大銀醸 「星の寒梅」
 GALAXY EXPRESS 999
 
 
     
「花と少年〜人はロジックでは動かない〜」
 

 


 
--+-----+-----+-----+-----+-----+-----+-----+--
 

すこしだけ昔の話。


ある少年が、美しい花をみつけた。

なんてことはない、道端に咲く花だ。誰のものでもない。可憐な道端の花。

少年は、毎朝仕事に向かう道すがら、その花を眺めることに小さな幸せを感じていた。


晴天続きで、少し元気を無くしている花を見たならば

仕事帰りにペットボトルの水を少しだけかけてやり

激しい雨に打たれている花を見たならば

古い傘を立てかけてやったり


少年は、その花が、その花らしく咲き誇る姿に魅せられていた。

その花は、今まで見た花とは全く違って

少年の心を惹きつけた。

もしかしたら、とても貴重な花かもしれない。



もちろん、その花を自分の部屋に持って帰ることも、あるいは学会に発表してその

価値を世の中に知らしめることもできただろうけれど。


花は、花として生きるのが一番の幸せだと、少年は思った。



それからも少年は、道すがらその花を日照りから守ってやり、嵐の日には傍につい

て、傘をさてやったりして過ごしてきた。



そして、とある朝


その花は無くなっていた。

しかし、毟り取られていたわけではなく

根元の土から丁寧に掘り起こされていたから、きっと大切にされているだろう。



少年は、しばらく立ち止まり

そして、空を見上げて

小さなため息をついた



少年はやがて、成長し、その国では有能で名をはせる技術者になった。

その国が日照り続きで、農作物に危機が迫れば、川の流れを変えてまでもそれを

助け、嵐が迫れば最も効果的にそれをやり過ごす方法を提案して、その国の安定

に寄与してきた。



国は栄え、やがて青年は老人となった。

多くの名声を得てなお、心に残っていたのは、あの花の行く末だった。



さて、あの花は今ごろどうしているだろう?

実を結び、再びあの美しい姿で誰かを魅了しているのだろうか。



花よ 花よ 野辺に咲く花よ

大地の懐にいだかれて

静かに咲く野の花よ

ただ、自由に生きればいい


大輪の花にいっぱいの太陽の光を受けた

その姿に魅せられる人がいることを

嵐の日にそれでも咲き続ける

その姿に勇気づけられる人がいることを


知らずに咲くその花よ

ただ、あるようにあれ。



ある日、老人に一通の手紙が届いた。

その国の王が、老人の今までの功績を称えたいので王宮に招きたいという主旨の

内容だった。


早速老人は正装して、王宮へと向かった。



大広間での王様との会見は、とても和やかで、王の優しさと気遣いが感じられて

宴は粛々と進められた。

そして、その宴の最後に王は老人に、見てもらいたいものがあるのだと、話を切

り出した。



それは、あの花だった。

忘れもしない、あの時の美しさを微塵も失っていない、あの花だった。



王は言った

この花の魅力はどんな花にも勝る。しかし、この花を育てることはとても難しく

ちょっとしたことで枯れてしまう。この花が見つかったときも、奇跡的に誰かが

世話をしていたらしい。すぐにその花を保護して、種を集め、大切に育て、何世

代も繰り返し守ってきた。

それが今こうして大輪の花を咲かせている。


この花を守り、この国の産業にして、諸外国へ輸出したらどうだろうか、と。



しかし老人の耳にはその声は届いてはいなかった。

あの花を私から奪ったのは、王様、あなただったのですね。



もちろん正確に言えば、あの花は誰のものでもない。

私のものでもない。

でも、あなたのものでもないのです。



だから老人は言った。

この花は誰のものでもありません。

どうしたらいいかは、この花にきいてください、と。



それを聞いた王様は、こう言った。

では、花に聞こう

お前は、守られてこの国で栄えたいか、それとも自由な野に帰りたいか。



すると花は答えました。

誰かに守られて生き延びたとしてもそれは一時のこと、刹那にすぎません。

私はあるがままに生きるだけです。

そして、できることなら、一度でいいから太陽の光を身体いっぱいに浴び

てみたい。



王様は、それを聞くと、しばし黙って

そして、その花を老人に渡しました。

そなたの思うようにするがいい。という言葉を残して。



老人は、その花を持って王宮をあとにすると、ある道端で歩みを止めた。

ここで、君と出会ったんだ。

花は、小首をかしげて聞いてきた

あなたは今日はじめて私と会ったのに、不思議なことを言うのね。でも、

ここはなんだか懐かしい感じがするわ。



老人は、道端の土を掘り、丁寧に花を植えてやった。

あるようにあるのが一番だと、私は思うよ。


すると花も笑顔で、そうかもね、と答えた。



老人は思った。

やっと、止まっていた時間が動き出した。

その背中を、美しく咲く花が見送っていた。


--------


それから千年の後


あの道端の周りにも多くのビルが立ち並び、自動車は行き交い、交差点で

は人々が思い思いに信号待ちの時間を過ごしている。

そんな中で、母親と一緒にいた子供が、道端の花を見つけて言った。

おかあさん、このお花とてもきれい。おうちにもってかえってもいい?

すると、母親は、子供の頭をなでながらこう言った。

お花はね、太陽の光をあびて嬉しそうでしょう。その幸せは、だれも邪魔

しちゃいけないのよ。

すると子供は大きく、笑顔でうなずいた。


ばいばーい、おはなさん。すてきなおはなさんに会えてうれしかったよー


花は気持ちよさそうに、風になびいて、その子を見送ったのでした。



(おわり)


 

 
 

 

 --+-----+-----+-----+-----+-----+-----+-----+--

 
 
Exit