アブラコウモリ 東洋蝙蝠研究所

信州のアブラコウモリ(Pipistrellus abramus


分布 : 東信 ・ 北信 ・ 中信 ・ 南信
アブラコウモリの飛翔
 アブラコウモリは家屋に住むことができるので別名イエコウモリと呼ばれ、市街地で最もよく見かけるコウモリです。大きな町で私たちが家のまわりで見かけるコウモリは、ほとんど本種と言って過言がないほどです。信州では、毎年4月の初旬頃から見かけるようになり、10月ころまで飛んでいるようです。しかし、これだけ数が多いと思われるアブラコウモリも、いったい本当の都市部にはいるのかどうかや、春から秋までの中で厳密にはいつ活動しているのか、また、狭い面積に市街地−郊外地−山麓部−山岳地帯と連続した環境を持つ信州ではその変化に伴って分布が違っているのかといったことも、あまりよくわかっていません。もしも皆さんの身近な場所でコウモリが飛んでいたら、いつどこで何頭くらい飛んでいたかを教えてくれませんか?

 長野県では長野・松本・上田・飯田・大町といった主な町で普通に見られます。ただし、諏訪地域だけは少ないと言われているほか、佐久市では他に比べて少なく、松本平でも松本では多いが塩尻では少なく、春早い時期には三郷村では見るが穂高町では見ないといった違いが出ており、単に町並みが発達したところには分布するであろうという以外に、700m前後のわずかな標高差が関係しているのかもしれません。

 5月中旬の信州では、市街地近くの里山や河原でニセアカシアの花が咲き乱れています。その周辺には甘い香りがただよって、とても気持ちの良い場所です。そんな場所が夜になるとアブラコウモリが集まる場所になっています。昼間明るいうちにニセアカシアの花を観察することができたなら、とても多くの昆虫が集まっているのがわかるでしょう。訪花昆虫の種構成は昼と夜とで大きく異なるでしょうが、夜であってもこの花の魅力にひかれる昆虫は多いようです。そんな昆虫=餌を目当てに集まってくるアブラコウモリは、非常な勢いで超音波を発しているのです。おそらくそれだけ餌の量が多いのでしょう。コウモリ達の饗宴は夜遅くまで続いています。

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1997年にアブラコウモリ目撃記録のあった市町村
松本市    南安曇郡豊科町     東筑摩郡明科町  上伊那郡辰野町  上水内郡豊野町
塩尻市            穂高町             波田町      高遠町      豊田村
上田市            三郷村                         小布施町
飯田市            梓川村                         信州新町
長野市         堀金村
更埴市                              下水内郡野沢温泉村
諏訪市  北安曇郡松川村                         栄村
伊那市
中野市
飯山市
佐久市
小諸市
大町市

 近年、木造家屋の減少に伴ってアブラコウモリが減りつつあるのではないかと言われることがあります。確かに、瓦屋根の隙間や壁と屋根の間など、構造的に木造建築物の方がアブラコウモリにとって利用できる場所が多いのは事実ですが、想像するより適応力が強いようです。鉄筋の建物でも換気口などを利用した都市対応で、市街地での繁栄に結びつけているようです。長野県内のある鉄筋コンクリートの立ち並ぶ県営住宅は、夕方になると飛び出すのが住民には知られていて、その数の多さから、もう20年以上も前から「こうもり団地」という別名を持っているそうです。現在でも夕方になるとたくさんのアブラコウモリを観察することができます。通気口などに住んでいるようですが、コウモリだと言うことが分かっているため、特に不安がられず共存しているようです。たまに部屋に入って来ることもあるそうですが、窓を開ければ外へ飛んでいくということです。

 「家の周りでは見かけないけど、アブラコウモリを見てみたい。」という方には、夕方近くの川や用水路などに行ってみることをお勧めします。川沿いの草むらの上なんていうのは、アブラコウモリを観察するのに絶好の場所です。例えば、松本市では薄川沿いを歩けば必ず見ることができるでしょう。しかも、駐車スペースも充分ありますし、両側に歩道もあるので空を見上げていても安全です。日没後の完全に暗くなるまでの間に散歩がてら行ってみると、コウモリは意外に身近にいるものだとわかるはずです。ここがお勧めのウォッチングポイントである理由はまだあります。西側の市街地に向かってゆるやかなスロープのために開けた夕空をバックに見やすいことや、暗くなってからも高校のグランドを煌々と照らすライトやゴルフ練習場の明かりで姿が見えやすいのです。また、実は小松橋から金華橋の間では、アブラコウモリの他にヤマコウモリや、近頃話題のナゾコエコウモリも見ることができるのです。こんな恵まれた賞蝠地(Bat watching site)はなかなかありません。

 また、松本の中心市街地では、女鳥羽川沿いもアブラコウモリの群舞が見られる良いポイントです。では、何故市街地に多く住めるのか考えてみましょう。アブラコウモリの餌は小さな虫です。そうした虫がどこで発生するかと言うと、実はどこでも出るのですが、とりわけ多いのが川沿い、しかも小さな用水路のような場所なのです。比較的大きな川ではその本流は蕩々とした流れがあり、あまり昆虫の発生場所になりませんが(ただし、岸が広いというのは有利だと考えられます)女鳥羽川のように普段ちろちろとした流れの中を覗いてみると、ボウフラが泳いでいたりします。川の中で柳が生えていたり岸の草が多い浅間から上流の洞付近ではアブラコウモリは飛んでいるもののさほど多くありません。もしかしたら、そうした場所では、他にも微少な昆虫を捕食するものがいる複雑な生態系ができているため、餌の面から魅力に乏しいのかもしれません。これに対して、旭町や清水から下流は市街地が発展しているだけ昼間虫を食べるような野鳥の個体数も少ないですし、水質のせいでしょうか、非常に小さな虫が多く飛んでいます。これはアブラコウモリにとっては餌はあるし競合するものもいないということで、非常に良い条件だと思われます。もしアブラコウモリがいなくなったら、ナワテ付近で女鳥羽川に近づくと虫刺されで仕方がない、とんでもない場所になってしまうかもしれません。しかし今は、虫も出るけどアブラコウモリが食べてくれるという丁度いいバランスがあるようですから、私たちはそれを見させてもらいに行って楽しむとしましょう。橋の上から川面を見ていると、街灯に照らされて夜になっても時々姿を見ることができます。旋回や急降下など、アクロバティックな動きを堪能できます。

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長野県における【AW】の面白さ

・アブラコウモリ分布から見た市街地はどこまで?


・アブラコウモリは山にはいないのでしょうか?


・アブラコウモリはいつごろ目覚めるの?


・アブラコウモリはいつから眠りにつくの?


・ヤマならいるぞ状態とは?



「あぶらむし」とは?

 アブラコウモリの学名(世界統一名称で一旦命名されたら変わらないもの)はPipistrellus abramusと言います。この、「abramus」という種を表す名前は日本語の「あぶらむし」が由来となっています。日本産のこのコウモリを世界に紹介するきっかけとなったのは有名なシーボルトで、当時、北部九州でこのコウモリのことをあぶらむしと呼んでいたためにその名と共にヨーロッパへと運ばれたのだそうです。
 その昔の長野県内ではどのように呼ばれていたのでしょうか。あぶらむしという呼称が出てくるのは、大正8年発行の南佐久郡誌に「ヤマカハホリ、アブラ蟲、キクガシラ、ウサギカハホリ等の種類」という記述があるのを見たことがあります。江戸時代には日本の広い地方であぶらむしと呼ばれていたそうですが、遅くとも大正の信州でもそう呼ばれていたようですね。

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