福の住む家 東洋蝙蝠研究所

 コウモリがすみついた。どうしよう?


 蝙蝠の蝠は幸福の福につながる、ということでコウモリは昔から「福を呼ぶ生き物」として親しまれ、家に住むことが歓迎されてきたのですが、最近は嫌う人もいるようです。
 このホームページを見た方からも「コウモリが住み着いたのでどうすればいいですか?」といった質問が時々やってきます。そんな質問に今のところお答えできるものをまとめましたので参考にして下さい。

コウモリは法律で保護されている野生動物

 他のページにも書きましたが、日本に棲息するコウモリ類はすべてが鳥獣保護法の対象で、許可無く捕まえたり殺したり飼ったりすることができません。手でつかむことにすら捕獲許可が必要です。
 まず住み着いたコウモリの種類が何であるかを調べます。都市部で人家に住み着くことが多いコウモリはアブラコウモリですが、日本に住んでいるコウモリの内、建物を利用した例がある種類は長野県に生息している種だけでもクビワコウモリキクガシラコウモリヒメホオヒゲコウモリウサギコウモリなど数種にのぼります。従って、場所によってはアブラコウモリ以外のコウモリである可能性がありますし、その中には世界的に珍しい種類である場合もあり、慎重な対応が必要です。
 移住を促す工作をしたい場合は、とりあえず都道府県の鳥獣保護を担当する部署(長野県で言えば森林保全課)に連絡してみて下さい。法的に何をして良いのか、何は許可なくしていけないのかを教えてくれることでしょう。

コウモリの害とは?

 日本ではコウモリから人間に感染する伝染病というのは過去にありません。相談で最も多いのは天井裏でごそごそしてうるさい、糞を落としていく、といったものです。糞から病原菌が出たという例も聞いたことがありません。もしもそういった例があるという話を耳にしましたら、とても関心がありますのでぜひお教え下さい。このように日本ではコウモリが生きていること自体が何かの健康被害に直接関係してはいません。ただし、海外では狂犬病など人畜共通伝染病もありますので、コウモリを含めたすべての野生動物(時には家畜やペットがそのような伝染病を保菌していることもあり、むしろ人との接触という点ではこちらの方が大問題です)に対して日本のようにはいかないことを忘れず、「野生動物にはやたら触らない」というのは基本だと認識して下さい。
 さて、では「コウモリの害」とは何でしょう?それは「気持ち悪い」、「うるさい」といった多分に人間の感情的な害です。このような虫が嫌い、ヘビが嫌い、犬が嫌い、猫が嫌いといったことに対しては申し訳ありませんが私ではお力になれませんので、精神科のお医者さんの扉をたたいてみることをお勧めします。では、嫌いだからと言って法的に保護された生き物を殺して良いでしょうか。そんなこともありません。隣の女の子の下手なピアノがうるさいから、学校帰りに捕まえて殺しちゃえ、車に押し込んでどこかに捨ててこよう、そんなことは絶対に許されないですね。
 逆に、コウモリがその地域に住んでいることによるメリットは虫を食べてくれることに付随して不快害虫が減るだとか農業に有益だとか結果的に農薬使用量が抑制されるだとか、非常に大きいと思います。信州安曇野は農薬の空中濃度が高いという助言を受けたことがありますが(出典不明につきこちらでは未確認)、化学物質が蔓延した環境より、健全な生態系が維持されている方が気持ちがいい気がするのも自然な欲求ですし、本ページ作成者としてはこのように役だってくれているコウモリを好きになってくれることをお願いしたいと思います。コウモリというのは夜間に空を飛ぶ昆虫類をコントロールできるほとんど唯一の動物として役立っています。日本には昼間に田畑の上を飛んで虫を食べてくれるツバメを大事にした伝統があるように、見えない、見にくいというだけでその役割に気づかれていませんが、本当は大事にすべき動物なのです。そうしてツバメやコウモリと一緒に住んできた日本の家屋、それでいてネズミなどと違って病気を運んだわけではなかったために、長い間自然と人とが共存できた歴史があるのに、この頃はどうしたことなのでしょう。

どうしても追い出したい

 最初にも書いたように、コウモリを捕まえるには特別の許可が必要なので、捕まえて外に捨てるといったことはできません。ですので、コウモリに自主的に出ていってもらうのを待つ、あるいは仕向けることが我々ができうる最大の対策です。夜間に活動するコウモリが「住み着いている」という状態は、昼間の休息のために使っているということですので、静かで暗く落ち着いた空間を壊すことです。具体的には住み着いている場所にライトをあてて明るくする、天井に通風口を設ける、頻繁にのぞき込んでみるといったことが費用を掛けずにできることでしょう。出ていったようであればその後、出口と思われる隙間を修理したり、小さければ釘を打って布を詰めたり、ガムテープで目止めを行って入れなくすることです。

 追い出すためにまず行うべき事は、住んでいる場所と出入り口の特定です。住んでいる場所はその家の住民の方が最もよくご存じでしょう。一時的な対策ならば、コウモリの住環境破壊のためには住み着いている場所に延長コードをひいてきて電気スタンドや扇風機を取り付けてみたり、トランジスタラジオのスイッチを入れて置いておくことを試して下さい。出入り口は夕方に建物の周りで見ていれば飛び出すことで分かる場合が多いはずです。また、壁の引っ掻き傷でもないかや家の周りに糞が落ちていないかなどで予め昼間の内に候補地を探しておくことができます。

 住み場所・出入り口が分かったとして、出口を塞ぐのはまだ飛べない幼獣がいる時期(本州中部で6月〜8月)や活動が活発でない冬眠前後の時期に行うべきではないでしょう。閉じこめてしまうと殺してしまうことになりかねず、結果的にその死体が臭気や衛生害虫の発生源になる恐れがあります。むしろ生きて出入りさせ、すべての個体が飛べるようになって出ていってもらう方が良いのはこの理由からです。

 出産・育児期や冬眠前後を避けて、出入り口に出ることができるが入れない構造を作る事が、コウモリを殺すことなくお引き取り願える自然との共存策です。安価容易に入手できる材料として、網戸に使われる網を利用できます。特定した出巣場所の上に網をテープ等で固定して上から垂らすと、出ることはできても入れない一方通行にすることが可能です。予め何日間か住み着いているコウモリの数を夕方出てくる数を数えることで調べておき、実行日にはすべてが飛び出すのを確認してから工作に取りかかります。建物の構造等によってどのような工作が必要かは個別にご相談に応じたいと思います。

 コウモリがいることに気付くのは、出口がわからない幼獣が歩き回ったり耳に聞こえる声で鳴いた場合が多いのですが、出口さえ分かりやすければ飛べるようにさえなっていれば自主的に脱出する事が多いはずです。また、追い出そうとした時に、コウモリから人に噛みついてくることは(日本のコウモリでは)ありませんが、手で捕まえようとするとさすがに噛むことがありますので捕まえようとはしないで下さい。これまでに日本でコウモリから病気がうつった例が無いと言え、万が一の新種の病気ということもありますので、違法な捕獲(手づかみ)をする人が病気になってもフォローし切れません。

コウモリが戻ってくる
 これはとてもありがちなことです。それだけ住み良い場所だったのでしょう。こうした例がままあることや、コウモリが家の中に入ってこられるのがいやだとしても、家の周りに住んでいることはむしろ歓迎すべきことですので、家の隙間は埋めてしまう代わりに庭や家の外壁にバットボックスを取り付けて、そちらへ移住してもらうことをお勧めします。
 そもそも、「コウモリが住み着いた」というのは、コウモリが好む家を設計して建てたことから始まったことで、コウモリが悪いわけではありません。住処を提供しておいて、ある日突然出て行けというのは自然や野生生物に対してちょっと一方的な気がしませんか?自然との共生という観点から、追い出すなら代わり(代償的措置)を考えて欲しいものです。
 また、コウモリが住み着くのがいやな発注者に、入れる隙間だらけの家を造ってしまった建築会社に対しては、隙間を埋める等の対策はクレームで処理してくれるよう言ってみてはどうでしょうか。どこから入ってくるのかわからないが、コウモリが入ってくるというのは、もしかしたら余程の隙間がある可能性があります。欠陥住宅のテレビ番組を見ていると「5mmの隙間があった!!」なんてやっていますが、5mm程度ではコウモリは入って来れないので、もっとすごい隙間を見つけてしまうことになるかもしれません。しかし大事故や地震の二次災害が起きる前に家の不備を見つけるきっかけになるとしたら、修繕費はかかるとしても未然に防ぐことができ、結果的にコウモリが福を呼んだということにもなります。生き物が表すシグナルをどう受け止めるか、活用するもドブに捨てるも人の考え方次第という側面があるのです。
 Q&Aのページに用意した「コウモリ問診票」で寄せられる結果から、1980年代〜90年代前半に建てられた家にコウモリが新しく住み着いたという回答が多い傾向があります。バブル期の短工期安価な家に隙間が多く入りやすい、その上新建材の開発が進み温湿度をコウモリが好む環境に維持しやすいという2つの条件が揃った時期なのではないかとも思います。住みやすい家が用意され、住んでしまったがために殺されるというのは不本意であり、そうであれば建築関係者と意見を交えて最初からコウモリが住まない、好まない家を研究し、希望する方に情報提供していきたいものです。従来ボランティアとしてアドバイスをしてきたところであまり発展性がなかったことから無料相談の限界を感じ新しく設立した、(特)東洋蝙蝠研究所の活動の一つには、このような基礎研究の受け皿として営利でもなく実費程度で活動が可能になるよう、行政や会社法人とのパートナーシップを模索して行きたいと思います。

他の方法について

・超音波発生器
 コウモリと言えば超音波ですが、効果があるという報告例は極めて少ないのが現実です。ホームセンターではラットリペラー等の商品名のネズミ撃退機や超音波蚊よけといったものが売られています。これの超音波を聴いてみると、確かに色々な周波数で激烈な音を出しているものが多いようですが、屋外で実験しても飛んでいるアブラコウモリが逃げていったという観察例を得ることはできませんでした。アメリカでは信頼できるコウモリの専門家によって効果がないと判定されているそうです。人体への影響についてもよく分かっていない上、逆にコウモリを呼び寄せる可能性もあると言われていますが定かではありませんので、実験されてみた方はぜひ結果をお知らせ下さい。商品が色々ある上、有名なメーカー製のものがありませんので、効果を調べていない機種が多いと思います。もしも効果があるものが存在するならば、詳細に調べてみたいと考えています。

・薬品
 くみ取り式の便所には昆虫の忌避剤として花形をした樟脳がぶら下げられています。しかしこれは殺すまでの効果はないようで、まわりでもハエが飛んでいますね。効果が薄い割に結構減っていくので頻繁に交換する必要があります。
 これは、例え衛生害虫が対象であっても吊しておくだけで周りの生き物を殺してしまうような物質を使用してはいけないということを示していると思えば納得できるでしょうか。
 この樟脳は昆虫用ですし、哺乳類であるコウモリに作用する忌避薬品があるとは聞いたことがありません。もし効果的な薬品があったとしても、便所の樟脳とハエに見られる現実のように効果の薄いものを頻繁に取り替えながら使用する必要があるでしょうし、殺せるほど効果の強いものを壁や天井裏に使用するということは我々人間もまた哺乳類であることを思い出さねばならないでしょう。そのような効力のある薬品を環境中に放出することが日本で適法であるかどうかは毒物劇物取締法などを調べる必要があると思います。おそらく不可能だとは思います。
 長野県では1996年から1997年にかけて原因が解明され尽くしていない野鳥の大量死がおこりました。原因の一つにサリンと同類の有機リン系農薬が非常に高濃度で屋外に散布或いは放置されたものを食べたことが特定されています。この時はたまたま被害を受けたのは野鳥でしたが、もしも事情を知らない人や注意書きを読めない子供が触る、通りがかりにふりかかる、口にするなどしたら、とんでもないことになる恐れがあるので、目的外への薬物の乱用は制限してもらいたいとも考えています。つまり、薬害とコウモリの糞害とどちらが人体の健康を損なうかという判断から、化学的な駆除を試そうとしないことをお願いしたいと思います。

これ以上の対策を求めるならば
 やはり、専門的な知識や道具、資格を揃えた人に相談する必要があるでしょう。このようなコウモリ相談に対して対策方法を検討し、要請に基づいて人を派遣している実績を持つのは国内には東洋蝙蝠研究所くらいしか知りません。ただし、営利企業でないにしても専門家の出動を要請するには、それなりに費用がかかるのは仕方ありません。中には非合法な手段で「駆除」している害虫駆除・衛生会社があるそうですが、おそらくコウモリという動物に対して十分な知識がないため、コウモリにとっても、家にとっても、住んでいる人にとってもどういう影響があるかわからず、その実態を調べることは私たちにとっても急務であると考えています。シロアリ(シロアリは虫の仲間で哺乳類であるコウモリとは体の構造が決定的に違いますから、手法はまったく違うはずです)業者に頼んだら、天井裏じゅう例の毒物カレー事件で有名になった亜ヒ酸まみれにされた、なんてことにされるのもイヤですよね。また、最も新しい害虫駆除業界の話題は、アメリカで人間の健康被害が確認されて使用禁止になった薬物が、実は日本ではまだ認可を取り消されておらず、一部の先進的業者が自主的に使用を取りやめ始めた段階であるとのことです。こうした社会情勢も、私たちと同じ哺乳類であるコウモリを駆除・排除するより理解し、共存を考える方が得策だと思う理由でもあります。


ところで、傷ついたコウモリを見つけたら
 コウモリに限らず、健康な動物は簡単に捕まりません。地面等に落ちているということは何らかの異常な事態と考えた方がいいと思います。
 これが、天敵による外傷によるものか、病気や寄生虫によるものか、老齢によるものか、若いコウモリで飛翔の失敗などによるものかは検査しなければ分かりません。直接手で拾ったりすると、弱っていてもかまれたりするおそれがあります。日本ではコウモリから人に病気が伝染したという例はありませんが、海外では例えば狂犬病のような恐ろしい病気はありとあらゆる野生動物をはじめとして(当然コウモリも持っている場合があります)、飼い犬や猫のようなペットですらウィルスを持っていておかしくありません。ひっかかれたり噛まれることで感染といった例があるようです。
 このようなことの無いように、ゴム手袋か軍手等で触り、直接落ちているコウモリにふれないようにしてください。

信州のコウモリに戻る