大銀醸 「星の寒梅」
 GALAXY EXPRESS 999
 
 
     
新春スペシャルプログラム「ブフテキ悠久紀行(8)」
 
 
 
 
21.汽笛…そして…

メーテルが先につぶやいた。
「聞こえた…?鉄郎」
鉄郎は、まだ信じられないという顔をして…こたえた。
「あぁ…聞こえたさ。メーテル」
ふたりは窓辺に急いだ!

ふたりの視界におぼろげな姿を見せたのは、まぎれもない銀河鉄道
999号であった。
「鉄郎!急ぎましょ!」
「ああ」
鉄郎は右手にトランクをつかみ、左手にメーテルの手のひらを包み
込み、そして走り出した。

駅へと向かう雪道を、ふたりは飛ぶように走った。
雪の輝きが、ふたりを祝福しているようだった。

「鉄郎さーん!、メーテルさーん!」
この声は車掌さんだ。どうして銀河鉄道が戻って来てくれたのかは
わからないけれど、でも、今はただ走るしかない。

確かに本物の銀河鉄道999だった。

鉄郎とメーテルを乗せると、車掌さんはプラットホームにしばらく
たたずみ、他の乗客がいないことを確かめて、そして発車の合図を
出した。
「おかしいですねぇ…」
車掌さんはしきりに首をかしげている。
「この星から救難信号が出されたので、あわてて戻ってきたんですけ
 ど…おふたりしか乗られないなんて…」

鉄郎は車掌に飛びついた!
「きゅ、救難信号?」
「わわっ、て、鉄郎さん…この星はもうすぐ消滅するんですよね?」
「…消滅は…しないかもしれない」
すると、車掌の目がすーっと細くなった。
「ニセの救難信号は死刑ですよ!」
鉄郎は、その目の鋭さにたじろいだ…。
「お…おれじゃないからね!」
「そんなことはわかっています。救難信号を出した男は、その…なん
 ていうか、山みたいに大きい男でしたよ。」
「え?」
「それに…そう!左の頬に大きな傷跡がありましたからね!ハイ。」

車掌は、さっそく指名手配の手続きを始めようとしている。
鉄郎は、
「だめだー!」
と、それをとめようとしたが、車掌は、そんな鉄郎におかまいなしに
端末操作をしている。鉄郎は車掌の邪魔をしようと必死だったが車掌
は操作を続け、ついに最後のキーを押して全宇宙に向けて指名手配の
手続きを完了しようとしていた。
車掌の指が、最後のキーを押そうとした瞬間。車掌の手首が意外にも
強い力で止められた。

車掌の手を握り締めたメーテルは、車掌の鋭い視線に負けないくらい
の、まるで研ぎ澄まされた刃物のような瞳を車掌に向けていた。
「おねがい、車掌さん…やめて」
「しかし…ニセの救難信号は…」
メーテルの目線がさらに鋭くなった。
「ひ…」
車掌はたちすくみ、端末から手を離し、その場にへたり込んだ。
「わ、わ、わ、わかりました。乗務員は乗客に従うものでした…。」

鉄郎も、ほっとして車掌と背中を合わせるように、床へとへたり込ん
だのであった。

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22.銀河鉄道管理局からの通信とは

窓の外は再び星の海である。
鉄郎は、車掌に聞きたいことがあった。だから、そのまま聞いてみた。

「『ブフテキの星』は、銀河鉄道の停車駅だったの?」
「どうやら停車命令を銀河鉄道管理局が出していないことは間違いない
 ようです。」
車掌は、申し訳なさそうにこたえた。

「じゃぁ、やっぱりあの信号はニセモノだったの?」
「いや、それはありえません。」
「う〜ん。銀河鉄道管理局は信号を出していないのに、銀河鉄道は正し
 い信号を受け取ったってこと。」
「さすがは鉄郎さん、そのとおりですよ。」
「う〜ん。『さすが』とか言われても全然理解できていないんだけど…」
メーテルがそんな会話を耳にして、ふと、思いついたことを口にした。
「過去から現在まで、信号は出されていないってことは、
 つまり、未来からの信号ってことかしら?」
「可能性からすると、それしかありえません。ハイ。」

未来で発信された停車駅の情報が、時間をさかのぼって今の銀河鉄道に
間違って届いてしまった…ということらしい。

「ってことは、未来のブフテキの星は…永久凍土の世界から解放される
 んだね。」
「おそらくそうでしょう。数万年も凍りついた世界を銀河鉄道が停車駅
 として認めることはないでしょうから。ハイ。」
「そうなんだ!やった!あの星はいつか生まれ変わるんだね。」

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23.未来のブフテキの星

鉄郎とメーテルは銀河鉄道の三等車のソファに腰掛けて、星の海を黙っ
て見つめていた。窓に映るお互いの姿を見つめて、時折恥ずかしそうに
目を伏せるふたりであった。

そんな甘い沈黙にまったく気づかない車掌がやってきて、話し始めた。
「えー…先ほど、未来からの通信のつづきが届きました。」
鉄郎はうなづいて、車掌につづきを話すようにうながした。
「じゃ、読みますね。『ブフテキの星』を銀河鉄道の停車駅として承認
 する。従来この星は短い春と、長い冬を繰り返し、特に冬においては
 生息する生物が全て眠りについて活動を停止していたが、現在におい
 てはその活動停止の問題が解消されたためである。
 生物が長い眠りから解放されたのは、冬になると突如現れる金色の獣
 によるものと銀河鉄道管理局は分析する…」
鉄郎は飛び上がった。
「金色の獣だって?」
「そう書いてあります。ハイ」
その先を車掌が説明していたが、鉄郎の耳には届いていなかった。
あの星に何が起こったのか、聞かなくてもわかるからだ。

ブフテキの夢はかなったんだ!

車掌は通信の内容を読み上げていたが、最後のところで首をかしげていた。
「どうしたのかしら?」
メーテルがたずねた。
「え、いや…その金色の獣の鳴き声について報告されているんですけど、
 なんと言うか…不思議な鳴きかたなもので…」
メーテルと鉄郎は声をそろえて言った。
「お願い、教えてー!」

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24.エピローグ

さて、あれからどれだけの時が過ぎたのか?数千年か、数万年か?
とにかく遥かな未来であることには間違いが無い。

ここは、生まれ変わったブフテキの星である。
相変わらず雪深い冬がおとずれているが、生き物たちは森に守られて今日
も生命の輝きに満ちている。

遠くから汽笛の音が響いてきた。
雪原でつかの間の眠りについていた金色の獣が首をもたげて、汽笛の流れ
てくる空を見上げた。この獣は滅多に鳴かないことで知られている。でも
本当に嬉しい時だけはこの上なく美しい声で鳴くのだ。
銀河鉄道が上空を横切り、「999」のプレートが淡い軌跡を描くのを
見たとき、獣は立ち上がり、そしてよく響く鳴声をあげた。

「アリガト テツロウ…」

その声は、山々にこだまし、幾重にも重なっていった。

《おわり》
 

 
 
最後まで読んでくださった方がいたら感謝です〜(^^)
 
 
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