| |
18.窓辺に待つひと
鉄郎は空を見上げた。どこまでも白い空だった。
おれは、決してきみを忘れることはないだろう…
鉄郎は歩き始めた。雪は深く、足取りは重かったがどうにかホテル
までたどり着くことができた。ほんの数時間前にはここの窓辺には
メーテルがいたのだ。だが、今となっては…
鉄郎はホテルの窓に目を向けた。
ホテルの窓辺にはひとりの人影が見えた。美しい人だった。太陽の
ように美しい金色の髪。頬杖をついて鉄郎を見つめている。
鉄郎は走り出した。
「メーテル!?」
走るにつれて、彼女の姿がはっきりとしてくる。間違いない。
メーテルだ。
鉄郎は、窓の真下まで来ると、叫んだ。
「メーテル!」
メーテルは、そんな鉄郎を見つめて言った。
「おかえりなさい、鉄郎。そこは寒いわ、上がってらっしゃい。」
部屋に入ると、温かい紅茶を差し出しながら微笑むメーテルが
待っていた。鉄郎はマントを脱ぎ捨て…
「メーテル…どうして…?」
と呟いた。銀河鉄道はもう、とっくに発車してしまっているのだ。
「この星はもうすぐ冬に閉ざされてしまうんだよ!」
メーテルは鉄郎を見つめて、そして言った。
「知ってるわ。」
鉄郎は、目をみはった。
「…どうして?…どうして銀河鉄道に乗らなかったんだ!」
「鉄郎を待っていたのよ。そしたら、乗り遅れちゃった。」
メーテルは、ふふふと微笑み…そして鉄郎を見つめた。
鉄郎もメーテルを見つめた。鉄郎の瞳からは、涙がこぼれた。
「メーテルは、…ばかだよ。」
「どうしてかしら?」
「だって、おれみたいな奴を待って、銀河鉄道に乗り遅れるなん
て…。」
「そうね。そうかもしれないわね。」
鉄郎は、涙をぽろぽろこぼしている。メーテルは目を細めた。
「でも、わたしは…ただ、友だちを大切にする素敵な男性を待っ
ていたかっただけよ。」
吹雪で窓がカタカタと乾いた音をたてていた。
----------
19.脱出への道
銀河鉄道を呼び戻すことはできないのか?鉄郎は、素朴な疑問を
メーテルにぶつけてみた。
すると、メーテルはこともなげに答えた。
「たったひとつだけ方法があるわ…」
なんだ、あるのか!鉄郎は勢い込んで聞いてみた。
「どうすればいいのさ?さっそく呼び戻そうよ!」
「この星から救難信号を送るの。そうすれば、この近くの宇宙を
航行する宇宙船が助けに来てくれるわ。」
「じゃあ、さっそく救難信号を出そうよ!」
メーテルは、しかし目を伏せたままこう言った。
「救難信号はその星が消滅するときにしか出すことはできないの。」
鉄郎は…考えて…言った。
「もしも、救難信号を出したのにその星が消滅しなかったら…どう
なるの?」
「信号を出した者は死刑になるわ。」
鉄郎は、また少し考えてから、言った。
「おれが救難信号を出すよ。メーテルはこの星から脱出してくれ。」
メーテルは、鉄郎を見つめた。そして、首を振って、もう一度鉄郎
に目を向けた。
「鉄郎。あなたのその気持ち、とても…とても…うれしいわ。
でも、あなたを死なせるわけにはいかないわ。」
----------
20.鉄郎の告白
鉄郎とメーテルは見つめあったまま、じっとしていた。
鉄郎は旅を続けたかった。しかし、それは愛する人と一緒で無ければ
意味のないものだ。…だから、こんな言葉になった。
「メーテル…おれ、母さんが大好きだったんだよ。母さんと銀河鉄道
に乗って、この宇宙の旅がしたかったんだ。」
鉄郎は、母のことを想い、そしてメーテルのことを想った。
「だから、まるで母さんの生まれかわりみたいなメーテルと旅ができ
て…おれは、最初、とても幸せだったんだ…」
メーテルは鉄郎を見つめて、つぶやいた。
「…最初?」
「あぁ、メーテルにはあやまらなくちゃいけないね。おれはメーテル
と母さんの思い出を重ねていたのかもしれないよ。でも…」
メーテルは、鉄郎の真摯な瞳の輝きに戸惑い、目を伏せた。
「…でも、最初のその思いとは違った気持ちで、今はきみのことを
感じることができるんだ。おれ……おれ……」
鉄郎は、手の指が真っ白になるくらいこぶしを握り締めて…言った。
「きみを…メーテルを…守りたいんだ。それは、きみが母さんに似て
いるからじゃなくて…、きみがメーテルだからだよ。」
鉄郎はそれだけ言うと、ふぅ〜とため息をついた。
メーテルは顔をおさえて、ふふふ…と笑い出した。
「ん…もう、鉄郎ったら、なに冗談言ってるのよ!聞いてるこっちが
ドキドキしちゃったじゃないの!」
「なっ!おっおれは本気で…!」
しかし、その時鉄郎は見たのだ…メーテルの瞳からぽろぽろとこぼれ
る涙の輝きを。涙はあとからあとから湧き出てきて、メーテルはそれ
を隠そうと一生懸命なんだけど…涙はそうとは知らず、次から次へと
あふれ出てきた。
それだけで充分だった。
鉄郎とメーテルは永いこと見つめあっていた。
その時、遠くで汽笛が聞こえたような気がした。…そら耳か…幻聴?
ホォォォォ…
|
| |
|