信州のヤマコウモリ 東洋蝙蝠研究所

信州のヤマコウモリ(Nyctalus aviator


分布 : 東信 ・ 北信 ・ 中信 ・ 南信
環境庁(1998)レッドデータブックランク : 絶滅危惧II類(Vulnerable)
長野県(2004)長野県版レッドデータブックランク : 絶滅危惧III類(VU)

ヤマコウモリについて

 ヤマコウモリは日本の食虫性コウモリの中でも最も大きな グループに入ります。翼を広げると40cm近くになり、人の 近くを飛ぶと羽ばたく音が聞こえさえするほどです。近年、 日本国内での観察報告が減少しており、だんだん分布域が せまくなっていると言われています。現在、本州中部以北 と言われる分布境界線が長野県を通り越してしまわないよ うに願いたいものです。
 そこで、どんな場所で暮らしてい るかを知ることが大切になるのですが、ヤマコウモリは樹 洞棲コウモリと言われ、大木の「うろ」などを住処にして います。しかし徐々にうろのできるような大木が減ってい るため、とても限られた場所にしかすむことが出来ません。 コウモリは飛べるとはいえ、このような樹洞ができる程の 大木が生えている間隔を密にして、ヤマコウモリの飛べる 距離でネットワークを結ぶことが必要なのではないでしょ うか。
 うろができるほどの木が育つのには何十年〜百年以 上を必要とします。今ある大木をなんとか残し、加えて急 いで木を植え育てることをしなくてはいけないのと考えています。




鳥に追われるコウモリ
 前述したように、ヤマコウモリは木の洞(「樹洞」と言いますが、信州のある地方では 「うとんぽ」と呼ぶ方言があるそうです)に住んでいます。しかし、樹洞ができるうよ うな大きな樹が少なくなった昨今では、樹洞をめぐって生き物同士の競争も熾烈になっ てきました。樹洞を使うものにどんな生き物がいるか考えてみて下さい。大きな樹洞に はフクロウやムササビが入ります。小さな樹洞にはカラの仲間などの小鳥が巣を作りま す。小さなコウモリも使います。ヤマコウモリはやや大きめの木に住んでいることが多 く、そういった木では樹洞の大きさによっては夏になるとアオバズクがやってきたりも します。
 鳥は樹洞の底の部分を巣に使います。入り口から上に向かって続いているよう な穴には巣を作れないので、コウモリにとっては好都合です。では、入り口の部分は鳥 も使うことができ、空洞が上に続いているような場所ではどうでしょうか。そんな時、 鳥が来なければコウモリにとっては幸運です。
 もしも入り口に鳥が営巣して陣取ってしまうと、コウモリは逃げ出して行ってしまう ようです。1996年まで松本市内で確認された最大級のヤマコウモリのねぐらだった樹洞 が、1997年、たった1つがいのムクドリに入り口をふさがれてヤマコウモリの姿が消え てしまいました。このような例が数年前に豊科町でもあったそうです。
ヤマコウモリの出巣
 これまでの調査によって松本平南部のヤマコウモリは総個体数が500頭以下ではないか と推測されています。繁殖のための集団を作るヤマコウモリのねぐらが1つでも失われ るというのは地域全体の種の維持にとって大きなダメージがあると考えられます。特に このコロニーはサイズが大きく最も重要なねぐらであったため、松本市部におけるヤマ コウモリ個体群の存続に大きな問題でした。また、それだけにとどまらないのは、単に 哺乳類と鳥類ではありますが野生動物の間の競争という自然界で通常起こりうることと 割り切れないからです。ヤマコウモリが利用する樹洞といった、生息に適当な環境が減 少していることや、ムクドリが松本平の鳥類相の中でも近年非常に増加が見られる種で あることから、松本市周辺の環境が徐々にムクドリ向きにシフトしていることを示すの か、或いは何らかのバランスの乱れがある可能性も考えられます。従来の松本市周辺の 生物相を維持し、その生態系を構成する野生生物種の多様性を守り続けることを是とす るならば、これら(具体的にはムクドリの繁殖の抑制や市域からの分散)を含めて繁殖 環境の容量や積極的なマネジメントをおこなうことも必要であると考えます。これらに 対する初期の研究テーマとして、

 の3本をまず計画しています。ヤマコウモリの危機は現在進行中で ありますが、こうした自然環境の評価には今後とても長い時間が必要となると思われま す。しかし、他のコウモリ同様これまで調べられていなかった分だけ急ぐ必要性を感じています。

ヤマコウモリの声
時々、「コウモリの声が聞こえる」という耳の良い方がいます。ヤマ コウモリは 夕暮れ時になると巣穴から出る前にさかんに話をしてい るようで、その声が樹洞から漏れ出ているのを聞くことが出来ます。 また、コウモリと言えば超音波、なわけですが、ヤマコウモリの発す る超音波の周波数は12KHZ〜25KHZが最も強く、その前後の周波数の 超音波も出すので、普通の人の耳に聞こえる限界と言われる16KHZよ りも高いものの、コウモリの中では低い方であるために、人によって は飛んでいるときに出す超音波〜クルージ ングパルス〜が聞こえるこ ともあるようです。

ヤマコウモリの歌
たった一度だけしかない経験なのですが、ねぐらの前で出巣を待っていた 時のことです。抑揚とリズムのあるタタン、タタンという音が、バットディテ クターから聞こえてきました。ちょうど、アカハラという鳥のさえずりに似た 音です。しかし、付近にアカハラはいない上、BDのスイッチを消すと聞こえ なくなる、つまり元は超音波だったようなのです。FM型超音波を出すコウモ リには、その上端と下端でCF型に似た音が出ると言われていますが、周波数 はヤマコウモリが通常使う範囲の20KHZでした。その日何度か聞こえただけで すが、想像以上に色々な声、それも人間の耳に聞こえる可聴音と超音波のいず れもを使いながらコミュニケーションをとっているようです。はたしてこれは 何を話し合っていたのか、季節には無関係の声なのか、聞こえない音さえ聞き 逃せないバットウォッチングの面白さです。


BD変換音
ヤマコウモリBD音
飛行時の超音波をバットディテクターで可聴音にヘテロダイン変換した音です。
おでかけの声
樹洞の中から飛び出す直前に低い周波数の超音波を出しました。この声はあるねぐら 1ヶ所でしか聞けないので、方言のようなものがあるのかもしれません。
 以上は20KHZでの超音波を変換・録音したものです。
超音波については信州のコウモリのページにある文章も参考にして下さい。

松本平ヤマコウモリカウント


'96シーズンの結果

1996年までの調査によって、複数の松本市内を始めとしたヤマコウモリ生息地 が明らかになっています。これらのほとんどは繁殖地と考えられるためweb上 で詳細な情報を公開することはできませんが、松本地域における実態把握の ために、繁殖後期である7〜9月のカウントでモニタリングを続ける必要が あると考えています。この協力者を募りますので、興味を持たれた方はご連絡 下さい。

'97 season result


県内最大と思われるコロニーの月別変化(東信地方)


 このコロニーは、今のところ6〜7月の出産期におけるカウント数では最も 個体数の多いものです。成獣の活動が安定し、ほとんどすべての個体が毎日 採餌に出るようになり、親の個体数が約300頭と推定され、当歳の幼獣が飛ぶ ようになった8月には1.5倍の450頭に増加しました。年一産で産仔数は一頭と 言われているヤマコウモリの半数が出産した成獣と単純には推測されます。
 このようなコロニーサイズと出産率の把握を続けることが、地域の個体群 を監視する唯一の方法であると思われます。

ムクドリに乗っ取られたコロニーの回復(中信地方)

 体の大きなヤマコウモリの、しかも規模の大きいコロニーでも鳥には かなわないようです。今年は出産・育児期にこのような状況であったため、 ヤマコウモリの姿が一時全く見られないという状況にもなっていました。 しかしムクドリが巣立った後、徐々に戻り始めました。しかし、例年50頭 ほどの規模でありましたがこのレベルまでには回復が見られませんでした。 繁殖にとって大きな影響があったことも考えられます。

ラジオテレメトリーによるヤマコウモリの行動圏調査


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