=0=
昔むかし…この国にひとりの少年がやってきた。
背はあまり高くない。服装だってくたびれているし、なによりも
気になるのは、彼のやつれかただった。長い旅をしてきたんだろ
うね。
ただ、気になったのは、その子の瞳。
燃えるように、まっすぐで…。ただものじゃないと思ったね。
その少年は自分のことを「鉄郎」と名乗っていたよ。
あ、そうそう、僕は白馬の『ヒグラシ』だ。
なんで、馬がしゃべるのかって?言葉は人間のものだけじゃない
んだぜ。
時には感性に優れた人間がいて、僕の言葉を理解してくれること
があるけど、鉄郎とも会話ができたのは嬉しかったね。
どういういきさつかは知らないけど、僕は彼に選ばれて長い旅に
出ることになったんだ。
=1=
少しだけ、当時の話をしよう。
そのころ、僕らの国はちょっと大変なことになっていたんだ。
王様には、ひとりのお姫様がいたんだけど、
そのお姫様が14歳の誕生日を迎えたときに事件は起こったのだ。
お姫様の名前は『クレア姫』
姫様の美しさは、誰もがみな知るところだったけれど、ほんとう
に輝くような素晴らしさだったよ!異国の詩人が『月の女神』に
例えていたけれど、そんなものではとても足りないほどだったよ。
その笑顔一瞬だけで、国中のみんなが幸せで満ち足りていたんだ。
…で、事件の話だね。
今思い出しても、背筋がぞっとするような出来事だったよ。
お姫様の美しさを妬(ねた)んだ魔法使いが、14歳の誕生日の
その日、大切なものを奪って逃げたんだ。
その大切なものとは…みんなの
『夢の器』
人の心の中には、大切な器があって、それが想いを受け止めるの
だときいているけど、その大切なものを
魔法使いは奪っていったんだ。
それからというもの、僕らの国の時間は止まってしまった。
人々の「夢」「希望」「愛情」「喜び」は、すべて行き場を失っ
てしまったんだ。
世界は、さびしく乾いた悲しみだけが存在を許された。
それから300年が過ぎた。
誰も死なない傷つかない。でも、そこには喜びの欠片すらもない。
僕たちは、希望を求めていた。
この永遠の牢獄から救ってくれる何者かを!…こころから
=2=
僕は貧相な馬で、色が白いことを除けばなんのとりえも無い、
つまらない存在だった。
そんな僕に、運命的な出会いがおとずれる。
城門に人影が見えた瞬間、僕は、なんでか胸がどきりとしたんだ。
つまらない旅人だ。それなのに、僕は心が動いたんだ。
旅人は、マントの埃を払いながらこう言った。
「今日もいい日ですね」
悲しみしか存在しないこの国で、彼はそう言ったのだ。
人々は驚愕し、旅人はすぐさま王宮へと案内された。
王は言った。
「旅のおかた、この国は悲しみで包まれておる。その国に来て
世界に感謝の気持ちを持てるのは何故じゃ?」
鉄郎はこたえた。
「知らない」
王は神に祈りを捧げ、旅人に300年前の出来事を話した。
そして、「夢の器」を取り戻してくれるように頼んだのだった。
「僕には、そんなことができるとは思えません」
鉄郎は、即座にこたえた。
王はうろたえた。
その時、信じられないことが起こった。
14歳の誕生日以来、自分の部屋から一歩たりとも外へは出る
ことがなかった、クレア姫が姿を現したのだった。
クレア姫は「夢の器」を奪われてから、胸の内の空虚さをずっと
ずっと抱えて眠っていた。
そして、彼女の姿は…まるで硝子のように透き通って見えたので
した。そして、そのさまは、この世のものとは思えないほど華麗
で、悲しいものでした。
「あ、…あの、旅のおかた」
クリスタルのような、響きの前に、鉄郎は緊張した。
「は、はい!」
「目の前のひとりを救えなくて、なんの王でしょう?…わたしは
王の娘として、ひとりでもいい、この国の民を救いたいのです。
わかっていただけますか?」
=3=
≪『ヒグラシ』馬上での会話≫
馬:「色情きょ〜」
鉄:「なに?」
馬:「わ!僕の言葉がわかるんだ?」
鉄:「わかりたくも無いけどね」
馬:「お姫様の魅力にまいっちゃったのかな?旅人さん」
鉄:「そんなんじゃ…」
馬:「『みなさんの夢の器を取り戻してきます』なんて言っちゃって」
鉄:「うっさいなー!あの状況で、それ以外のこたえがあるかよ?」
馬:「今向かっているのは、魔剣の丘だよ、怪物がいるんだよ」
鉄:「乗りかかった船さ。やるしかないさ」
馬:「お姫様のために?」
鉄:「…それより馬!おまえこそ、お姫様に「ほ」の字なのか?」
馬:「お前とはちがうよ、一緒にするな!
お、俺は確かにちょっと体力は無いけど、性格は多少悪い程度
で…。でもそんな俺が生まれたときに、体力が無くて処分され
そうになったときに、姫様はこう言ったんだ
『真っ白で素敵な子馬さんね』
そして、今俺はここにいる。だから俺は姫様のためなら、この
命なんて惜しくは無いんだ!」
鉄:「びっくりしたなぁ」
馬:「俺様の志の高さに?」
鉄:「馬って、こんなに長いセリフしゃべれるんだー?」
馬:「…」
遠くに、不気味な黒雲が広がってきた。
馬:「あの雲の下に、魔剣の守護神『ドリーギア』がいるんだ」
鉄:「そ、そうなのか」
馬:「おじけづいたのか鉄郎」
鉄:「…って、おまえ、後ろに向かって走ってるぞ!」
馬:「はっ!」
|