大銀醸 「星の寒梅」
 GALAXY EXPRESS 999
 
 
     
「ある知らない国のお話」
 

 


 
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あるところに、美しい国がありました。

春には花が咲き、夏には鳥が唄い、秋には果実が実り、冬は一面の銀世界。

そんな国に生きている人たちでしたが、幸せに満ちてはいませんでした。

その訳は、いまからすこし昔に

ある魔物と戦ったことにはじまりました。

この国の人たちはずいぶん勇敢に戦いましたが、最後には負けてしまいました。

それからというもの

この国の隅っこには、魔物の巣ができてしまったのです。

巣の近くに住んでいる人たちは、いつもドキドキして暮らしていました。

なぜなら、魔物はときどき近くの人たちを食べてしまうからでした。



そのとき国王はなにをしていたのでしょう。

もちろん、なにもしませんでした。

なぜなら、国王は魔物に約束をしていたからです。



国王は、魔物に食べられそうになったときに、こう言われたのです。

「わしのいうことに逆らうな。そうしたらお前を食わずにいてやる。

 わしのいうことに逆らうな。そうしたらお前の国を守ってやる。」

だから、国王は魔物に逆らわない約束をしてしまったのです。



それからも魔物は、隅っこの人をときどき食べてしまいました。

でも、隅っこの人のことだから、みんなどうでもいいと思ってました。

たまに悲しむ人もいましたが、そんな気持ちもながくはつづきませんでした。



そんなある日のこと

ある若者がつぶやきました。

「これっておかしくないかな?」

魔物がやっていることがふしぎだとおもったのです。

国王がなにもしないのがふしぎだとおもったのです。



すると国の人たちは、この若者が好きになりはじめました。

そのかわりに今の国王を憎みはじめました。

そして、今の国王を追い出して、この若者を新しい国王にしてしまいました。

でも、国の人たちは、ほんとうは魔物を倒せないだろうとおもっていました。

もしかしたら、きぼうをもちたかったのかもしれません。



ついに若者が魔物とたたかう日がきました。

若者はとまどっていました。

なぜなら若者は勇者でもなく、戦士でもなく、ただの純朴な若者にすぎなかった

からです。

魔物と戦う力なんて、今は、もっていなかったのです。



それでも、隅っこの人たちはとてもワクワクしていました。

これで、魔物に食べられなくなるんだ。



新しい国王になった若者は、魔物の巣にいきました。

ところが、魔物はせせらわらって言いました。

「おまえはだれだ。国王はどうした?」

若者は、はじめて出会う魔物を前にしてひざをガクガクさせながら、言いました。

「わたしは新しい国王だ。ここから出ていけ」

すると、魔物はさもわずらわしそうに言いました。

「この国の国王はわしがえらぶ。おまえは帰れ」

そして、灼熱の鼻息を若者に吹きかけました。

若者はひるみました。そして、そのまま帰ってきてしまいました。



魔物はつぶやきました。

「この国で、はじめてわしに『出ていけ』という国王が出てきおったか。

 少し考えなければならぬかもしれぬ。」



若者が魔物の巣からもどってくると、国の人たちはことの顛末を知り

そして激怒しました。

でも、その怒りは魔物にむけられず、若者にむかったのです。



若者はふくろだたきにあって、しんでしまいました。

それを知って

魔物は、ひとつ安堵の息をついてから、気持ちよさそうにおおきなあくびをしました。

このままここで惰眠をむさぼることにきめこんだのでした。



それから、その国がどうなったのか。だれも知っている人はいないのでした。



(おわり)



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