大銀醸 「星の寒梅」
 GALAXY EXPRESS 999
 
 
     
「 寒梅ショートショート(その3)」
 

 


 
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 さよなら銀河学園物語999(青春の汗と涙の光子園)


                −エピローグ−

どこまでも高い空を雲が流れてゆく。鉄郎は黙ってそれを見上げていた。
金属バットから放たれた快音の余韻が残るマウンド上で、エメラルダスは背後に舞う
打球の行方をメガネ越しに見守っていた。

ボールがスタンド中段で、たん、と乾いた音をたてると
球場全体に時の巡りが戻ってきた。・・・そして、辺りに津波のような歓声が押し寄
せてきた。

「さよなら!さよなら逆転満塁ホームラ〜ン!」

騒がしいだけの実況中継がいまどき懐かしい有機ELのテレビから流れている。一匹
の野良猫が試合終了を知ってか知らずか、大きくひとつあくびをすると、どこへとも
無く歩き去った。



                  −1−

さて話は数週間まえにさかのぼる。

保健室のベッドで惰眠をむさぼる鉄郎に、突如、非情な指令が下ったのだった。
「星野鉄郎!デスボールへの強制参加証だ。ここにハンコを押せ!今すぐにだ!!」
体育の先生とおぼしき体格の良い国家公務員が、書類を差し出しながら言い放った。

面食らった鉄郎は
「あ、あの。サインでいいですか?」
などと、おどおどしながらその紙を受け取ってしまったのであった。

「赤紙ね」
覗き込んだメーテルがぽつりとつぶやいた。あ、鉄郎の眼前には胸の谷間が・・・
「メーテル香水変えた?・・・じゃなくって、この紙はいったいなんだい?」
「通称『デスボール』、正式名称は『生殺与奪高校野球選手権』への参加証よ。」
意味も無く脚を組み替えたりしてメーテルったら。しかし鉄郎には通じない。
「せいさつよだつぅ!」
「そう、この大会で負けた学園は、その生徒全員が殺されてしまうの。今年も、もう
 そんな季節が巡ってきたのね。ふうん」
「日常会話みたいな軽いノリで、なんかものすごいこと言ってないか?」

「えっと相手は・・・ピンクラブラブ学園。ふぅん『PL学園』ね。強いわよ」
「げ、PL・・・ってそういう意味だったのか?」
「もちろんそうよ。それより赤紙に書かれてるポジションは?」
「なになに、『8番』『ライト』『お人よし』『エッチ』ってなんだこれ?」
「だから、鉄郎のポジションよ。キャラクターと言ってもいいわね」
「これから、このキャラでいけっとこと?」
「試合終了まではね。破ったら即刻死刑よ。ふふ」
「ところでさぁメーテル、『エッチ』ってなに?」



                  −2−

そのころPL学園では
「この私にデスボールへの参加要請だと?」
すらりとした細い指で、彼女はそれを受け取った。
「はぁ、コンピュータによる無作為選抜の結果ですので、どうか受理いただきたく」

一瞬迷ったものの、やわらかそうなその唇は肯定のための言葉をつむぎだした。
「いいでしょう。滞在する星の流儀に従うのは旅人の礼儀。お受けしましょう。」
そう言って、受け取った紙を開いた彼女は、思わず叫んでいた。

「なんでやねん!」

ほほに刻まれた傷跡がひくひくと痙攣していた。伏目がちの長いまつ毛が驚愕に震え
ているようだった。



                  −3−

そして試合の数日前のことであるが、鉄郎は敵地PL学園内の電波研究会部室に忍び
込んでいた。敵状偵察である。

「このロッカーをどかすと・・・おお!やっぱりあった。これこそが俺の捜し求めて
 いたもの。くふふ」
部室の壁に長年かけられて秘密裏に掘削された直径2cmの穴。これが鉄郎のキャラ
にとって最重要のアイテムである。RPGならここで「しらべる」のコマンドを選択
することになる。男の勘、おそるべしなのである。

部室の隣は、ご想像どおり「ざわめく女子更衣室」なのであった。もちろんそこには
体育授業前の着替え風景が!むふふ
鉄郎は視覚中枢の感度を最大限に高めた状態で、その覗き穴に神経を集中させた。
初夏の日差しがカーテンの隙間から差し込んでいる。いっそ幻想的と言っても良いか
もしれない。

「ねぇねぇ、放課後あんみつ食べに行かない?」
「えー?やだ太るしぃ。ゆっこは痩せてるからいいけど、あたしぃ最近服キツイしぃ」
「そういえば、ふぅちゃん胸大きくなってない?ほれ、あたいにみせてみそ」
「きゃー触らないでよ。マジ変態ぽくね?」

鉄郎は興奮のるつぼに飲み込まれていた。
「うっひょー!さ、最近の高校生は発育がええのぅ。うを!あそこにいるのわ!」
敵地に意外な知人発見である。みんなから少し距離をおいて着替えている、細身の体
つきのわりに、大人の魅力がそこはかとなく漂っているあの人は?

「クィーンエメラルダス!どうしてここに?」

ブレザーをさばさばと脱ぎ捨てる姿に鉄郎は溢れる期待を隠せなかった。

本当はこんなことしたくないんだけど、赤紙に書かれている以上このキャラを止める
わけにはいかないのである。止めたら死刑だから、ホントに、本意ではないのだけれ
ど、やむを得ず、なめまわすように見つめなければならないのだ!

あぁ背中のラインがニントモなまめかしいナリ・・・

エメラルダスは、ついに後ろ手をまわしてブラのホックをはずしにかかった。鉄郎の
興奮も最高潮である。生きてて良かった、ココロからそう実感する人生最大の至福を
味わう瞬間である。透き通るように白い肌にわくわく〜(本当に演技なのか鉄郎!)

「あん、うまくはずれないわ」
そんなつぶやき声が聞こえてきそうな、もどかしい動作である。恥ずかしがることな
ど何も無い。いざ青少年が期待するそのシーンへ突き進むのみだ!だがエメラルダス
は今まで体験したことのない、ざわりとした邪悪さを感じて突然部屋を飛び出した!

「ぎぇー!なんなんだ、もうちょっと・・・もうちょっとだったのにぃ」
いやいやながらにエッチキャラを演じている鉄郎は失意に肩を落とした。と同時に、
背後で部室の扉が弾けとんだ。

「なに覗いとんのぉ!めっちゃ腹たつわぁ!」



                  −4−

エメラルダスが飛び込んできた時には、覗き穴から3メートル飛びのいた鉄郎であっ
た。換算すると光速を超えていたが、これはメーテル先生に教わった技である。

「鉄郎・・・ここでなにしてん?」
「エメラルダス・・・」
「まさか、おまはんが覗いてたんちゃうやろな?」
「言葉づかいおかしいよ」
「そないなことあらしまへんで。うちかて好きでこないなことしてるんとちゃいます」
そう呟いた彼女は赤紙を取り出した。そこにはこう記されていた。
「『3番』『ピッチャー』『関西弁』『めがねっ子ぉ』?」
「難儀な話やわぁ、ホンマのはなし・・・」

鎖骨まわりの肌の白さがあらわにされたまま、エメラルダスはツンとした表情でブラ
とブルマのみの姿で仁王立ちするのであった。



                  −5−

PL学園から帰ってきた鉄郎は保健室に呼び出された。
「エメラルダスに会ったのね。どうだった?」
「たぶんCカップ・・・じゃなくて、アキバなら萌え〜!って感じだったよ」
「ふうん。イメチェンしたんだ?」
「ああ。それよりもさぁ、なんで学園の全員が処刑されるのさ?」
メーテルは答えず、そっと席を立つと両手に紅茶を持って戻ってきた。

「何から話したら良いかしら?」
「長い話はちょっと苦手なんだけど」
「じゃぁ要点だけ話すわ。この星はね、かつて恐ろしい軍事国家としてそれはそれは
 周りの星々から恐れられていたの。でもね、この星はやりすぎたの。だから周りの
 星たちはみんな去っていったわ。もちろん全ての資源を根こそぎ持ち去ってね。
 そして気がついたら、この星はもうすっかり今の人口を支えられない星になってい
 たの。この10年以内に、95%の人がいなくならないと、この星は全滅するって
 いうわけ。そのために始まったのがデスボールなの。」
語り終えたメーテルは、紅茶を一口すすった。とても良い香りがした。



                  −6−

さて試合当日である。しかも9回裏2アウト満塁。鉄郎の学園はPL学園に2点差を
つけられて絶体絶命のピンチなのである。
しかしながら一打同点あるいは逆転のチャンスともいえる。

「てつろはん、勝負は時の運やさかい、恨みっこなしやでぇ」
優雅な仕草でメガネ越しにエメラルダスがマウンド上で不適な笑みを浮かべた。

「ほな、いっくでぇぇ!」

ぶわりと砂塵が舞い上がった。

鉄郎はバットを強く握り締めた。
そして、無心でバットを振りぬいた。とても良い音が・・・した。



                  −8−

そして今、鉄郎は学園惑星を後にして再び999での旅路に戻っていた。
万歳三唱に送られて、永遠の勇者の称号とともに全校生徒が敬礼しているのがわかる

「ねぇメーテルぅ。やっぱりエメラルダスの学園は全員処刑されてしまったのかな?」
メーテルは肩と声を震わせていた。
「そ、そうね。そういうことになるわね」
目尻には涙がにじんでいる。

鉄郎は自分が守った命と奪った命のはざまで葛藤していた。
「お、俺は正しいことをしたのか?そうなのか?」

すると背後でガラーっと扉が開く音がした。

「いやぁ、ホンマやられたでぇ!」
ぅえ?この声は?エメラルダス!?
「ごめんよ、エメラルダスの同級生の命をうばってしまって・・・」
「はぁ、なに言うてん?もしかして新しいギャグかいな?」

鉄郎はデスボールの趣旨を説明した。そのとたん!エメラルダスが吹き出した
「おまはん信じたん?野球の結果で処刑?普通あらしまへんやろ!」
「え?じゃぁ」
「うそや、うそ。ありえへんて!誰から聞いたん?そないなデマ」
鉄郎は、うつむき、口をとんがらがせて言った。
「・・・・メーテル」
「純情や!だれか〜!!ここに純情少年がおるでぇ!国宝級の純度100%や!」

メーテルはついに涙をぬぐって口を開いた
「ご、ごめんなさい鉄郎。まさか・・・信じるとは思わなかったのよ」
「ええ子やん。むっちゃ可愛いやんか。うちのタイプやわぁ」



                  −9−

念のため補足しておこう。

メーテルが言ったことは、あながち嘘ではないのだ。確かに数世紀前にあの星は実際
に人口を減らすための壮絶なデスボールを繰り広げていたのだ。もっとも最近はそん
な必要性も薄れてきたが、自らの「驕り」を抑制するために年に一度の行事として
形式的なデスボールを続けているのである。(もちろん処刑は無しで)

「っちゅーわけやねん。せやからテツロはんは、なーんにも悩まんでええちゅうこっ
 ちゃ。」
今回、一番迷惑をこうむったであろうエメラルダスが、そう言ってくれるなら大成功
とも言える。

それでは最後に、管理人が受け取った赤紙をお見せしよう。ポジションは

『ショートショート』

以上である。




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