人生は一度きりだ。そんなことは、百も承知だ。
そんな決まり事の中で、僕なりに人生を楽しむ方法を今日は紹介しようと思う。
「真実はいつもひとつ!」
とメガネの少年(中味は高校生)が毎週叫んでいるけれど、
これは、まさに真実だ。
でもね、コナンくん。
真実を追究する立場にない者にとって
夢想というものは人生を豊かにする可能性があるんじゃないか
と思ったりするのですよ。
今日はそんなお話。
僕は出会った人について、ものすごく想像をする癖があります。
それは、仕事で出会う人もそうだけれど
駅や空港ですれ違った人とかも、僕にとっては出会いだ。
たとえば、成田空港のゲートですれ違った人の香水の香りからでも
僕は別の世界に旅をすることができる。
香水はとても上品で、
僕は、そのひかえめな香りから、彼女の人生を想像する。
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きっと小学生の頃には、目立たない存在で
生き物係か、図書委員。
勉強はそこそこできて、自分では手をあげないけれど、先生に指名
されたら80点の回答はできるタイプ。
「もっと積極性をもてば伸び代はおおきい。」
とか、通信簿に書かれていたはず。
そんな彼女が、中学1年の11月
外は今日も雨
ふとした気まぐれから、部屋の窓をあけて空を見上げる。
もちろん分厚い雲が見えるばかり。
あー私何やってるんだろ
とかつぶやきながらアルミサッシに手をかけると
近くの交差点に見知らぬものが置いてある
突然の静寂
子犬の鳴声
交差点のダンボールには捨て犬がいるらしい
彼女は、黙って窓を閉じる。
そうだ、宿題をやらなくちゃ。
代数幾何の問題
この補助線を引けば、ほら簡単に解けるじゃない
今日の私って冴えてるわ
…
どうしても集中できないのは何故
…
子犬は今も雨に打たれて鳴いているのかしら
いや、私には関係の無いこと。
だって、うちはアパートだし、犬なんて飼えないもの
忘れよう。雨音が壁に吸い込まれるように、私の今の思いもすぐに
消えてしまう幻のようなもの。
それでも、私は
気が付いたら交差点まで駆け出していた。
点滅する青信号を横目に、横断歩道を渡ってみると
そこには一匹の子犬がずぶ濡れでうずくまっていた。
すぐにでも抱きしめてあげたい。
でも、なぜだか急に周りの視線が気になって
金縛りにあったよう
なんで?
私、何を恥ずかしがってるの
そうだ、傘で顔を隠して近づこう
ダンボールはいつから置かれていたのだろう
子犬はすっかり弱りきっていて、舌をだらんと垂らしている。
交差点の飼育係
交差点の図書委員
私は、
私は、
私は決めたのです
「この子はうちの子です!」
私は空に向かって叫んでいました。
「私のうちの子なんです!」
子犬を抱きかかえて、私は走り出しました。
ひどく冷たい子犬でした。
鳴くこともできないくらい、ぐったりとした子犬を抱えて
私はもう一度声を出して言いました。
「私のうちの子なんです!」
それが、私の初めてのわがままでした。
母親は大反対でした。
「犬なんて、ぜったいダメ。ああ犬なんて!」
お父さんは言いました。
「母さんは小さい頃犬に噛まれたことがあって、だから苦手なんだよ」
私のベッドから持ってきた毛布にくるまって、子犬は眠っていました。
母親は、捨ててきなさい!の一点張り。
お父さんは、テレビでナイターを見ています。
やっぱり私が何としなくては。
「絶対、絶対にたいせつにするから」
私は母親の目を見つめました。母は私を押しつぶすように睨んでいます。
でも、目をそらしたら負けです。
まばたきすら忘れて、見つめあっていたら、涙が出てきました。
そして
やはり母は私の母でした。
「私は面倒みませんからね!」
そう言うと、ぷいときびすを返して台所にいってしまいました。
プシ
と缶ビールを開ける音。「やってらんないわ!」という母のつぶやき。
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ふとしたすれ違いで出会う香水の香りから、そんな人生が僕の脳裏をよぎるのです。
夢想には実際的な価値は無いけれど、でも、ついつい思い描いてしまうのです。
帰国した彼女の家には、老犬が毛布に包まって彼女の帰りを待っていて欲しい。
お母さんも、そんな老犬の背中をなでていて欲しいのです。
「あれからもう9年だねぇ」
なんて言いながら、雨ふる縁側で雲を見上げていて欲しいのです。
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