Bat house

バットボックスとバットハウス


 近年減少が著しいと言われているのは、樹洞棲のコウモリです。岩のすきま や洞穴は大規模な工事やダム開発による水没がなければ地形が変わることは 稀です。また、廃坑や古いトンネルなどでコウモリが発見されることもあり ますので、洞穴棲のコウモリには人造物への適応力が高い種も多いようです。
 しかし、樹洞棲のコウモリが住むのは太い木、それも曲がったり折れたり しているような、内部にできた「うろ」への進入路がある木に限られるので す。しかも、良い空洞があっても鳥が入り込めるようなものでもいけません。 フクロウが入れるようではコウモリを食べてしまいます。ヤマコウモリが住 んでいた樹洞に、ある年ムクドリが巣を作ったらヤマコウモリはいなくなって しまったという話もあります。そんな色々な良い条件が重なっていなくちゃ いけない大木そのものを、だんだん見かけなくなってしまっています。
 このような状況から、樹洞棲コウモリが住んでいた大木のうろの代わりに なるようなものを設置して、すみかがなくなることを防ごうというよびかけ をしています。これがバットボックスバットハウスを作ろ うというものです。バットハウスは「コウモリ用の巣箱」と表現することも ありますが、巣を作る場所としてだけでなく、休息するためのねぐらとして 提供する意味もありますので、ここではバットハウスと呼ぶことにします。
 アメリカやヨーロッパのコウモリ観察の入門書やホームページを見ると、 バットボックスについて書かれたものをしばしば見ます。コウモリが虫を 食べることは、病気を媒介する蚊や森林に被害を及ぼす蛾の大発生を抑制 する捕食者としての位置づけが理解されているため、積極的にコウモリとの 共存を図っているようです。また、ヨーロッパでは教会や図書館などの公 共的な建物のてっぺんにバットハウスを取り付けたり、天井裏の構造その ものとしてコウモリが入り込めるような設計にすることも行われているそ うです。生態系の中でコウモリという野生動物の位置するものがまだあま り理解されていない日本では、このように自然と共存する建築設計という 工学的な発想はまだ見られません。まずは、私たちナチュラリストが手作 りでできる小さなバットボックスの実験からやらないことには何も始まら ないようです。

小型バットボックス

撮影のため底を外してあります
目的のコウモリに合わせて中仕切りを設置します
まだ樹洞ができない太さの木に設置しました
樹洞を模したタイプもあります
幹の中をくりぬいて作ってあります
太い間伐材の幹を使って作りました
奈良教育大こうもりのページバットハウスの作り方はここにわかりやすい説明があります。

バットハウス(コウモリ小屋)
乗鞍高原に完成したコウモリ小屋(クリックで大きな画像が出ます)
愛称:乗鞍高原バットハウス

 このコウモリ小屋は、森林伐採が進んだことで住処である樹洞を追われた クビワコウモリがついに乗鞍高原の家屋に進出したのが近年発見されたが、 そこも人間の住まいであるためコウモリのために維持することが必ずしも できないという事情から、コウモリだけのために代償的な生息環境を提供 していくことが必要であるという主旨に民間財団の助成金が支出されてようやく 完成したものです。
 木造2階建て、約50平方メートルの建築物として、中部山岳国立公園 の調和色にデザインされました。約10メートルの高さはこれまで見られた 繁殖地の出巣位置を考慮して作られました。
あらゆるところに入り口がある
2階部分に主なコウモリの利用を見込んで、樹洞を想定した内外壁間の空間 を15cmずつ四方にとり、外壁の高中2つの高さの入り口を初め、屋根のす きま、壁の間などいたるところに入り口を設けました。
バットハウス内側の天井の構造
 壁と屋根の間にもコウモリの出入り口を設け、内部の天井にもコウモリが つかまることのできるスリットを配置しました。乗鞍高原が多種が生息する 豊かなコウモリ相を持っているため色々な種がそれぞれ好む環境を利用でき るために、また実際にクビワコウモリの好む環境がまだわかっていないこと や、今後のバットハウス建築への基礎的研究のため、天井のスリットは屋根 方向に対して縦・横・無しの3区画を設定しました。
 バットハウスそのものの構造の他に、壁面外側には大型のバットボッ クスを取り付けました。このようにあらゆる可能性に挑戦しています。
98年には外側に小型バットボックスを追加しました

予め採集しておいた糞の溶液を塗り込む作業
 上の写真で塗っているのが壁掛け式大型バットボックスです。作業をしているのは 松本市在住の大学生です。ミチゲーションに興味を持つ学生の実践の場として 活用しています。

バットハウスから飛び出すコウモリ
 このコウモリ小屋「乗鞍高原バットハウス」は、コウモリが入るまで何年かかる だろうかと比較的長期の見方をされていましたが、なんと最初のシーズンから クビワコウモリ他が利用していることが確認されました。果たして、コウモリの 住宅事情がそれ程までに悪いのか、このバットハウスの設計が良かったのか、 今後の研究テーマもふくらんできました。

入居までの経過と今後について

コウモリタワー


 愛知県岩倉市には、自然生態園と銘打った場所に「コウモリタワー」なるやぐらに 乗った箱が作られていました。しかし、その形状はまるでアメリカの本に出てくる ようなもので、付近に生息する日本のコウモリのねぐら環境とその構造はとても合って いるとは思えないものでした。コウモリの利用はやはり確認されていないようです。 ここから私たちは、野生生物の生活場所というものを安易に作ろうと思っても自然を 知らずに簡単にできるものではないことや、全世界に画一的なものが適用できるのではなく、 身近な自然には最適なものがそれぞれにあるという環境の多様性の大切さを学ぶことが出来ると言えます。

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