また、これまで日本ではコウモリが直接の原因として病気を媒介した事例はありませんが、海外では洞内を漂う100%の湿度によりエアロゾル化した水分に含まれていたウィルスが伝染病の原因になったという例があります。よくコウモリが狂犬病を媒介すると思われているのは、過去にこのような形での感染例が南米などで起きたからです。しかし、むやみに洞窟、特にコウモリがいることが分かっている穴に入るべきではないということが守られた結果、現在ではほとんどありません。近年の統計では狂犬病の媒介はイヌ(多くの飼い犬を含む)が6、7割を占め、コウモリからというのは年間に全世界で3、4例のようです。しかしコウモリ以外の動物や昆虫、堆積物など洞窟内には未解明の物が多く、最悪の場合、そうしたものから種々のウィルス感染等、リスクがあることを参加者が了解した上での観察にする必要があるでしょう。こうした自然と人双方への配慮をした観察会ができるよう、コウモリの研究者によってコウモリ、そして洞窟という言ってみれば特殊な対象や条件での観察会指導をどう進めていくか検討が進められています。コウモリ観察会の指導やエコツアーの企画についてはご相談下さい


3.観察を避けるべき時期

(1)継続観察等の調査をのぞいて、出産期(場所により異なりますが、6月から7月中旬)と冬眠期(11月から3月上旬)の洞窟への入洞はさける。

<理由>
出産期でのディスターブは、早産を引き起こす原因となります。コウモリは親が子を抱きとめれないために、子の一方的なしがみつきで親にくっついています。このため、早産で子の力が弱い状態で生まれますと落下してしまい、たとえ親が回収可能な種でも子がしがみつけないため回収不可能となり死んでしまいます。
また、冬眠期のディスターブは、コウモリを起こし冬眠期に必要なエネルギーを使わせてしまうので、冬眠失敗で死ぬ個体を出してしまいます。実際その年生まれの個体にとっては、冬眠期を越すのが非常にきびしいとの事です(どうしてもこの時期の観察が必要な場合は、3月下旬以降に行うべきでしょう。この時期なら冬眠状態ですが、暖かい日には採餌に出かけていますので余りディスターブは無いと思われます)。
 また、冬眠期はずっと寝ている訳ではなく、周期的に覚醒して、水を飲んだりしています。このため人が洞窟などに入りますと数十分以上かけて覚醒してしまい、本来の覚醒のリズムを乱してしまいます。
 他にも、危険を察知して冬眠場所を変更してしまう事があります。この事が死亡率を高めたり、生息場所の放棄(生息場所の減少)になる事が考えられます。

(2)繁殖期の洞窟内(繁殖洞窟)へは、極力入洞を避ける。やむを得ず入洞する場合は、繁殖期の後半(8月中・下旬)とする。

<理由>
 繁殖期のディスターブは、コウモリにその場所を放棄させてしまう原因となり、徐々にコウモリの生息場所を減らしてしまう原因にもなります。


4.観察方法

(1)観察時には、赤いフィルターを付けたライトを使用して、観察によるディスターブを極力減らすようにする。

赤フィルター減光は夜間の哺乳動物観察一般に言えることです。しかし、減光したライトと言えども休息中の動物に長時間当て続けることや何本ものライトを当てることは気になるようです。グループ観察の際は「夜は暗いものだ」という指導で代表者のみが点灯した明かりを持つなど、野生動物への配慮を教えることも大切でしょう。

(2)洞窟内でコウモリを追い回したり、捕中網を振り回したりしてコウモリを脅かさないようにする。

(3)写真撮影は、冬眠期・繁殖期 *)にはむやみに撮らない、また撮る場合も極端に近づいて行わない。

 *) これ以外の時期においても、人間の接近などに敏感に反応しやすいユビナガコウモリやコキクガシラコウモリについては、撮影をする際には細心の注意を払う必要があります。
さらに特に洞窟内での写真撮影についても、その場所を数年観察してコウモリが人の観察の影響をどの程度受けるかが分かってからのみ撮影をするように心がける事が必要かと思います。コウモリによっては、注意深く観察を続けると結構人慣れするものがあり、かなりの接近やストロボのような瞬間の光ならばそれほどの影響が無い場合があります。

(4)繁殖期の調査が必要な場合の繁殖洞窟内への入洞は、親が夜間出洞してから入り調査や撮影をするようにする。繁殖期前半( 〜8月上旬)の昼間の繁殖洞への入洞は細心の注意が必要であり、この際のライト照射による撮影は厳禁と言ってもいいでしょう。

(5)TV等で洞窟の撮影を放映することがありますが、強光で長時間のビデオ撮影はもちろん厳禁です。大手製作会社が所有する高感度カメラや赤外線カメラなら影響は少なく自然な姿が撮影できるようですが、これらの方法も時期と場所(繁殖地やねぐら)によっては細心の注意を必要とします。

5.コウモリに触れること

 色々な機会に観察を続けていると、簡単に手が届くところにコウモリがいることがあります。生きているコウモリを手に持つ=捕獲するには許可が必要だということは最初に述べましたが、それ以外にも弱っているものや死体を拾うことがあると思います。このような場合は最も注意が必要です。なぜなら、弱る、死んでしまうにはそれ相応の原因があるからです。
 海外では、飼い主の健康に非常に影響のある病気をペットが持っていることすらあり、動物との接し方に対する注意が高く喚起されていることが多いようですが、日本ではペットショップさえもそこで扱われている動物(特に輸入動物、エキゾチックアニマルなど)がどんな病気を保菌している可能性があるかの説明すらしていないのが現状のようです。そのような状況で日本人の動物に対する危機意識の甘さが培われていますが、日本のコウモリは、すべて野生動物です。コウモリに限らず野生動物とはペット以上に「何を持っているかわからないもの」であり、それが弱る、死んでいるという状況には、どんな原因があるか十分注意が必要です。簡単に捕まるはずのない野生動物が捕まえられそうならば、この点を疑い、決して素手で触ろうとはしないことが自身の身を守るために必要な心がけです。


6.その他

なお場所によっては、人の入洞が比較的頻繁にあり、人になれている場所等もあると思います。そのような場所については、もう少し緩い規制で観察等が出来ると思います。しかしこれが分かるまでには数年の観察期間を必要とします。


 *ディスターブ(disturb)=平穏を乱す、不安にさせる。野生動物観察において
                 は自然な行動生態を攪乱させてしまう場合に使います。

 本文中の季節は本州中部地方を目安にしました。

 なお、以上の観察マナーの検討は随時進め、バージョンアップを続けております。
 本文章に対する疑問点や、こんな観察方法はコウモリの生息に対する影響は大丈夫なのかといった質問をどうぞお寄せ下さい。バットウォッチャーの間で話し合い、人とコウモリにより良い方策を探っていきたいと思います。

 このほか、コウモリの会では主にテレビの動物番組の質をモニターしている中であまりにもひどい場合は放送局や番組スポンサーへの抗議や公開質問などをおこなっています。コウモリを取材したい、という場合は予め相談していただけると専門家のいる東洋蝙蝠研究所などからアドバイス、また場所によっては立ち会いを行うことができます。

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