大銀醸 「星の寒梅」
 GALAXY EXPRESS 999

 
 
     
「29年間だけの王女のはなし」
 

 


 
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今回は、インスピレーションに従って書いてみました。

とらさんからいただいた素敵な写真を眺めていたら、ふと思いついたんです。

『29年だけの王女のはなし』

細かいディテールは整ってないし、書ききれてない背景とかもあるけれど

なんというか…あらすじだけでも残しておきたくてアップしました。


朝靄のなかで輝く二つの光。

圧倒的な光と、そこから分け与えられた光

でも、どちらも尊くて

どちらもいとおしい

そんな話が書きたくて…




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■プロローグ


とおい未来のある国のおはなし

その国では新しい王女が戴冠の儀式をひかえていました。

この国では30年毎に誕生する王女が、平和な国を治めることが決まっていました。

なぜ30年毎かというと、その国にだけ伝わる奇跡の果実が30年毎に実るからでした。


その果実を口にしたものは、あらゆる病から身を守ることができたので

王女は30年の間、健やかにその国を治めることができたのでした。


奇跡の果実は、王女の証であり、平和の象徴だったのです。


そんな平和の国に、なんということでしょう…

おそろしい病が蔓延し始めたのです。


多くの国民がその病にかかり、あるものはその命さえ失ってしまうかもしれないほどに

重い苦しみに苛まれていたのでした。




■1.ある男のはなし


その国の、ある男にはひとりの娘がおりました。

まだ幼く、力もない、それでもとても美しく、愛しい娘でした。

そんな娘が、あろうことか、そのおそろしい病にかかってしまったのです。


男は娘の病を治すために、あらゆることをしてまいりましたが、娘の具合はいっこうに

快方に向かいませんでした。



そんな折、ある噂がその国に広まりました。

奇跡の果実なら、あるいはその病は治せるかもしれない、と。



しかし、奇跡の果実は王女しか口にすることはできません。



それでも男は、決心しました。

奇跡の果実を手に入れようと。



闇雲に盗もうとしても無理なことはわかっていました。奇跡の果実を守るために多くの

兵士が警備にあたっていましたから、力業では無理なのです。


手に入れるチャンスがあるとすれば、戴冠式の日、王女がその果実を手にする瞬間しか

ありません。みなが膝をつき、おごそかに新しい王女の誕生を祝う瞬間、その時ばかり

は、全ての国民が黙祷を捧げます。



戴冠式は、10日後に迫っていました。

それまでならば、娘の命はもつかもしれません。



ところが、戴冠式まであと3日というところで

娘の容態が急変しました。

娘の呼吸はとぎれがちになり、ただ、その瞳だけはとても澄んでいて

「とうさま…私は生まれてきて、とうさまと会えて…うれしかった」

と、言うのです。

今にも消え入りそうな命を前にして、男はこう言いました。

「とうさんが、何とかする。約束する。」



男は、夕闇の中飛び出しました。

向かう先はお城です。

ぐるりとあたりを取り囲む城壁を、男は素手で登り始めました。

何度も滑り落ちそうになりながら、男はあたらしい王女の部屋の外までたどり着きま

した。

爪ははがれ、手は血だらけです。



あたらしい王女は月明かりの差し込む部屋で、ベッドに横になっています。

男は懐から短剣を取り出し、静かに王女に近づきました。



すると、目をつむったままあたらしい王女は、静かにこう言いました。

「女性の部屋に入るなら、まず声をおかけなさい。」



■2.あたらしい王女のはなし

男は仰天しました。そして、

短剣をだらりとおろしてこう言いました。

「このような夜分に、失礼します。」

あたらしい王女は、横になったまま言葉を返しました。

「なにか事情がおありなのでしょう?」

「娘が悪い病にかかってしまい、明日をも知れぬ命なのです。」

するとあたらしい王女は、少しだけ明るい表情になってこう言いました。

「あなたのようなかたを待っていました。そのテーブルの上にある果実を持っていきな

 さい。そして病に苦しむ人たちに分けてあげなさい。約束ですよ」


男がテーブルの上を見ると、確かに何か乗っています。

そして、それは紛れもない『奇跡の果実』でした。


あたらしい王女がなぜ、そのような大切なものを譲ってくれるのか、不思議には思いま

したが、娘のことで頭がいっぱいな男は、果実をつかみとるとすぐさまその部屋を立ち

去りました。

「…必ず約束は守ります」

という言葉を残して。




■3.ある救済のはなし

男は、自分の娘に果実をひとくち食べさせました。

すると、娘の頬には赤みがさして、さきほどまでの苦しい表情がウソのように和らいだ

のでした。

もう大丈夫です。


そして、男は、あたらしい王女の約束をはたすことに奔走しました。

病に伏せるものたちの話を聞きだしては、国中を三日三晩、一睡もせずに走り続けまし

た。そして病のものに、一口ずつ奇跡の果実を分け与えたのでした。


その間、国中には奇跡の果実が盗まれた大事件の話も、広がっていきました。


男が捕まったのは、最後の病のものに果実を与えたすぐ後のことでした。



男は、拘束され、城につれていかれました。

日が昇ればあたらしい王女の戴冠式です。

しかし、肝心の果実は男の手によってほとんどが病のものの口に入ってしまいました。



男は、城の前の広場の真ん中に磔にされました。

そして夜明けと共に処刑されることが決まりました。


東の山の稜線が白々としはじめ

兵士達が、処刑用の槍をかまえました。



そして、夜明けの光が城の謁見台を照らしたとき、そこにはひとりの人の姿がありま

した。




(photograph by とらさん)




■4.はたされた約束のはなし

そこにはあたらしい王女が立っていました。

「そこのもの」

あたらしい王女はやさしく問いかけました。

「そこのもの、約束ははたせましたか?」

男は疲労困憊で、意識も朦朧としていましたが、それでもしっかりと顔をあげてこたえ

ました。

「あたらしい王女さまとのお約束、たしかに守りました。」



するとあたらしい王女は安心したように、その場で優雅に膝をつきました。本当は立っ

ていることもできないくらい、衰弱していたのです。

あたらしい王女も重い病だったのです。



男は、最後の力を振り絞って、ぶるりと身をよじりました。

すると、男の袖口から、ぽとりと何かが落ちました。

「処刑される前に、兵士殿に伝えておく。これが奇跡の果実の最後の欠片だ。

 あたらしい王女さまに渡してくれ。はやく!」



兵士たちは、それを手にすると城の中に姿を消しました。

それを見て、男は安心したように深い眠りについたのでした。




■エピローグ

結局戴冠式は1年の間行われませんでした。

まえの王女が去り、あたらしい王女がいない1年の間、この国はたいへんな混乱を迎え

ました。


しかし、まわりの国々は、このあたらしいくにを攻めることはありませんでした。

奇跡の果実が多くの人たちを救ったはなしが伝わっていたからです。

もしも今このくにを攻めたなら、ほかのくにたちが絶対に許さない、そういう不思議で

優美な架空の城壁があったのでした。それはとても強固なものでした。



これ以降、果実を盗んだ男についての記録はないため、どうなったかはわかりません。


あたらしい王女は病から回復すると、このくにで最も敬愛される存在になったという

ことです。そして、この国で唯ひとり任期29年間の王女として歴史に名を刻むこと

になったのでした。



(おわり)






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