大銀醸 「星の寒梅」
 GALAXY EXPRESS 999
 
 
     
「 寒梅ショートショート(その1)」
 

 


 
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「浮いてる鉄郎」 あるいは プロローグ


                  −0−

無造作にシャツを脱いだのは、背中に違和感を覚えたからなのでした。
まだ幼さの残る少年の後姿に、突然現れたもの。それは小さな『白い翼』だった。

少年の名は『星野鉄郎』。今は銀河鉄道999で大宇宙を巡る旅のさなかにあった。
列車の窓に映るものは無造作にちりばめられた星々。そして...
流れるような金色の髪が、その輝きと競い合うかように現れた。

鉄郎は振り向いた。
「ねぇ、メーテル。背中に変なものが生えてきたんだけど」
「あらあら、可愛らしいわね。でも素敵よ」
「そ、そうかなぁ(照)」
「空でも飛べるのかしら?」
もう999自体が空飛んでますけど、と思った鉄郎であったが、ここは沈黙。
大人の対応である。ふふん。
と、得意になっている少年の姿を見つめるメーテルの、その潤んだ瞳と長いまつ毛は
この世の至宝なのである。それがこの世の真理なのである。

などと誰かが熱く語っているうちに、すでに車内は夜時間に。車内の照明はおとされ
鉄郎はたぶん三等車で静かに眠りについている頃だった。


                  −1−

うーん、背中がむずむずして眠れないよぉ。
そう呟きつつ鉄郎は背中の羽をパタパタさせながら、自分の寝顔を見つめていた。

「あれ?どうして自分の寝顔が見られるんだろう?」
もう一度見つめなおしてみたけれど、やはり眠りこけた自分の姿が目の前にある。

もしかしてこれは
『ココロが身体から浮いてるのかしらん?』
...ってことわ〜〜
『つまり、覗きたい放題(!?)』

さっそく鉄郎は999のシャワールームへ。
タイミング良く、誰かがシャワーを浴びている。むふふである。
「フンフフン〜♪」
楽しそうである。こ、この声はウエイトレスのクレアさん!

鉄郎は浴室のドアをそっとすり抜けた。実体がないから全ての障壁は無効なのだ。
さて、そこには!クレアの一糸纏わぬ姿が!どきどき...

って、これって。いつものクレアじゃん。...くそ、つまらん。
鉄郎はため息をつくと、シャワールームを後にして、次の場所に向かった。
そうだ、車内を抜けて外の宇宙に飛び出してみよう。
ふわふわと浮かぶ身体で、そんな決意をしていたのであった。


                  −2−

どうせなら、普段絶対に忍び込めない場所に行ってみよう。
不思議と身体が軽い。だってココロだけだから当然か。あるいは、ここが既に
列車の外の宇宙空間だからなのだろうか?はるか遠くに999の姿が見える。
しばしの間、さよなら999。

鉄郎は何千光年を越えて、あっという間に目的の場所にたどり着いた。

さて、ここは巨大な宇宙戦艦のブリッジ。
壁一面のスクリーンも今は沈黙しているようだ。
そんなブリッジの片隅に髑髏のレリーフが施された一枚の扉があった。
この先に、目的の場所がある。

それは、宇宙で最高に危険で最強の魔女の部屋。
いつも凛々しくて、近づきがたいひとだけれど、不意の訪問に彼女はどんな姿を
見せてくれるのだろうか?
彼女の名は知る人ぞ知る『クイーンエメラルダス』

普段はクールなエメラルダスも、一人きりで宇宙を航行している時には、きっと
気を抜いているはず。トレーナー姿でメロドラマとかを見ているとか、あるいは
ジャージ姿でポテチとかをポリポリ食べているに違いない。くふふ。そんな無鉄
砲な想像をめぐらせつつ、鉄郎は目的の扉をすり抜けた。

しかし、そこには意外な風景が。


                  −3−

鉄郎の目の前には、無数のメカニズムが明滅していた。
あれ、エメラルダスはどこかなぁ?
部屋の中にあるのは、硬質的な輝きをしたマニアックな寝台のみ。ガラス張りの
その寝台の中で、エメラルダスは静かに冷たくなっていた。

「エ、エメラルダスが、死んだ・・・?」

とても信じられないが、実は信じる必要も無い。単なるコールドスリープである。
※コールドスリープとは、体温を極端に低下させることで生体活動のサイクルを
 一時停止させる生命維持方法のこと。いわゆる『冬眠』である。
長い宇宙の旅では良くあることだ。しかし、鉄郎はそれを知る由も無い。

「そんな、エメラルダス....」
目にいっぱいの涙をためて、鉄郎はその死に顔(本当は寝顔)を見つめていたの
だが、そこでとんでもないことが起こった。

『わたしの部屋に忍び込んだのは、だれ?』
先ほどまで平穏に閉じられていたエメラルダスの瞳が、かっ、と見開かれた!

「ひいいいい!」


                  −4−

宇宙の裏側まで通り越して、鉄郎は銀河鉄道999へと逃げ帰ってきた。
「あぁ、怖かった」

そんな鉄郎の前に、立ちふさがった丸い制服の男がいた。
「え〜次の停車駅は〜『浮気の虫〜』『浮気の虫』です。ハイ。」
「ふぇ?」
鉄郎は顔をあげて呟いた。
「浮気の虫?変な名前の停車駅だね、車掌さん。」
「あ、鉄郎さん?。この星に近づくと、浮気の虫を持つ人はですねぇ、背中に、
 羽が生えるんですよ。ハイ。」
「ぎく!」

「誰かのお風呂を覗きたいとか、誰かの寝室に忍び込みたいとかそういう低俗で
 劣悪で、どうしようもなく堕落した願望を持っている人は、特に注意したほう
 がいいんです。」
「えらい言われようだなぁ」

肩を落として客車に戻る鉄郎は、さらなる衝撃を受けることになる。

最も愛するあの人の後姿に、これ以上ないほどの立派な羽が生えていたのだ。
漆黒の輝きを見せる伸びやかな翼のつながる根元には抱きすくめたくなる背中と
金色の長い髪。
「メ。メーテル。そのツバサは。いったい...」
「違うの、違うのよ鉄郎!わたしはただ、可愛い男の子が好きで・好きで・大好
 きで、言わんやおや、それはもう絶対的に誰にも止められないってだけのこと
 なのよ。」
「言葉使いおかしいよメーテル。つまりそれは、えとえと、いわゆる確信犯?
 きみも浮気の虫をココロに持っているってことなのか?」
「ちょっとした気まぐれで宇宙を千回りしてこようかな、って思っただけなの」
「え〜?一緒に旅してる僕を差しおいて、そんなことしようだなんて!ひどいよ。
 ていうか千回りってなんだよ!一回りを1000回も繰返したいってこと?」
「そんなに私ばかり責めないで。鉄郎だって、クレアさんのお風呂覗いてたんで
 しょ。わたし知ってるんだから!」
「なにおー!じゃぁ言わせてもらうけど、メーテルだって×××の××が×××
 ××してたじゃないか!。それに、クレアさんを覗いたのはお風呂じゃなくて
 シャワーだよーだ!」(子供の喧嘩か!)
「なによ!鉄郎なんて本当は××××××で×××のくせに、結局×××なのに
 ××したりして、まったく××××だわ!」

・・・何かがおかしい。メーテルがこんな非道いことを言うはずがない。
もしかしてこれは。


                  −5−

がばっ!っと三等車の座席から飛び起きた鉄郎は、ふるふると頭を振った。
長い夢を見ていたみたいだ。ただ、何故か、どんな夢だったのか思い出せない。

ふと気になって背中に手を伸ばしてみたけれど、いつもどおりのすべすべした肌
触りなのでした。

「どうしたの鉄郎。浮かない顔して...」
「そうさ...浮かないさ。翼を無くしちまったからね。もう...浮かないさ。」

我知らず、鉄郎の口から言葉がこぼれおちたのでした。



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